俺は、アル、いやアルフと結婚するつもりはなかった。たとえ公然と処女を奪われてもだ。
しかし陛下が、だってしちゃったんだし、誘拐してこない初の花嫁になりそうなんだし……|ω・)
外国も誘拐ばかりする国って、白い目で見ているんだよ。そろそろ国内で花嫁見つけようよ……
変態だって分かっていて勝負受けたんだろう? 卑怯なことするに決まっているよ。(卑怯なこと=一番初めに会った時、時間を戻して魔力を俺と同等に見せかけて油断をさせて決闘に持ち込んだこと)
だから責任とって結婚して。

と、陛下から頼まれて、色んな圧力があり、仕方がなくアルフと結婚する事になった。

長男アンリが生まれるまでは俺も我慢した。アルフは俺がアルフを受け入れて円満な結婚生活をしていると勝手に思っているようだった。

「アンリも生まれたことだし、もうお褥(しとね)すべりをさせてくれ」

「お褥すべりって何?」

「夜の生活を辞退するということだ」

「Σ(゚口゚; な、何で?????????????」

「お前が嫌いだからだ。公爵家の男のくせに卑怯で、変態で、男らしくなく」

「だって今まで上手くやってきたのに、何でっ!!!??? 私のことを結婚して愛してくれていたのではなかったのか!!!???」

「結果的に勝負を受け入れたのは俺で、俺が負けたせいでお前を受け入れ、お前の純潔を奪った責任を取ってきただけだ。アンリが出来て、もう俺の役目はおわ」

「終わってないよ! 終わってない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 子どもなんかどうでもいいからオーレリーが欲しいんだっ!!!!!!!!!! お願いだから私を捨てないでくれ!!!!」

「離婚はしないが、夫婦生活は終わりだ」

そう宣告し、アンリを連れてたくさんある領地の城の一つに移り住んだ。実家には母がいるのでできるだけ会いたくなかった。

しかし離れて暮らそうにも、何度城を移り住んでもアルフが着いて来る。結局別居しようにも出来ないままだった。

「私のどこが悪かったんだ?……何でも直すからっ」

「変態なところが」

「結婚してから変態は直したつもりだっ!」

「今も勃起しているだろ?」

「だってだって、させてくれないから(´;ω;`) でも、アンリが生まれるまでは何時も勃起はしていなかった………」

アンリが生まれるまでは普通の夫だった。部隊にいた頃のように46時中勃起していたわけでもなく、恥ずかしいことをしていたわけでもない。だから今頃になって俺がアルフを拒否するのがどうしても納得できないのかもしれない。

そう、普通の夫婦生活をしていた。アルフが今頃俺がこんな事を言いだすなんて夢にも思わないほどに。

「………アルフ、俺はな……普通じゃないんだ。お前と普通の夫婦みたいに暮らせない」

母のこと、父のことはアルフにも話すことじゃないと思う。話したって何も変わらないし、俺の決意は変わらない。
俺は怖いんだ。いずれ母のように、父以外はどうでも良くなって全てを壊しかねないかと思うと。
俺みたいな人間は好きな人と一緒になってはいけない。

とは言っても、アルフも納得しなかった。
夫婦生活を終わらせる事を拒み、泣いて、俺に縋ってきた。
半年ほどは俺も鬼になって拒否し続けた。そもそも回りの圧力が高まっていたからといって、やはりアルフと結婚すべきじゃなかったのだ。
なのに結婚してしまったのはやはり俺がアルフを愛してしまったからだ。

事実上の離婚を申し出たことで、一族も騒ぎ出した。これまで誘拐花嫁ばかりで、塔に閉じ込めていれば俺のように夫婦生活を終わりなど言い出すことはなかった。
これでも次期公爵夫人なのだ。そんな俺がもうアルフとやっていかないと言いだしたことは衝撃が大きかったのだろう。
色んな人から仲裁を申し込まれ、アルフも泣いて泣いて泣いて………結局、4年に一回だけの夫婦生活をする事で決着が着いた。勿論アルフは納得していなかったが、俺も譲らなかった。

素直じゃないといわれるかもしれない。俺は母とは違う人間で、母と同じことをするとは限らない。そんなことは分かっている。けれど母の愛は全てを壊した。俺がそうしないとは限らない。アルフとは一線を置いておかないと、俺自身の精神を守る事ができない。全てを壊してしまうかもしれないという恐怖のために、俺はアルフを遠ざけるしかない。

しかし、完全にアルフを遠ざけるべきだったと思ったのは次男ブランシュの行動だった。

ブランシュは破滅的だ。それまで普通に、むしろ皆から温和な良い子だと言われていたのに、ブランシュの愛は全てを壊し、相手を破壊して、そうやって愛を手に入れてしまったのだ。

ブランシュの罪を知って俺はそれまで何とか均衡を保ってきた精神が持たなくなった。ブランシュがこんなことになってしまったのは、きっと俺の血から受け継いだ母の血のせいだ。そうではなければあんなことはできない。
ブランシュを産むべきじゃなかった。そう泣き崩れて、アルフを拒絶した。アルフが触れることは愚か、会うことさえも。

