憲兵隊本部に入ると、今日の仕事をパラパラと見ながら、将来のことを考えていた。

この国で軍人の花形といえば、騎士になることだ。第一部隊〜第六部隊まである騎士に、皆は憧れる。
しかし、結構狭い門なのだ。魔力もある程度ないといけないし、身長制限や体力診断など、様々な制限があり、俺は運動神経が壊滅的だったため騎士採用試験には挑戦せず、どちらかというと官僚的である憲兵隊に入隊した。

勿論憲兵隊の仕事は、国の治安を維持する事である、犯罪の捜査や、部隊員たちが犯罪に加担していないかの捜査や貴族の不正に関わる重要な部署である。一部は部隊と重複するような仕事もあるが、基本的には部隊は国の安全と国境警備が中心。こちらは国の治安管理である。
時には魔力の高い貴族や部隊員たちとやりあうこともあるので、TOPに行くにはかなりの魔力がないと駄目だが、俺のように机で作業しているだけならそんなに高い魔力も必要ない。

「なに悩んでいるんだ? ファビアン」

「……両親から結婚をしろと急かされている」

「ファビアンのような貧乏貴族に来てくれるような嫁さんいるのか?」

そう、実家はとても貧乏なのだ。格式と歴史だけはある名家なのだが、ここ数代、没落が激しくとうとう全ての領地を売り払っていまやあるのは、家名だけという始末。しかも、没落していっていたから、たいした嫁が来てくれるわけもなく、代々段々魔力の低い嫁ばかりもらい、俺に至るという訳である。

家も没落し、魔力も段々低くなる当主たち。こんな家に喜んで嫁いできてくれる嫁などいるはずもない。

「仕事もたいしたものないから、昼飯でも食べに行かないか?」

実は憲兵隊って仕事が少ない。
この国って犯罪犯す人少ないからな。

貴族の犯罪などを捜査することもあるので、実際、犯罪犯している貴族も結構いるんだけどな。
この国ってみんな奥さんにしか興味がない人間多いから、私服を肥やしたり、横領したり、国の情報を他国に流したりする貴族は実は殆どいないんだが。けど奥さん一筋のせいで、愛する人を手に入れるためなら平気で犯罪する人間が結構いて、相手の家を平気で潰したり、強姦したり、たぶんあるんだろうけど……すべて影で上手く動く人間が多くて、表に出てこないまま終わってしまう事が多い。
被害者が名乗り出てくれない限りどうしようもないのが実情だ。

そのせいで、そんなに仕事が実はなかったりする。

定食を食べながら、今日の午後は仕事ないよなとかぼんやりと思った。

「さっきの話に戻るけど、何で急に結婚なんて両親言い出したんだ?」

「……金が尽きたらしい。最後に残った王都の家まで手放さないといけなくなったから、金持ちで借金返済をしてくれるような……」

「無茶だろ、貧乏底辺貴族の家に誰が喜んで」

「そう、だから嫁じゃなくって……婿を、だってさ」

ガッシャーンと婿と言ったとたんに大きな音がした。後ろを振り返ってその音の主を確認すると、盛大に食器を落として割っていた。

「アレン、何ドジっているんだ」

「……ファ、ファビアンっ! お、お婿さん取るの?!」

「まあ、嫁に来てもらうよりも確実だろうな。ファビアン美形だから」

別に俺は可愛い顔をしているわけじゃない。可愛いというのなら、このアレンのほうが余程お人形さんのように整っていて愛らしい顔立ちをしているだろう。アレンは金髪で青い目の可愛らしい顔立ちの、憲兵隊長だ。こいつなら部隊に入っても十分出世できたはずなのに、同期の俺が憲兵隊に入るといったら、僕も一緒に行きたいといってこちらに入隊した。
そんなかわいらしい顔立ちのアレンに比べて、俺のほうは体力はないんだけど、顔だけは男らしく整っていて、正統派の騎士のような美形だとよく言われる。

