この世には関わってはいけない物がある。

俺はちんけな盗賊の下っ端さ。
俺だって全うに生きたいと思った事はあった。だが生まれたのはスラムで、学もなく、親もなく、拾ってくれたのは盗賊をしていた親分だった。
そこでちまちまと盗賊をやりながら、それでも妻を娶って、子どもも儲けた。

それもこれもお頭のお陰だった。拾ってくれた親分は年を取り、お頭に盗賊の頭首の座を譲った。
お頭はどうして盗賊をやっているのか不思議なほど頭が良く、魔力も高かった。
お頭なら都で一旗あげる事は充分出来ただろうに、俺たちのことが見捨てられずこんな辺境で、ちんけな盗賊をやっていてくれている。
お頭がいるから、これまで捕まらず、貧乏だが暮らしに困らない程度の稼ぎを妻に渡してやれるのだ。

お頭は、盗賊をやっていても人としての尊厳を忘れるなとよく言われる。
人を殺すな、女や男を犯すな、貧乏人から金を盗むな。
裕福な商人に限って、盗賊家業をする事にしていた。

「お頭……どうします? この国まであの国に併合されちゃあ、商売上がったりだ」

そう、あの国にとうとうこの国まで併合されてしまったのだ。こんな小国をどうして併合するんだと、恨み言を言いたかったが、併合されてしまった物は仕方がない。あの国は犯罪者にとって、地獄のような国なのにだ……。
犯罪者に容赦のない国。特に盗賊などあっという間に殲滅させられてしまうらしい。
平和に暮らす人々にとっては天国のような国だろうが、俺たちにはこれ以上ないほど暮らしにくくなってしまうのだ。

「……仕方がないだろう。出て行きたくても、俺たちの拠点はここだ。そう簡単に縄張りを変えるわけにはいかない」

そうだ、家族もいるし、家もここにある。
それに犯罪者には縄張りというものがある。ここが嫌になったからといって、他所に移った所で排除されるだけだ。誰もいないところなどは旨味がないところだから、異動しても暮らしに困ってしまう。
もう長年ここに住んでいるのだ。ここが俺たちのホームなのだ。

「お頭の魔法があれば、あの国が出てきたって」

「そうだ! いくらあの国が最強だからって、こんな辺境の端までやってくるはずがないさ」

あまりにもあの国は大きくなりすぎた。こんな併合されたばかりの国境の端にまで、騎士団が来るはずがない。
そう、誰もが思い込みたかった。

そして何時もの仕事に出かけ、あっという間にあの国の騎士団に捕らえられた……

「ううっ……俺たちゃあ、どうなるんだ?」

「死刑だろうな……この国は犯罪にとても厳しいと聞いているからな」

「俺たちゃ、人を殺した事もないのに……」

「この国の騎士様のほうがよっぽど犯罪者だろうよ。よそ様の国から誘拐ばっかりして、気に入らないと国を滅ぼして」

「恨むなら、俺の力がなかったことを恨め……お前達を守れなかったことをな」

「お、お頭!!!」

お頭は悪くない。しばらく仕事は慎重にしようといわれ、盗賊家業を休業にするようにと命令されていたのにも関わらず、俺たち下っ端が暴走したせいでこんな事になったんだ。

「ほう……これが国境で捕らえたという、盗賊どもか………盗賊にしておくのには惜しいほどの、ふるえるような美人じゃないか」

おそらく、軍のお偉いさんだと思われる男が、お頭のことをいやらしい目で見ていた。
そりゃあ、お頭は盗賊なんかをしているのが不思議なほどの美形だ。
仲間の女たちも皆お頭の妻になりたがっていたし、下っ端の男どももお頭に抱かれたがっていた。
しかしお頭はストイックなのか、どんな美人を相手にしても手を出そうとはしなかった。

「お頭をそんな目で見るな!」

「そうだ! 俺たちのお頭だぞ!」

「その男を連れて来い……いいや、他の男に触れさせたくないな。私が連れて行こう」

「止めろ!!!!!!!!!!!お頭に触るな!」

「お頭!!!!!」

お頭は連れられていく際に抵抗はしなかった。きっと頭の良いお頭は、抵抗しても無駄だと分かっていたのかもしれない。
ただ俺たちに、大人しくして抵抗するなとだけ言った。

「ううっ……俺たちがお頭の言う事を聞かなかったから、お頭があんな目に」

「あんな目にってどんな目だ!?」

「決まっているだろ! 捕まった綺麗な女や男は、男どもにまわされるに決まっているだろ!」

「じゃあ、お頭はあの男たちに輪姦…」

「やめろ!!!言うな!!!!!」

俺たちは優しい盗賊だ。犯す事なかれと言われているが、大抵の盗賊は浚った男や女を弄んで売るのだ。
だからお頭がどんな運命にあうのか、俺たちには容易に想像がついた。

今頃お頭は……あの、綺麗な顔に男たちの汚い性器でも擦り付けられて、無理矢理飲まされて。
あの綺麗ですらっとした足を開かされて、男どもの汚い性器を無理矢理入れられて、何度も……

