「シモン、見合いをする気はないか?」
一族の当主であるリオンから僕にそう聞かれた。リオンはうちの一族では珍しく可愛い感じではなく、綺麗な顔立ちのほうが目立つ。リオンは従兄弟で、長年好きだった子と結婚したばかりだった。
「……どうせ断わられるよ」
「まあ、そう言うな。この前、王太子妃様の兄と顔合わせをしただろう? 彼とどうだ?」
「……とても素敵な人だったけれど……無理だよ」
僕の一族は皆、もてない。可愛い顔立ちは奥様には人気があるが夫には需要がない。
可愛いだけでも需要がないのに、僕たちは何故か思春期を過ぎると異常に毛深くなって、あそこも大きくなってしまい、可愛い・毛深い・太いの三重苦の一族だと言われている。そのせいで、見合いを持っていくと、名家なのであからさまには嫌な顔をしないが、何かと理由をつけて断わられるのだ。
そんな僕らこうやって血統を繋いできたのは、だまし討ちのように断わられないように根回しをするか、誘拐をしてきたのだ。
僕も結婚できそうもないので誘拐するしかないか、と思っていたけれど、そのお見合いの話はとても魅力的過ぎた。でも、きっと相手も僕とお見合いなんかしても、断わりたくて仕方がないだろうし、そんな嫌がられるのを見たくはない。
「シモンが王太子妃の兄に興味がありそうだったのでどうかと思ったんだが。それに、この話はこちらから持ちかけたわけではなく、向こうからの申し出なんだが……」
「ええ!!!??? うちに見合い話が持ちかけられたことなんて、あったの?」
「いや、初めてだ……どういうつもりかは分からないが、王太子妃様の兄君なのだが、今は伯爵家だが昔は男爵家だったため、名家を探しているからなのか、分からないが……私も、一族は毛深くてでかくてもてないけど良いのか? と聞いたのだが、構わないということなので、騙されたと思って見合いをしてみないか?」
きっと今日見合いにいったら、騙された毛達磨が!!!とか罵られるのかもしれない。
毛達磨がもてるはずないだろうとか、一人前に見合い結婚なんかできると思っているのかと笑われるのかもしれない。
けれど、顔合わせで見たハンサムな顔にもう一度会いたくてつい足を運んでしまった。
仲人に従兄弟のリオンと、エドガーさんの兄の夫アレクシア様がいらしていた。
「シモン殿、こちらが義弟のエドガーだ。魔力はそれほど高くないが、私や公爵家が後ろ盾になるので辺境伯家に嫁いでも差し支えない家柄のはずだ」
「……いえ、そんなこと」
家柄なんて考えた事もない。名家なのでふんぞり返っていても結婚できる家柄じゃないのだ。辺境伯家は別名、毛深一族と揶揄され、この国でもてない一族として有名なのだ。
「それでは、お若い二人だけにしましょうか。シモンしっかりやるんだぞ」
しっかりって、僕どうしたら良いの?
「………」
「あの、俺みたいな成り上がりとお見合いなんてやっぱり気が進みませんでしたか?」
「え? そ、そんなことっ」
「しがない男爵家だったし、弟が王妃になるから出世したようなものですし。アレクシア義兄さんが婿に入ってくれたから、なんとか格を守っていられるけど、成り上がりも成り上がりですし」
こんなハンサムで素敵な人が奥さんになってくれるんだったら、家柄なんてどうでも良いのに。
期待したら駄目だ。きっと、これはドッキリで、この後、毛達磨が見合いに来たとみんなに笑われるんだ……
「全然お話してくれませんね……やっぱり、お付き合いできてくれただけですか?」
「そんなことはっ……」
どうして僕は何も言えないんだろう。
―――ぼ、僕の一族はもてません。今日は僕を騙すために来たんですよね……
言いたいことがどうしても言えないので、筆記で伝えた。
「え? 騙す? どうしてですか?」
―――今日はきっとドッキリなんですよね……
「待ってください! 俺は貴方のその可愛い顔が大好きでここに来ました! 何でわざわざドッキリをするために、見合いを計画しないといけないんですか?」
「ぼ、僕みたいな……可愛い顔は、夫として人気がありません……」
「そんなことありません! 凄くかわいくって一目惚れです! 俺は結婚するなら夫でも妻でも絶対に可愛い顔が良いと思っていました!」
「ほ、本当に僕で良いんですか? 僕達、お見合いしてもすぐに断わられてしまうんですが……」
なんとか結婚できてもベッドで物凄く怯えられて、入れないでと泣き叫ばれたという親族もいたという。それに、毛達磨のくせに僕に触れようとするなと、仮面夫婦をしいられたという話も聞いたことがある。
「凄く好みの顔です! ぜひ結婚して欲しいと思っています」
きっとドッキリなんだ。ドッキリなんだ……
「僕の一族で、こんなに請われて結婚できるのは、僕くらいしかきっといないと思います! 凄く嬉しいです」