妻にと求められる基準は、他国のように女みたいな、というわけではない。
勿論可愛らしい男性はそれはそれで人気がないわけじゃないが、俺のように普通に男らしいというのも、普通に人気がある。
貧乏貴族に嫁ぎたくはなくても、貧乏貴族を嫁にという声はそれなりにあった。持参金がなくてもいいので、という申し込みはいくつかあったが、両親は一人息子の俺にもう価値等ない家を継いで欲しいらしく、立て直してくれる婿を連れてきてくれと言うのだ。

「……ああ、金持ちの嫁よりも金持ちの婿を両親は連れてきて欲しいんだ。しかも魔力の強い男……ここら辺で魔力の高い血筋を入れて、子孫の魔力を高くしたいらしい」

魔力の低い嫁ばかり入れていては、段々下がっていく一方だ。

「アレンは名家だろう? 誰か良い人知らないか?」

「……おい、お前ちょっと酷いだろ?」

小声で友人が肘鉄を入れてくるが、無視していた。酷いというのは、どうみてもアレンは俺のことが好きだからである。学生の頃から俺にばかりくっついてきたし、俺が憲兵隊に入るといったらまたついてきた。
これだけで惚れていると判断するのか? と言われそうだが、周りがみんな言っているのが間違いはないだろう。

そんな俺に惚れているはずのアレンに夫を斡旋しろと言っているのだから、酷いといえば酷いだろう。
しかしコイツは学生15歳で出会ってから10年、ひとっことも好きだと言ってこないんだぞ。
どうしろっていうんだ。


「……僕、分からないよ……」

「条件はだな。まず、婿に来てくれること。できれば次男が良い。金を持っていること。うちの借金を返してくれる人。魔力に秀でている事。顔は、そうだな……可愛い顔立ちが好みかもしれない。そういう奴いないか?」

落ち込んでいて今にも泣きそうな顔が、段々と晴やかになっていくアレン。

「僕、僕知っているよ!」

「そうか……なら見合いをセッティングしてくれ。アレンはその相手を連れてくる事。キースには仲人をお願いしようか。明日の12時にうちの家(抵当に入っている)で見合いで良いか?」

「うん!……ファビアンって、可愛い顔が好みだったんだね」

「……まあな」

いや、実は全然そんなの好みじゃないがな。

「おい、何で俺が仲人なんだ?」

「誰か司会をしてくれる人がいないと、話が進まないだろ?」

「だいたい、アレンに見合いを斡旋させるなんて止めろって、肘鉄しただろ! いくらなんでも惚れられている男に男斡旋してもらうなんて、アレンが可哀想過ぎるだろ!」

「明日、見合いに来てみれば、俺がひどいことをしたかどうか分かるさ」

そして、約束の日。普通に考えれば、見合いをお願いした翌日見合いなんてことは不可能だ。だが、俺とキースとアレンが休みだった事はシフトから分かっていたので問題ないと判断した。見合い相手は?……それも問題ないはずだ。


「えっと……見合い相手は何処なんだ? アレン」

その場にいたのは、俺とキース(仲人)とアレンだけだった。

アレンはモジモジして、本来だったら見合い相手が座る席にアレンが座っていた。

「えっとね……あのね……すごく色々探したんだけど、ファビアンの条件に合うのは、僕だったんだ」

「はあ??」

「だってね!……僕ね、辺境伯家の次男でしょう? だから、お婿さんに行くのも問題ないんだ! お金も一杯あるし、魔力も強いから魔力の強い子一杯できるし! それに、可愛い顔をしているのって、本当に色々探したんだけど僕しかいなかったんだ! だから、僕がお見合いに来ました……」

もじもじと恥ずかしそうにそういうアレンは可憐に見えた。
一人混乱している仲人キースに落ち着けと、心話を送る。

(え? 普通お見合い相手斡旋するのに、本人が僕が条件に合いますってやってくるか??)

