*本編のさわやか終了で良いや、と思う方はこのページは飛ばしましょう






7歳から恋をしていた少年は、父親に股間の制御を頼み、母親を嘆かせながらも18歳まで純潔を守り続け、愛する人の信頼を勝ち得て、皆に祝福され結婚式を迎えた。

めでたしめでたし………




「うっ……気持ち悪い」

「サンディ、大丈夫? 大丈夫?……どうしようっ」

おろおろするだけの夫を呆れたように見て俺は吐くのを止め、カウチに横になって吐き気と戦っていた。

「別に病気じゃないんだから、そんなに心配しなくても良いだろ。そのうちおさまる」

「でも、こんなに悪阻が酷いんだったら、僕、サンディに子どもを産ませなくても良かったのに。ごめんね」

「お前の下半身の絶倫さだったら、いずれ遅かれ早かれできていただろ。もう目の前をウロチョロされたらこっちが落ち着かないから、座っていろ」

「う、うん」

遠慮がちに俺の前に陣取って床に座るエレイン。床に座らなくっても椅子でも持ってこれば良いのに。
それにしても昼間は悪阻が酷い。夜、寝ている間は平気なのに、ベッドから起き出すと途端に吐き気に襲われる。

「お前さ……仕事行かなくって平気なのか?」

「産休を今取っているんだ。軍ってね、夫のほうも産休取れるんだよ」

入隊したばかりなのにもう産休か。18歳で結婚する人も珍しいので、エレインはかなり目立っていないだろうか。身分が高いから、そういうことをしても批判を受けないのかもしれない。

「まだ生まれていないのに産休とっても仕方がないだろ。別にいてくれたって、何も出来るわけじゃないし」

普通の家だったら妻が悪阻で家事が出来ない分、夫がするということはありかもしれないが、お坊ちゃんのエレインは凄く大きな城に、使用人がたくさんいて、俺もやることはないしエレインもやることはない。

「サンディの側にはいれるよ。僕のせいで苦しんでいるんだから、少しは何か役に立てたら良いんだけど……何も出来ないんだったら一緒にいたいよ」

エレインの手が俺の腹に触れてそっと撫でてくる。何故か気分が少し落ち着いて、吐き気がおさまってくるような気がする。

「どうしたの? ちょっと顔色が良くなった気がする」

「ああ……なんかお前の手が気持ち良かったから」

「あ、そっか。ねえ、ちょっと立って? うん、そう」

エレインは俺を一旦立たせると、カウチに座り俺を抱き寄せた。

「エレイン?」

「昔、叔父の奥方に聞いたことがあったんだ。母は悪阻は酷くなかったから、気にした事なかったけど。おなかの赤ちゃんって、実は母親のおなかの中は不安らしいよ。だって、妊娠中って魔法使えない無防備な状態になるわけでしょう? だから、父親の魔力を感じられるとっても心地良くなるらしいんだ。安心してね……今も、赤ちゃん僕の魔力の波動を感じているから、安心してくれているのかな?」

そういわれれば、エレインと一緒に寝ているときは悪阻を感じない。悪阻って、体質もあるだろうけど、赤ちゃんのストレスとして母体にも影響されるのか。

「気分良くなった?」

「ああ、大分良くなった」

「僕、凄く幸せだよ。だって、サンディが僕と結婚してくれて……赤ちゃんも産んでくれるし。サンディが僕に優しい……夢みたいだよ」

そんなにこれまでの俺の態度って……酷かったよな。

「こんにちは〜サンディさん。悪阻が酷いって聞いて、レモネード作ってきたんだっ! あ、エレイン様も一緒だったんだ。僕帰ったほうが良いかな?」

「勿論、帰れ」

「良いよ、ラウール様。エレインはいない者と思って下さい。せっかく来てくれたんだし、話し相手になってください。エレインはオロオロしかしなくって鬱陶しいから」

エレインは相変わらずラウール様が嫌いだ。俺の唯一の同郷の知人なんだし、もう少し優しい態度を取ってくれても良いと思うのだけど、俺の友人ってことも気に入らないようだし、ノエルさんの奥さんってことも気に入らないらしい。

