それからは訳が分からなかった。なんだか良く分からない物を飲まされて、エレインをずっと欲しがって、今までエレインと過ごした時間とはまるで違った。今まで俺は時間が過ぎるのを、ただエレインが自分の上で腰を振っているのを、ぼんやりとやり過ごしていただけだった。何も感じないわけじゃないけれど、俺ととっては金を稼ぐ時間なだけだった。
だけど俺は覚えている。今日は自分からエレインに跨って、欲しがりすらした。

「ただ乗りかよ……」

「何を言っているんだ? サンディ」

「こんな無茶苦茶やったんだ! 何時もより金多く寄こせよ! せめて相場くらいは払ってくれても良いだろ!?」

俺なんてエレインにとっては安くやれる相手なんだろう。けれど、俺だって相場以上には売れる価値があるといわれた。今まで安く買い叩かれていても、これからは絶対にもっと貰わないと、やっていられないんだ。

「相場って何のことだい?」

「何のってっ!?」

「ああ、ごめんね。お母様がまだ今月のお小遣いくれないんだ。お母様、お小遣いには厳しくって……エレインにもっと良い暮らしさせてあげたいけど、18歳になるまで待ってくれないかな? そしたら財産分与してもらえるから」

「お小遣い?……」

「そう、エレインに全部渡しているけど、足りないよね?」

「……うん」

「だから、他の男に体を売ろうなんてしたの?」

エレインの家はお金持ちだけど、お金の管理に厳しい家なのか。勿論エレインは10代の未成年がお小遣いとして渡される金額としては物凄く多い。けれど、それでも俺の家の生活費+α程度の金額なので、上流階級ならもっと湯水のごとくお金を使っている子もいるだろう。

「エレインは……全部、小遣い……俺にくれていたのか?」

「そうだけど、ごめんね。僕が不甲斐ないせいでエレインにそんなことをさせようとしていたなんて。僕が悪かったよね」

こう言われてしまうと、エレインには払えるだけの金を全部くれていたので、買い叩いていたとこれ以上文句も言えなかった。

だからと言って損をしたという思いは消えない。

「もう良いから……でも、金足りていないんだ。だから、俺が他の男と」

「殺すよ……」

にっこりと笑うエレインはそんな言葉を言っているとは思えないほど、凍りついた目をしていた。

「でも、僕が渡したお金では足らないかな? 一般家庭では充分なお金だって聞いていたんだけど」

「……借金もあるから」

「そう……なら僕が借金はなんとかしておくから。僕が18歳になったら、エレインに何でもしてあげるから待っていてね」

それから俺は数ヶ月監禁されていたが、何度も頼んで家に帰してもらった。
そして家に戻ると、借金先が忽然となくなっていたと聞いた。文字通り、建物から、人も全てがなくなっていたそうだ。

エレインが何かをしたのだろうか。

分からなかったけれど、俺はエレインに監禁されていた間にずっと変な薬を飲まされていて、家に帰ってからもエレインに抱かれないでは眠れなかった。毎日、学校で会うから学校で皆の見ていない間に、何度も抱かれた。休みの日にはわざわざエレインに会いにまで行って、エレインに抱かれた。

お金のためにエレインと寝ているはずなのに、俺はエレインから離れられないのではないかという恐怖を毎日感じていた。

お金さえあれば、エレインから離れられる、はずだ。しかし体で他の男に稼ぐと言う案は、エレインの反応が恐ろしいためできなかった。大金が手に入ればエレインに体を売らずにすむ。そして学校を続けられる。

そして見つけたのが美男選手権だった。この大会は優勝者には莫大な賞金が貰える。そして一位を取ったはずだったのに、「有り得ない! 何故、こんな男が美男選手権一位なのだ! この男は処女ではないぞ!!!」という誘拐貴族で全て台無しにされてしまった。

この街の住民に俺が純潔ではない事がばれてしまい(といっても、察して珍しい事ではなかったが、誘拐貴族じきじきの指定なのだ)、ふしだらな男と言うレッテルの元、俺に未来はなくなってしまった。

どこに行っても、ヒソヒソと純潔ではないと噂をされ、専科学校に入学しようにもお金も用意できなかったし、結婚前に処女じゃない俺なんてあの国に併合された今、将来はなかった。

「……エレインに愛人にしてもらうのももう無理だよな……」

エレインは18歳になったら、贅沢をさせてくれると言っていた。きっと財産分与をされたら俺を愛人にしてくれるつもりくらいはあったのかもしれない。
でももう愛人を持つ自由も無くなってしまった。併合されたからだ。愛人なんてそんなことを望むべくも無いだろう。