「…お頭! すまねえ! もう死んで詫びるしかねえ!」

「どうせ死刑なんだ……ここで俺たちが死んだら余計お頭を悲しませることになる」

お頭が騎士たちに弄ばれて疲れて戻ってきたら、俺たちの死体が転がっていたら……お頭を絶望させるだけだろう。
そんなことをさせるわけにはいかなかった。

「お頭が戻ってきたら、体を拭いてやろう……」

「この水瓶に入っている水で……おい、おめえら、水飲むなよ」

しかし、お頭は待てども待てども戻ってくる事はなかった。

そして俺たちは釈放された。勿論無罪放免という訳にはいかなかった。
強制労働が科せられることになったが、本来なら縛り首になるところを、何故か労働だけで済んだのだ。
しかも何故か家族もその強制労働の地に呼び寄せられ、厳しい労働だったが、食うには困らず、それなりに平和に暮らせた。

「今頃お頭はどうしているんだろうか……」

「思い出すんじゃねえよ……どうせ散々弄ばれて娼館にでも売られたんだろうよ」

「もうあれから20年か……」

辺境の小さな村にいたせいだろうか。盗賊をしていた頃と常識がそれほど変わっていなかった。

この国では、純潔が尊ばれる事。娼館なんかないこと。妻一筋の夫ばかりなので浮気なんかするはずもないことを知らなかった。
勿論一夫一夫制なのは知っていたが、この国で有名なのは誘拐である。誘拐するような男は絶倫で平気で美人と見たら犯しまくるような騎士ばかりなのだろうと、偏見があった。

「領主様がいらっしゃったぞ!」

こんな辺境の村に領主の一族がいらっしゃることなどそうない。
頭を下げて領主様を迎い……

「お、お頭!!!???」

「ほ、本当だ! お頭だ!」

「いや、待て……お頭だとしたら若すぎる……」

当時から全く年を取っていないように見える。どころか、若返っているようにすら見える。10代後半のお頭にしか見えなかった。

その領主様(実は領主様の息子だったが)は不思議そうな顔で俺たちを見ると、ああとでも言うように微笑んだ。

「お前達が、母上の部下だった者たちか」

「「「「は、母上??!!」」」」

「そうだ。母上はお前達が元気にしているかたいそう心配をしていたぞ。元気にやっているようなら母上も喜ぶだろう」

「え?……つ、つまり、お頭はあの騎士様たちに輪姦されたあと、領主様の愛人にでもなって、ご子息を儲けられた?」

「ははっ、何の冗談かな? わが国でそんな非道な事をする夫などいるはずがないだろう。父上は母上に一目ぼれをされて、すぐに結婚をし、それはもう愛し合ったそうだよ。君達の命が助かったのも母上が父上に懇願したお陰だ」

お、お頭!! 俺たちのために、好きでもない男の妻になったんですね!

「お、お頭に一目会いたいんです! 会わせて貰えねえでしょうか?」

「う〜ん。それは無理だと思うけどね。母上は家族以外の男に会う事は出来ない。それに、今、五人目の弟を身篭っていらっしゃるんだ。大事な体だからね、無理だな」

お頭にそっくりな綺麗なご子息は、そう言って領主の館に帰っていった。

「お頭は、あの騎士に無理矢理結婚させられ、五人も子どもを孕まされて……うう」

「まあ、そういうな。想像していたよりも良い待遇だろう? 領主夫人になっていて、しかも正式な妻だ。男娼として売られたと思っていたよりもずっと良い」

俺たちは、愛してもいない男に散々犯され、産みたくもない男の子を5人も孕まされて、お頭が不自由な暮らしの中、窓から俺たちのことを心配して泣いている姿しか思い浮かばなかった。



「母上、母上の昔の部下に会ってきましたよ」

すると、あまり興味がなさそうな顔でそうかと言ったきり、とても幸せそうな顔で大きな腹を撫でていた。
父上も母上のお腹を大事そうに抱いて、夫婦ラブラブを堪能していた。

昔はどうだったか私は知らないけれど。
母上は頭のいい方だったから、父上に抵抗せず従って、大人しく抱かれたのかもしれないし。
抵抗したけれど、無駄な行為で、父上に陵辱されて私を身篭ったのかもしれないし。

私が生まれる前だったので、何があったのかは知らない。

ただ高位魔力者である父の精を受けて、そしてそんな子どもたちをたくさん産んだせいなのか、母上は父上に依存しきっていて、父上と子ども以外にそれほど興味がないみたいだ。

ただ、そういう話を聞くと母上がとても可哀想な人だと思うかもしれないけど。

父の部下の人にそれとなく話を聞くと、母上はそれはもう妖艶な美貌を牢屋の中から振りまいていて、どう考えても父上を誘惑していたそうだ。
父上はその誘惑に逆らえずに、ふらふらと牢屋の中から母上を出してしまい、母上のほうから積極的にベッドの上で足を開いたらしい。
純潔だった父上はそんな母上の誘惑に逆らえるはずもなく。母上の処女を奪い、責任を取れという母上の言葉に喜んで責任を取ったらしい。

母上は父上に依存をしているように見えるけど、確かに依存しているんだろうけど、溺れきっているのは父上のほうだろうね。

元盗賊たちは物凄く母上のことを誤解して、泣いていたけど……たぶん、誤解を解かないほうが良いんだろうね。


こらこら、父上。母上はもうすぐ臨月ですよ。押し倒さないで下さい。

子ども達の前ですよ。

END





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