そして俺は自宅に戻った。エレインは城に残したがったが、エレインの母が俺の意見を尊重してくれ無事に戻ることが出来た。

エレインは戻った先でも、自分の拠点にしていた豪華な家に住ませようとしたがそれも断わった。

俺はこの先も学校に行って、官吏になって安定した生活を送って家族を養うことが目標なのだ。別に贅沢な暮らしがしたいわけじゃない。金が欲しかったのも自活できるまでの我慢だと思っていたのだ。
貧乏なままでいたらずっとその生活になってしまう。俺も兄弟も母もずっと泥に塗れた暮らしをするしかない。だから割り切って体を売ろうと思ったのだ。

今もエレインから金を受け取って、それで学校に通っている。
別に俺はエレイン以外から金を受け取ったって構わない。けれど俺が知らない間に摂取した花嫁の毒薬と言う媚薬が俺の体をエレインなしでいられないようにしているらしい。

「サンディ、働きたいんだったら僕が学費を出すから……僕と結婚しても仕事は出来るよ。僕からのお金で家族を養いたくないんだったら、結婚しながら働いても良いんだよ。実際、結婚しても仕事を続けている奥さんは多いし」

「結婚したら働けないからお前と結婚しないんじゃないんだ、エレイン。俺はお前と結婚したくないから結婚しないだけだ。それにお前に援助をして貰わなくても、お前に体を売った金で充分学費と生活費は賄える」

「僕は……サンディに渡しているお金は、サンディを買ったつもりで渡しているんじゃないよ。僕の未来の奥さんのために、役立てて欲しいからで」

どうしてもエレインは俺に渡す金は、俺を買った金ではなく『未来の妻』に渡している金だと思いたいらしい。実際に子どもの頃から俺に渡していた金はお小遣いの全額であり、結婚するまで俺が不自由しないように『未来の夫兼婚約者』としての役目だと思っていたらしい。

「金で俺を買うのが嫌なら、俺を買わなければ良いじゃないか? 綺麗ごとを言ったって、エレインは俺を抱いている。嫌なら抱けなければ良い」

どうこう言いながらも、エレインは股間を何時も脹らませて俺を抱くくせにと笑ってしまう。
昔からエレインは性欲が強い。綺麗な顔をしているが、顔とは裏腹の絶倫と言っても過言ではないだろう。エレインも噂に聞く誘拐貴族の血筋のようだから、それも当然なのだろう。

「だって……抱かないと、サンディはお金を受け取ってくれない。お金を払わないと抱かせてくれない。そうすると、サンディは他の男に買われようとする。そんなの許せないから」

「股間の緩い血筋なんだろう? なに俺のせいにしているんだ? どうせ、我慢できないくせによく言う」

「……僕、サンディを抱くの、これでも2年は待ったんだよ」

「2年?」

「そう、精通が来て、運命の恋人がすぐ側にいるんだよ。待つのは拷問のようだった。でも、2年も待ったんだよ。僕の先祖は皆出会った瞬間に誘拐して、早ければ数分後、遅くっても数時間後には自分の物にしていたのに、僕はそれでも2年まった。お父様だって半年しか持たなかったし、僕はこれでも凄くすごく我慢したんだ!……」

エレインの説明を聞くと確かに凄く我慢したように聞こえないでもない。
誘拐してすぐにいたしている先祖を持ってしまっては、エレインの股間の我慢が聞かないのも仕方がないのかもしれない。

「でも、未成年に手を出したのってお前だけなんだろう?」

「………そう……かも、しれない……」

「お前は股間の緩さを理由にして正当化しすぎだろ。本当に好きだったら、結婚するまで我慢するものじゃないのか? 好きとも言えない制約を受けている段階で、俺に手を出すなんて、真剣とは思えないし、大事にされているなんて思えない。俺はお前の気持ちを疑うし、信用できない」

「……ごめんなさい……我慢の聞かない股間だけど、でもサンディを好きな気持ちには嘘偽りはありませんっ」

また全裸で正座をして土下座をしてくるが、俺は少しも心を動かされない。

こうやってエレインに抱かれたって、別に心惹かれないし、一生結婚しようとも思わない。エレインが傷つけば良いと思ってしまう。
泣いているエレインをざまあみろとしか思えない。

ざまあみろと思いながら、毎回エレインの泣き言や実際に毎回泣かれて縋られて辟易していた所に、エレインの兄や従兄弟や父が入れ替わっては俺を訪ねてきては、エレインと結婚するように命令をしていく。
エレインは末っ子らしく、兄弟や父に溺愛されているようで、その可愛い末っ子のエレインを振って、挙句弄んで貢がせている俺は相当の悪人にしか見えないようだ。俺は俺なりに言い分があるんだが、毎回のようにエレインと結婚しろと言われると余計結婚したくなくなるものだ。

「ねえ、どうしたら結婚してくれる? 僕を許してくれる?」

「どうしようもない。何をしても、別に心を動かされないだろうし、許したくもないし」

正直もうエレインとは縁を切りたい気分だった。こうしてエレインとは結婚をせずに、エレインが俺を買う、そういう虚しい行為がエレインを駄目にしていくと思っていたが、流石にしつこい一族と母親が言っていただけはある。本当にしつこい。