エレインは軍に入ると言っていたので、エレインの学友として学校を続ける事もできない。

エレインは王都に実家の家族に会いに行くので、今日は会えないと言われた。けれど、たった一日だけでもエレインがいないと体が疼いてしまう。どうしても会いたくなってしまい、ひょっとしてエレインが戻ってきているかもしれないと思いエレインの家に行った。
当然エレインはいなかったけれど、エレインは戻ってこないかと思いずっと待っていた。俺はエレインのことを何も知らない。
街一番の裕福な家の御曹司だと思っていたけれど、よく考えて見ればおかしなことが多い。エレインとは小学校の頃から一緒だけど、誰もエレインの家族を見た人はいなかった。この家は使用人しかいない。
何度も通っている俺でも一度もエレインの家族を見ていないし、どんな家系なのかも知らない。

ふと疑問に思ってみるとどうしても我慢できなかった。エレインが留守なので強気になっていたのかもしれない。エレインの家を家捜しし始めた。そして見つかったのが転移魔方具だった。とても高価なものなのに、どうしてこんなものがここにあるんだろうと、手を伸ばしてみたら、一瞬で景色が変わった。

エレインの街での屋敷よりもずっと大きく、豪華な城だった。

ここが王都なのだろうか。俺にはここがどこがは分からなかった。戻るべきだっただろうが、それでも好奇心のほうが勝ってしまった。

人の気配がするほうに、足を進めていた。もし誰かにばれてもエレインの友人だと言えば何とかなるだろうと思ったからだ。

しかし足を進み続けて後悔をした。自分の身なりと比べてここにいる人々は余りにもきらびやかで場違いすぎたからだ。どうやら今日はパーティーなのか、たくさんの人々がこの城に来ていた。
そんな中で当然招待されているわけでもなく、勝手に忍びこんだ俺は場違いどころではなく、居場所はなかった。元々エレインを探すと言う好奇心だけで居るのだ、警備の人に捕まって問いただされる前に消えようと思った時に、エレインの声が聞こえた。
大広間の扉の影からそっとのぞき込んで見ると、たくさんの招待客に囲まれているエレインがいた。

「僕もようやく18歳になりました。一族の名に恥じない働きをして見せます。そして、やっと皆様に僕の恋人をご紹介できます」

どうやらエレインの18歳の誕生日パーティーのようだった。

こんな大きな城の王子様だったんだ、エレインは。田舎町の裕福な商人か貴族の息子くらいに思っていたが、旧王国の王城よりも大きなお城の息子で、きっといくらでも金があったのに、俺にくれる金はあんなものしかなかった。

そして、家柄も良いお似合いの階級の男とでも結婚するんだろう。
純潔が尊ばれるのに、13歳から男娼を買っていたなんてエレインはこの国に相応しい人間じゃない。幸せになんかなれるわけがない、ざまあみろとしか思わない。

「サンディ!」

何も聞こえない。

「サンディっ! 待ってよ!」

何も聞きたくない。

「どうしてここにいるの? さっきサンディがちらっと見えて、びっくりしたよ」

「悪い……お前が屋敷に戻ってきているかと思って会いにいったら、あの転移魔方具があって……使ったら、ここに出たんだ」

「そう、遅くなってゴメンネ。体が辛かったかな?……一緒に戻ろう」

「良いのかよ……今夜のパーティーの主役だろう?」

「良いよ、もう僕の出番は終わったし。ねえ、サンディ僕やっと18歳になれたんだ……これでやっとサンディと結婚できるよ!」

「……何、言ってんだ?」

エレインの世迷いごとなんか聞きたくなかったが、それでも聞こえてしまう。

「お前誰なんだよ! こんなお城の王子様だなんて言った事あったか? お前の前に今立つと怖いよっ! こんな高い魔力持っていたなんてっ……訳わかんないっ、何だよ、結婚って!」

「ごめん、色々事情があったんだ。全部説明するよ……サンディは僕のお嫁さんになる人だから、何も隠さない」

「勝手に決めるなよ! お嫁さん? 誰が、そんなの承知したんだよっ! お前みたいな正体も分からない奴と結婚? 今まで騙していたような男にこれ以上触れられたくないっ! 帰るっ」

今まで、そんなこと言われた事なんかなかった。エレインは俺との将来なんて一言も言わなかった。そして、エレインは嘘つきだ。国籍も偽って、身分も、全てが嘘で出来ている。見知らぬ男だ。

「サンディ!」

「6年間も好き放題してきたんだから、金だけは払えよな! 18歳になったら払ってくれるって言っていたもんな?」

エレインが見知らぬ男で、高い魔力を持っていて、罵倒するだけで勇気が要った。目の前にいるだけで怖い。

「ねえ、ちゃんと説明するからっ! 体が辛いから、精神的に不安定になっているんだよ。抱かれたら、もう少し冷静になれるから!」

エレインは俺を黙らせようと手を伸ばしてくる。俺を抱くつもりだ。俺は絶対に抵抗できない。

「冷静になれって言うんだったら、他の男に抱かれてくる! もう、エレインは嫌だっ!」



- 211 -
  back  






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -