「エミリオ兄さん、ちょっと良いかな?」
「エルシア? 勿論だが、どうしたんだ?」
兄エミールと叔父セシルの一人息子のエルシアが突然訪ねてきた。
彼は私にとって従兄弟でもあり甥でもあるという複雑な関係だった。あの変態の兄と実の叔父との間に生まれた禁断の子だったが、エルシアには何の罪もないので弟のように可愛がっていた。
「おじい様やおばあ様はいないの?」
「ああ、ギルバードやウィルを連れて遊びに連れて行っているが、母たちに会いに来たのか?」
「ううん、ちょっと相談があって……いてくれたら力になってくれたかな、と思ったんだけど」
「それなら、実質的な家の采配はもうギルフォードがしているから、ギルフォードに相談すれば良い」
ギルフォードのほうが色々もう顔も広いし、今でも隊長の親友をやっているから、割と何でも融通が利くはずだ。そういえばエルシアは入隊したばかりだったな。第一部隊だったら私の目が行くが、あそこは変態の巣窟になっているので、遠慮してもらった。
親戚だと同じ部隊に入れて面倒を見る、ということもままあるのだが。
エルシアは叔父に似て繊細な美貌の持ち主だ。何か部隊で嫌な事があったのかもしれない。
「……実は好きな方が出来たんです。同じ部隊の方で、新人の面倒を見てくれている方です」
「そうか、まあお前も18歳だ。好きな人くらい出来て当然だろう」
「でも、振られてしまいました……」
え?もうなのか?
「そ、そうか……それは残念だ。エルシアは美形だし優しいし、良い結婚相手になると思うんだがな。けど、好みはそれぞれだしそんな事もあるだろう」
「でも、諦められないんです……」
「じゃあ、諦めずにもう一度告白してみろ。私の夫ギルフォードは三年間諦めずにいたら、結局こういうことになったし、まだ望みがないとは限らないだろう?」
「はい!!!! 僕、諦めません。この前は、貴方のお尻が大好きです。今すぐ舐め回したいんです!と告白したんですが、次回は貴方のお尻に僕の肉棒を突き刺したいんですと言ったんですがっ」
「おいおいおいおいおい………待ってくれ、エルシア」
エルシアは、私はただの変態と流されただけの夫婦にしか見えないが、あの二人にしてみたら困難を乗り越えて結ばれた象徴でもあるエルシアが、こんな残念な変態になってしまっただなんて可哀想で仕方がない。
この儚げで繊細そうな顔で、貴方の尻を舐めたいですと言われたほうは凄く可哀想だ。
「あのな……好意を持っている人に、そのアプローチの仕方はないだろう?」
「どうしてですか? 僕の率直な気持ちそのままです!!!」
「ま、まあ……そうなんだろうが、余りにも即物的すぎて、嫌になるだろう? せめてもう少し節度を持って、初回はもう少しスマートにロマンティックにできないのか? 私の夫のギルフォードだって好みじゃなかったが、流石王族といったプロポーズをしたぞ」
と、きっと私がいくら言っても分かってくれないかもしれない。エルシアはきっと公爵家の血が濃すぎるんだ。おかしいな、血筋的に言ったら、祖母(私の母)と母(セシル)は両方とも王族なのだから、エルシアは公爵家方の血よりも王族の血のほうが濃いはすなんだが。
どう見ても今のエルシアは変態公爵家の血しか引いていないように見える。
「とにかく、どうしても諦められないのなら……今度は食事くらいから誘ってみろ。とはいっても、一番初めに尻を舐めたいと言ったから挽回するのはかなり難しいと思うがな」
「………はい」
どうやら力を借りたい=家の圧力で結婚の重圧を相手にかけたい、らしかったが、それは止めておいた。余計に相手の心象が悪くなるから今はやめておけと。
エルウィンがルカが隊長に似たらどうしようと悩む気持ちが理解できた。私も公爵家の血を引く身としては真面目に生きてきたつもりだ。だが親戚などを見ると、特に今日のエルシアのような先日まで非常に真面目、ある日運命の人に出会って変態化を見るにつけ、ギルバードやウィルバーの将来が心配になってきた。
母親に似たから安心、というのが一概に言えないのが公爵家の怖い所だ。大抵は父に似たら父似の変態になる確率は高い。一方母親に似たら(余り似ることはないが)大抵、常識人として生きていく。
しかし物凄く例外的に母親に似ながら変態になる場合は、下半身や脳内思考は異常に父親に似てしまう。いや、似てしまうどころか、凌駕する変態になる確率が非常に高いのだ。
エルシアもそういった不憫な遺伝子を持ってしまったのだと、甥を生ぬるく見つめていた。
「は? おい、ちょっと待て! 除隊??」
エルシアから除隊になるみたいです、と心話が突然入ってきた。
ちなみに私は今妊娠中なので、魔法は使えない。その為、一方通行でしかメッセージが届かないので、エルシアからの、除隊になりそうなんですけど、僕ってそんなに悪いことしたのかな?と、要領の得ない事ばかり呟いていく。
「ギルフォード、ちょっと甥が面倒ごとに巻き込まれたようなので部隊に行って来る」
「え? ちょっと待ってよ! 心配だから僕も行くよ! それにエミリオの甥だったら僕にとっても甥だから」
というわけで、ギルフォードとともにエルシアと所に行ってみると、エルシアと見知らぬ青年と中年の男性、それに第3部隊の分隊長である人がいた。
「除隊という報告を受けてきたが、甥がいったい何をしたんですか?」
「何をって!!! この変態があああ!!!! 人の尻の穴を舐めるような人間のくずなんだ!!! 除隊どころか、死刑にすべきだ!!!!」
エルシアと同じ歳くらいの青年が尻の穴を舐めたと暴露していた。
「タイラント、黙りなさい。あまり騒ぐものではない……エルシア殿は王族だぞ」
「父上! 王族だからってやって良いことと悪いことがあります! いえ、王族だったらむしろみなの見本となるべきなのに、何ですかこの変態はっ!!!!」
「エミリオ……まあ、見ての通りだ。エルシアがセクハラをしている場面を取り押さえて……部隊でこんな破廉恥なことをしたら除隊に決まっている。しかも現行犯だからな」
どうやらエルシアがタイラントという青年にセクハラをしたため、その父親と、第3部隊分隊長がこの騒ぎを収めるためにやってきたのだろう。親子はそれなりに魔力が高そうだが、われわれの一族と比べれば落ちる。
「……除隊は仕方がないでしょう」
次はもっとスマートに誘えって言っていたのに、何故やるなといったのに尻を舐めたりするんだ。もうこんな変態と血が繋がっているなんて嫌だ。
「エミリオ兄さん!!! 嫌です!! 僕は、ダニール殿を諦められません!!! 除隊はしないで下さい! 大丈夫です、責任とって結婚しますので!!」
「馬鹿を言うな! 父上を嫁になんて出せるわけないだろう!」
「だけど、責任を取らないとっ!」
「挿入は寸でのところ阻止したので、まだ大丈夫だ!!」
「エミリオ、どうする?」
「どうするって言ったって……相手はあの若い男のほうじゃなくて、父親のほうなのか?」
くたびれた中年の男性が、息子とエルシアの言い争いをオロオロと仲裁しようとしている。
「みたいだね……エルシア君、ずいぶん渋い趣味だね」
「しぶい趣味というか……とにかく、エルシアのやつ入隊したときに世話係りに任命したダニールに一目惚れをしてだな……もうダニールの尻に執着して、尻をおっかけまわし、最近セクハラに耐えかねたダニールが泣きついてきたので、世話係りを交代させたら、まあエルシアのやつ側にいられないんだったら嫁にするって、強姦未遂までしやがって。本当はここまで言うつもりはなかったんだが、先っぽどころか、ずっぽり入っていたんだけどな。息子に、父親の処女は奪われましたという訳にはいかないので、嘘ついたが……」
「入っちゃっていたのか?」
「うん、もうずっぼりと。エルシア綺麗な顔に似合わずでかいな……ただ、入ったけど、こう入れただけで、抜き差しさせる前に捕らえたから、数秒だけ入れただけといえば数秒だけだし、まだ射精までいっていなかったから、厳密に処女を失ったかどうかは微妙だけどな」
「というか、息子がいるということは既婚者なんでしょう? 奥方がいるのに、結婚は出来ないだろうし、奥方もショックだろうね。夫が息子ほどの歳の男にずっぽりやられちゃったなんて知ったら」
確かにショックだろう。こんな私だが、もしギルフォードが犯されたと聞いたら……流石にショックを受けるはずだ。エルウィンとかだったら気にしないだろうが。
「まあそれだけは心配ない。ダニールの妻はずっと昔に亡くなっているからな」
可哀想だがホッとした。もしこれが公になったら、尻を舐めただけでは死刑にならないが、強姦までしていたので死刑だし、姦通罪も適応されてしまう。ダブルで逃げ場がなくなってしまう。
そしてどうやら話を聞いていると息子に内緒にしているらしいので、強姦罪も大丈夫だと思う。しかしこれは身内から見たらよかったという話で、ダニール殿にはとても申し訳ないことをしたと、一応叔父なので謝罪しないといけないだろう。
「本当に甥が申し訳ないことをしました。どんな賠償でもします……ですが、奥方を亡くされているのなら、エルシアに責任を取らせてやってもらえませんか? これでも公爵家の血を引いていて変態の見本のような男です。放置しておいたらより変態になるだけで絶対に諦めません。この血を引く男で素直に諦めた男はいないんです」
ここでダニール殿も諦めて結婚してくれたほうが本人のためだと思う。
いくら親戚中が諭そうが(諭す人も少ないし)諦めるわけないのだから。
「……私には過ぎた話ですし、妻を亡くし男で一つで息子を育ててきました。そろそろ息子も成人してくれて、妻の元に行っても良い頃だと思っていたのです。どうか、妻に操を立てたまま死なせて下さい」
いや、そういう気持ちは分かるが……だってもう挿入されているんだから操無くしているじゃないですか、とは息子の前では言い出せなかった。
「エルシアも未来ある身でしょうから、除隊も望みません。どうか、相応しい身分の方と結婚されることを祈っています」
ヤツレタ中年だが、心意気は素晴らしい方だな。
エルシアを連れて帰って、叔父や兄の元へ返して変なことを言い出すといけないので、しばらくこっちの城に滞在させる事にした。
母がこの様を聞いたら殺されるぞと思い、母にも言わないことにした。
「諦めると思う? エルシア君」
「たぶん無理だろう。去り際にも、諦めないと叫んでいたしな……」
「ご両親には何も言わないつもりなの? セシルさんの言う事なら聞かないのかな?」
「……おじさんには、言わないでおいてやりたい。あの繊細な人なら卒倒するだろうし……息子があんな変態に育ったと知らないままでいて欲しいからな」
とりあえずエルシアともう一度冷静に話し合うか。あれから数日経ったので、少しは冷静に話し合えるかもしれない。
「エルシア、ちょっと良いか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ……あと10秒っ」
10秒?