「良いな……僕もはやくノエル様の赤ちゃんが欲しい。僕のほうがはやく結婚したのにな」

「まあ、俺たちのほうが年季はいっていますからね」

「悪阻大丈夫?」

「エレインが緩和してくれているから今は気分良いですよ」

そういえばラウール様の夫のノエルとエレインは従兄弟らしく、俺とラウール様も親戚になったようだ。ラウール様は王太子で雲の上の存在だったのに、いまや親戚になっていると思うとなんか変な気分だった。

「それにしても、サンディさんとエレイン様、今では凄く円満な夫婦みたいで驚いちゃうな〜。でも、凄くお似合いだよ」

「当たり前だ」

「でも、せっかく時を戻して、やり直してくれるってエレイン様が言ったのに、どうして止めにしたの?」

「止めにしたんじゃないです。エレインが失敗したんですよ……魔法が最後まで完璧に発動しなくって……」

そう、時を巻き戻してやり直したいといわれて、魔法がかけられた。

「エレインは股間が緩いから、それが魔法の完璧な作動に影響したみたいなんです。時を戻すって一生に一度しかできないらしくって、物凄く魔力を使うし、精神力も使うらしいんです。でも、エレインのやつ俺に好かれたいっていう思いと、巻き戻したら7歳から再スタートで、少なく見積もっても18歳になるまで11年間も股間を封印しないといけないでしょう? 11年間もエッチなことができないというひもじい思いが邪魔して、駄目だったという訳です。まあ、これが一つ目の失敗の原因らしいです」

「だって!……言い訳じゃないけど、時を戻す魔法は使えても一生使わない人が大多数なんだよ。一生に一度しか使えないからここぞという時に取っておくらしくって、不慮の事故で守りきれる奥さんを死なせてしまった時とか、寿命以外で伴侶を失う場合に備えて取っておくんだ。だから……」

巻き戻して股間が11年間我慢できるか自信がなかったエレインは、取り立てて緊急事態でもなかったので、失敗してしまったという事だ。

「それに……魔法がかけられる直前に……この子ができてしまっていて」

最後の交わりで、まあ、できちゃったようで。

「凄い勢いで時を戻すのに抵抗されたらしいんですよ。エレインもできちゃったことに全く気がついていなかったけれど、抵抗をする小さな力に気がついて……ほら、この子って俺たちが不仲な間にできた子なんで、巻き戻って仲が改善された状態では出来なかったかもしれないので、やめて、やめてって騒いでいたらしいんです」

エレインの魔法が発動して、エレインの7歳の頃に再会して、その後走馬灯のように色んな出来事が起こって、時間にしたらほんの数秒後だろうか、また現世に戻ってきていた。

それからエレインは、俺がもう妊娠している事。時を戻したら子どもは消えてなくなってしまって、未来では生まれてくるか分からないこと。赤ちゃんが消えてなくなりたくないと、心細く泣いているので、時を戻せないと、エレインも泣いてごめんなさい、できないと縋られた。

まるで全ておなかの赤ちゃんのため、とその時は聞いたが、のちに多分にエレインの下半身の事情も上手く魔法が使えなかった理由のうちの一つだったことが分かった。

「俺も鬼じゃないので、自分の子どもを抹消してまで、俺のプライドの問題で時間を戻せとも言えないですし、そもそも時間をやり直せるなんて思ってもいなかったので、別に戻すことに固執はしません」

俺は大事にされなかったことと、自分の同級生に養われていた事、そんなつまらないプライドで自分の子どもを殺せない。
勿論今でもエレインに思うことがないわけではない。

けれど、エレインはエレインなりに反省し、一生に一度しか使えない魔法を使ってまでも、やり直そうとしてくれた。

ほんの数秒だったが見た。

エレインは俺と最初に会った時にプロポーズをし、ずっと好きだと言い続けて、エレインの父親に絶対に俺に手を出せないように何重にも魔法をかけてもらい、18歳になるまで決して手を出さなかった。
俺はずっと付きまとってくるエレインを鬱陶しがりながらも、段々と結婚するとしたらきっとエレインしかいないんだろうと思うようになっていき、両方の家族に祝福されて結婚していた。

「……それに時を戻したって……何をしたって、エレインは俺を諦めようとしなかったし、どのみちエレインと結婚する未来しかないんだなって分かったので、大人しく覚悟を決めました」

今みたいな穏やかな、悟ったような気分になれたのは、やり直した過去を見たからかもしれない。

「ありがとう……僕、本当に幸せだよ。サンディ、こんな僕を許してくれてありがとう。早く生まれてこないかな?……お父様、お前のために今かなり我慢しているんだよ」

「……お前何か勘違いしていないか?」

「え??」

「今のお前の言葉を聞くと、生まれたら早くエッチなことしたいな、って翻訳できたんだが?」

「う、うん」

「誰が許したって言った?」

「え? だって、僕と結婚してくれて」

「それは子どものためだ。くだらない俺の気持ちのせいで、子どもに辛い目にあって欲しくないからだ。エレイン、お前は言ったよな? 本来我慢しなければいけなかった13歳から18歳までの5年数か月分、花嫁の媚薬の後遺症がなければ、俺に許してもらえるために我慢すると。だから、正式に俺に許してもらいたければ、出産後5年間は我慢しろ。その股間に少しは我慢するということを覚えてもらうからな」

「そ、そんなっ……(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)」

兄弟の中でも最も股間の我慢が聞かないと評判のエレインが我慢できたのかは……




END
「エレイン……なんか最近……」

エレインは綺麗な顔をしている。昔は女の子みたいだったし、華奢で俺よりも小さいときもあった。
思春期の頃は軍人になるということで鍛えた身体をしているな、とは思ったけれど。

「え? 最近、何? 格好良くなった?」

「……そうじゃなくって、いやにムキムキしてきたっていうか……フサフサもしてきたような」

「Σ(゚д゚;) ……や、やっぱり? こ、こんな僕、嫌?」

「……嫌って言うか……顔に似合わないなって思うけど」

エレインの顔にムキムキの身体って……それに、すべすべの肌をしていて抱き合っていても気持ちが良かったのに、最近肌触りが悪い……

「……僕、顔以外全部お父様に似てしまったみたいで、18歳を超えると段々毛深くなるみたいなんだ……お父様も体毛フサフサしていて……で、でもゴワゴワしているよりは良いよね!?……先祖に、毛深い一族の血が入ってしまって……毛深い一族は剛毛が多いんだけど、僕は柔らかい毛だから大丈夫だよね!?」

何か違いがあるんだろうか。毛が多いことには変わりはないのに。
嫌な先祖がいるんだな……っていうか、股間に弱い一族の上に、こんな弱点まで遺伝するのか?
お母様が言っていたけど、エレインの股間の弱さと早さは曽祖父のアルフという方からの隔世遺伝らしい。お父様でもエレインよりはマシだったと言われているので。

「いや、スベスベのほうが良かった」

「(´;ω;`)だ、だからエッチさせてくれないの? フサフサになった僕のことが嫌で」

「いや、そもそもお前罰でエッチ無しなんだろ? フサフサは無関係だし」

「じゃあ、エッチ禁止期間が終わったら、僕の事フサフサでムキムキっていう理由で、拒否しない?!!!??」

「そんな理由で拒否する妻がいるのか?」

「いる……みたい」

「大丈夫だ、安心しろ。俺はエレインが毛深いから拒否するんじゃなくって、嫌いだから拒否するんだ」

「(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)」



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