「オーレリー……いくら、貴方が私を拒絶しても、私は拒絶されてはやらない……どうしてこんなになってしまったんだ?」

「お前と結婚すべきじゃなかった……」

「オーレリー」

「ブランシュなんか産むべきじゃなかった……」

「オーレリー……そんなふうに言わないでくれ」

「時間を戻したい……」

俺が壊さなくても俺の血を引いたブランシュが、そしてその子が愛のせいで滅茶苦茶になってしまう。
俺がアルフを愛さなければブランシュは生まれなかったのに。

「どうしてそんなふうに思うんだ? ブランシュは私達の可愛い子で、生まれてこないほうが良かったなんてことはないのに」

「………お前は知らないんだ。どんなに俺の血が呪われているか………母は、父と結ばれるために、自分の妻を殺したんだぞ? 母は知らなかったが、過去視で俺は見たんだ……母の妻の腹の中には子どもがいた。母は妻と自分の子どもを父と結婚するために殺した……そして自分の両親も殺して、兄弟も殺した。母が生きているかもしれないと疑う人を全部殺して、笑って父と結婚をしたんだ。頭がどうかしている……俺もブランシュもそんないかれた母の血を受け継いでいるんだ」

アルフに自嘲したように笑いかけるが、アルフは辛そうな顔をしていた。

「オーレリー……貴方が傷つくことはないんだ。貴方は悪くない……ブランシュも悪くない……母君も、ただ間違ってしまっただけだ。呪われてなんかない」

「アルフ……」

「過去に行こう。5分だけだ。二人で行くにはそれだけしか戻れない……でも、ご両親を止めるには充分な時間なはずだ」

「俺は過去に戻る力はないっ……何を言っているんだ?」

「私になら出来るっ……一緒に戻ろう」

アルフにならできるだろう。通常は今の時間から5分遡るだけだ。しかし一生に一度だけ、過去のあらゆる時間に戻って人生をやり直すことが出来ると聞いたことがあるはずだ。でもそれは過去に戻ってやり直すわけで、行って戻ってこれるわけではない。制約があり、そう簡単にこの魔法が使える者でも、使わない。何故ならこれまで築いてきた人生を捨てて一からやり直すことになるからだ。

「ずっと戻れない代わりに、5分だけ戻ることができる。これでもう人生をやり直すことは出来ないが……オーレリー、貴方の人生をかえることは出来る」

「アルフっ………」

アルフに抱かれて時間を遡った先は、母の結婚式の日だった。母はこれから自分が殺す事になる人と結婚しようとしている。

「お母様……」

突然自分の前に現れた二人に、母は驚いた顔をしているがたった五分しかない。

「お母様っ……信じてもらえないかもしれませんが、俺は貴方の息子です。彼は俺の夫で、公爵家の跡継ぎで時間を巻き戻してもらい、未来から貴方に会いに来ました。時間がないので、詳しい説明は出来ません」

信じてもらえるか分からない。運命を変えられるか分からない。

「けれど、この結婚は間違っています! 貴方の運命の人は、今日結婚する人じゃないんです。今日結婚したばかりに、貴方は父と結婚するために妻を殺し自分の子を殺します。だから……こんな間違った結婚をすべきじゃないんです……どうか、結婚をしないで下さい」

「妻は貴方の行動に苦しんでいます。私たちのこんな助言で、今日の結婚を止める事はできないかもしれません……ですが」

「……僕の息子。僕の運命の伴侶はなんて名前なんですか?」

驚いた顔をしていたが、母の口調は冷静で穏やかだった。

「アデールです……でも、きっと名前なんて知らなくても、お母様はすぐに運命の伴侶だって気がつくはずです」

身内を全て皆殺しにするほどに運命を感じたはずだ。

「僕の息子、君は……―――――


あっという間に五分が過ぎてしまい、現代に連れ戻された。

「アルフ……一生で一度にしか使えない魔法を……こんなことで使って良かったのか?」

母が俺たちの言う事を聞いてくれたかは、まだ分からない。普通に考えたら、結婚式当日に未来の子どもがやってきて結婚するなと言われたからしないと言うことなんができないだろう。

「オーレリー、貴方のために使わないで、一生に一度の魔法を何時使えというんだ?」

「それは……何かあった時のためにとっておくとか……」

「何かなんか絶対にない。私がオーレリーを何時も守るから……何かなんて絶対に起こさない」

「アルフ……」

「これから義両親たちがどうなったか見に行こう。今が変わっていたら、少しはオーレリーのためになったかい? ためになったのなら、ブランシュのことを許してやって欲しい。あの子も愛する妻のために必死なんだ。私たちの可愛い子だ……嫌わないでくれ」

「………分かった」

「愛している……オーレリー」

「お、俺は……っ」

アルフの笑顔が余りにも純粋に俺を愛している、という顔をしていて……たぶん、一生のチャンスを逃した。

ここで俺も……と言えなかったら何時言えと言うんだ……そして俺はアルフの笑顔のせいで言えなかった。



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