「あの、ちょっと良いかな?」

今日も今日とて、エレインの一族が説得に来たのだろうかと、ゲンナリしながら学校帰りに声をかけられたほうを向いた。

「え、お、王太子様!?」

「もう、僕王太子じゃないけどね。サンディさん、僕とちょっとお話してくれるかな?」

俺は失格になったけれど、一応美男大会で優勝をしたけれど、それでも生粋の王族には勝てないと思う。気高く美しい元王太子様を見ると、エレインはやはりこういう人が似合うのじゃないかと思う。回りにいくらだって身分が高くて美しい人がいるだろうに。

「僕ね、エレイン様に相当恨まれているみたい」

「え? どうしてですか? ラウール様、何かエレインにしたんですか?」

「だって、ノエル様がね僕を誘拐して花嫁にしなければ、併合されなかったでしょう? 併合されないままだったら、サンディさんを誘拐して、合意がなくても花嫁に出来たのにね。でも今は一応同国人になっちゃったから、サンディさんと無理矢理結婚できないから。原因の僕を疫病神みたいに思っているらしいよ」

確かにあのまま併合されなければ、エレインは俺が結婚に合意をしなければ浚って閉じ込めて結婚できたのだろう。

「それで、とばっちりを受けたラウール様が俺を説得に来たんですか?」

「ううん、そういうわけじゃないんだけど。ノエル様がね、元々僕らの国に来たのってエレイン様の思い人を見たかったんだって。ノエル様はなかなか運命の人が見つからなかったから、エレイン様みたいに外国にいるかもって思って、エレイン様についてあの場所に行ったら僕に出会ったんだって言ったんだ。僕に出会ったことは運命だって言って下さって……僕も運命だと思った」

「……え? 不本意だけど、国のために誘拐されたわけでは?」

「皆そう思っているみたいだし、父でさえそう思っているみたいだけど、僕ノエル様に一目惚れをして今凄く幸せなんだよ。ノエル様みたいに素敵な方に抱かれていると、凄く安心でくるし。誘拐してくれなかったら、父みたいにたくさんの妻を持たされていただろうし、今みたいな自由はなかっただろうね。だから、ノエル様からサンディさんのことを聞いて、同じような立場だから凄く親近感を沸いたのと、お話をしてみたいなって思ったんだ」

「ラウール様…」

「そんなふうに呼ばないでよ。今はもう王太子じゃないし、ノエル様の妻だから、エレイン様の婚約者(として見られている)サンディさんのほうが偉いんだよ?」

あの誘拐貴族よりもエレインのほうが身分が高いのか。エレインはいったいどういう身分なのだろうか? 聞いたこともあったが何故か皆言葉を濁して教えてくれない。たぶん、余計俺がエレインを敬遠すると思ってだろうけど。それほど身分が高いのだろうか。でも、父親がああいう人でエレインのために何時も泣いている人だから、恐れ多いほどの身分ではない……と思いたい。

「ねえ、どうしてエレイン様と結婚しないの?」

「好きじゃないからです……」

「……でも、そういう関係なんでしょう? この際、色んなもの水に流してエレイン様の気持ちを受け取ったらどうかな? サンディさんの気持ちもあるだろうけど、エレイン様以上にサンディさんを愛する人っていないと思うよ。きっと凄く大事にしてくれると思う」

「……そうでしょうけどね」

エレインの事情がどうあれ、エレインが俺のことを好きと言う気持ちは嘘じゃないのは俺も否定しない。きっと大事にしてくれるだろうし、エレインと結婚すれば家族も面倒を見てくれてきっと家族も裕福な生活を送れるだろう。悪いことはないはずだ。

こんな純潔じゃない俺にとってはこれ以上の縁談は絶対来ないだろうし、エレインと結婚する事が一番良いことくらいは分かる。俺が自活できるようになったって特別裕福な暮らしは家族にさせてはやれない。じゃあ、何で俺はこんなにも頑なにエレインを拒絶するんだろうか。

エレインがずっと俺に好きだと言えなかったことだって、エレインの責任じゃない。

けれど……

「エレインが欲望に負けて、俺を大切にしてくれなかったことが……たぶん、一番許せなかったのかもしれない」

金で売買されていたら、たぶん気にしなかった。気にしないままでいられたのに、エレインは俺との間に金じゃなくって愛を入れようとした。

愛があるんだったら、愛を語りたいんだったら、何で俺を大事にしてくれなかったんだろう。我慢できずに俺への愛とやらよりも性欲に負けた。

「俺、納得していたけど凄く惨めだったんです。同じ歳の男に金で買われて……俺は無力なのに、コイツは金で俺を買えるんだって……物凄く悔しかった。生まれが違うだけでどうしてこんな思いをしないといけないのかって……そんな思いを俺にさせたくせに、今更愛しているなんて……聞きたくなかった」

金だけのほうが余程すっきりしている。
俺を肉欲のはけ口にして、愛人のままにしてくれていれば良かったんだ。



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