でも、ひょっとしたら、だって従兄弟のアレンは奥さんに可愛がられて幸せそうな結婚生活をしている。僕にも0.000001%くらいの確率でそういう可能性があるかもしれないと、期待しても良いかもしれない。ドッキリで毛達磨がっ!と罵られたって、もう僕には覚悟はできている。
「その可愛い顔を毎日見せてください! あ、ただし、毛は毎日剃らせてくださいね」
「はい……」
やっぱり毛は駄目なんだよな……やっぱりこれはドッキリ?いや、ひょっとしたら毛深一族を一網打尽にしこの国からこの血筋を絶やす要員としてエドガーさんは送り込まれたのかもしれない。
今後馬鹿な望みなど抱かず、一生独身で、子孫を増やす事なかれという国王陛下からの指令なのかもしれない。
「どうしたんですか? 婚約が成立したのに、そんな暗い顔をして」
「……僕、やっぱり身に余る話で……騙されているとしか思えません」
「まだそんなことを言っているんですか!? 何でそんなに疑うんですか? 騙された事でもあったんですか?」
「僕の母は……誘拐されてこの国に来ました。僕が幼い頃は、母は父のことを毛達磨大根お化けと呼んでいて……僕の事も、僕なんか将来父のような大根毛お化けになるんだから、誰にも愛されないと言われました……」
悲劇なこれだけでは終わらなかった。父は母に愛されようと、毛深いのを愛する洗脳魔法を開発した。わが一族にとって悲願の独自魔法になるはずだったが、毛を好きになるだけで父を愛するようになるわけではなかったので、母は一族中の男を見ると欲情し、父は母を閉じ込めて自分だけ見てもらうしかなかった。あれから僕は母には会っていない。僕も毛深くなったからだ。
僕は妻に愛してもらいたいし、子どもも作って家族仲良く暮らしたい。だから父の開発した独自魔法は闇に葬るしかない。
「可愛そうに……だから俺を信じてもらえないんですね。確かに……ごめんなさい。俺は余り毛は好きじゃないですけど、毛達磨お化けと叫ぶほど毛が嫌いなわけじゃないですし。あっても、可愛い顔に似合わないから好きじゃないだけで、ただそれだけです。できれば剃ってくれればありがたいですが……シモン様が傷ついているのなら、強要しません。今のままのシモン様を愛します」
僕は……本当にこんな素敵なありのままを受け入れてくれる人が妻になんて有り得るんだろうか?
いや、有り得ないだろう。
「信じてくれないんですね……まだ、ドッキリで何時嘘だったと分かるか心配しているんですか? なら、こうすれば信じてくれますか?」
エドガーさんが立ち上がると、上着を脱ぎ始めた。何をしているんだろうと眺めていると、やがて全ての服をっ!!……
「な、なにをっ……」
「俺が純潔じゃなくなればシモン様と結婚するしかなくなります。そこまですればシモン様も信じてくれますよね?……シモン様、俺の処女を奪ってください……」
硬直して動けない僕をエドガーさんは抱き寄せると、シモン様の部屋に連れて行って下さいといわれ、僕は夢遊病者のようにその言葉に従い、転移していた。
エドガーさんは僕のベッドに横たわると、早く来てくださいと恥ずかし気に両足を……こ、これは噂に聞いた、神々の贈り物っ、パ、パイパン???
な、なんて神々しいんだっ!!!
「こちらから誘っているのに恥をかかせないで下さい」
「そ、そ、そ、そうですよね……すい、すいませんっ……5分下さい!!!!!」
エドガーさんは毛達磨の僕でも愛してくれると言ったが、この可愛い顔が好きならば期待に答えなければいけない!!!
僕の魔法よ! 髭を剃れ! 腋毛もなくなれ! 胸毛も腹毛も拗ね毛も! 眉毛とまつげと髪の毛以外の毛、全て無くなれ!!!!
き、綺麗になったはずだが、僕の毛根はたぶん4時間しか持たない……持続力がなくすぐに元に戻ろうとするだろう。だが僕も独自魔法を開発する! オートで4時間ごとに全ての毛を刈る魔法を常に身に纏うんだ!!!
「お、お待たせしましたっ」
ええ、エドガーさんは神々しすぎる。僕のように毛を刈らなくても、エドガーさんのあそこは毛一本生えていない。どんな神秘なのだろうか。
ああ、駄目だっ僕のもうひとつの弱点が、大きくなりすぎる!!流石にここだけはどうやっても小さく出来ないっ……
「気にしないで下さい。辺境伯家の方々が大きいのは良く知っています……でも、ようは大きさじゃなくって愛でしょう? 俺はシモン様を愛しているので、どんなのでも喜んで受け入れますから」
僕は一族の英雄として称えられました……
僕は今でも騙されたような気分ですが……淫らで優しく僕を可愛いと言ってくれる奥様がいるので、一生騙されていたいと思います。
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