取り合えず10秒待って、エルシアの部屋にしている客間に入った。
「………すいません。ダニール殿」
そこには、全裸のエルシアと同じく全裸のダニール殿がいた。なんかもう、全身白くって、それでいてキスマーク全開で、ちょっと挿入しちゃった★レベルじゃない事をされていたことは明白だ。
この前は入れられただけで済んだが、今回はもう……入れただけなので処女かもしれない?まだ取り返しがつくかも?そんなわけないだろ?という論争になるレベルじゃなく、もうガッツリ出された後だろう。
やつれた中年が、20代の外見を取り戻していた。これはもう若返るほどエルシアから魔力を受けたのだろう。
すいませんと謝罪したがもはや意識はない様で、気絶しながらエルシアのものを入れられていた………
「エルシア、お前……」
「大丈夫です! エミリオ兄さん! 邪魔者(息子)の始末は済みました! あれでもけっこうもてたみたいで、邪魔者を好きな奴の中から最も魔力の高い男をけしかけてきました。今頃はずっぽりされています。跡継ぎもすぐにできると思いますし、あっちの家の問題は片付きました」
ず、ずっぽりされちゃったんだ。あの息子さん……父親も同じくずっぽりされていて……
今回で、私はどれだけ下品な言葉を使ったか分かりはしないっ……
「なので、ダニールが私の妻になるのはもう何の問題もありません!」
「……あるだろう? 彼の意思という問題が。彼は清い身のまま妻の元に行きたかっただろうに……」
「そんなっ! これでも僕凄く我慢しているんですよ! ダニールが僕以外の男と肌を合わせた過去があるなんてっ! 許せなかったし、あの息子も消し炭にしてやりたかったのに、ダニールのために我慢したんです! 僕が過去に戻れる魔法がつかえたらっ! 結婚式前に戻ってダニールの純潔を奪ってあげました! そしたらダニールは結婚できず独身のまま僕が生まれるのを待っていてくれたでしょうに!」
私は知らなかった。その思想が兄とそっくりだったなんて。別に知りたくもなかったが。
「話はそれだけですか? 僕はあの邪魔者も消しましたし、もっとダニールと交わりたいんですが。がっついてしまって、お尻まだ舐めていないんです。10回くらい中出ししたので、今からお尻タイムになるんですけど」
「え? 良いの? エミリオ、エルシアのこと放っておいて」
お尻タイムに突入しているんだ。話し合おうとしても、聞いてももらえないだろう。
「ギルフォード、お前もうちの婿なら知っておけ……世の中にはな、いくら言い聞かせても、話が通じない変態がいるんだ。それがうちの一族なんだってことを覚えておけ……」
もう関わりたくない……お尻タイムが終わったら追い出そう。
兄に、セシルおじさんには知られないように、念を押しておくことだけはして、もう私は甥には関わらない事に決めた。きっとエルシアと兄が協力して結婚まで持っていくだろう。
しかしお尻タイムが終わっただろう頃に追い出そうとしたら、今度は再び挿入タイムに突入していたため、もう自発的に出てくるまで無視していたら、母(エルシアにとっては祖母)に蹴り倒されていた。
「エミリオ、そう落ち込まないで。僕達の子はせめて紳士的で上品な変態に育つように教育するから!」
「……そう、だな」
少なくてもただの変態よりかは紳士的な変態のほうがマシか……しかし上品な変態って何なんだ?……と悩む、もうすぐ三児の母がいた。
END
セシルがあんなに苦悩しながら頑張って生んだ子なのに・・・遺伝とは恐ろしきもの
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