(アレンはそういう男なんだよ)

「条件に合う男を探してきてくれたのは嬉しいが……親友であるアレンに、俺の家の都合で意に沿わぬ結婚をしてもらうわけにはいかない。特に辺境伯家のような名門中の名門の家にそんなことを頼むなんて道理に合わない」

「そんな僕はっ……」

(おい、せっかくアレンが自分から婿になりますって言ってきてくれているのに、何で断わるんだよ! 良い条件じゃないか?)

(良い条件だが、あいつは俺の条件に合うのは僕なんです。だからお見合いに来て、お婿さんになります! って、あっちの立場が物凄い上じゃないが! そんなんじゃあ、俺が手綱を取れないだろ! あっちからお婿さんにさせて下さいってお願いされるまで頷かん!)

アイツは俺のことずっと好きだったくせに、プロポーズもしてこなかった。しかも、これでお見合いが成立してしまったら、俺はアイツの家に助けられたという歴史がずっと残ってしまう。
アイツがどうしても俺と結婚したかったんです、という言質を取っておかなくてはならない。

「…僕、僕……」

「アレン、俺はお前には好きな人と結婚して欲しいんだ。条件に偶然あったからって、お前が犠牲になる必要はない。お見合いはこれで、お開きで……」

「僕、僕……っ!」

お前、ずっと僕、僕、言いやがって、何で肝心な事が言えないんだよ!
お見合い当事者には平気な顔で来れるくせに!
こっちはずっとお前がこれ以上ない条件の男だったから、他の見合い断わって来たんだよ。

「まあ、まあ、アレン……お前は同情なんかじゃなくって、条件が合うからここに来たんじゃないよな?」

「うん!」

「ファビアンのことが本当は大好きだから、他の男と結婚させたくなくって来たんだよな?」

コクコクと頷くアレン。

「ファビアンと結婚したくてしょうがないんだよな?」

また頷くアレン。段々イライラしてきた。キースは良い司会をしている。けど、どうしてそんなに言えないんだ!

「なら、ファビアンにプロポーズしろよ」

するとまたモジモジして俺のほうばかり見るだけで、時間が過ぎていく。
だからアイツに任せたら進まないから、キースに司会を任せているんだろ!

おい、キースをつつくと、仕方がないと進行を続けるキース。

「なら……アレンはファビアンが好きでポロポーズすると言う事で良いか?」

「うん」

「ファビアンも受けるってことで良いか?」

「ああ」

するとパアアと顔を赤らめて嬉しそうにするアレン。乙男にしか見えんな。

「じゃあ、婚約成立と。結婚式は一ヵ月後で良いか?」

「うん……」

「ああ」

しかしアレンはうん、と良いながら段々憂鬱な顔に変化していく。どうしたんだ? 何が気に入らない? こんなアホらしい見合いの席まで用意してやったと言うのに。

「あ、あのね…ファビアン、結婚の前に言っておきたい事があるんだ」

「何だ?」

金を持ってきてくれないとかか?

「僕ね僕ね……お母様がお父様と結婚したとき物凄いショックなことがあったんだって……お母様はお父様が可愛い顔に似合わないで毛深いことにショックを受けて……僕もお父様に似ちゃったんだ。初夜で嫌われたくないから……今言っておくけど…」

「いや、お前……男だし、そもそもお前の身体が毛深い事ぐらい、見たことあるから」

同じ学校で、着替えとかで見たことあるから。毛深いからって、嫌ったりしないけどな。
まあ、顔に似合わないだろうけど。

「それにそれに……お母様が一番驚いたのは、その……凄く、大きいんだ! 僕も遺伝しちゃったみたいで、ファビアンに嫌がられないかなって」

(何が大きいんだ?)

(そりゃ、ナニだろ)

「ああ……いや、まあ……お手柔らかにしてくれれば、そんなに気にしないけど」

いや、気にする所なのか?
でも、アレンの母もそれでも3人子どもを儲けたんで、子作りには支障はないんだろ?

「僕嬉しい! どんな僕でもファビアンは受け入れてくれるんだね! 僕良い夫になるから!」

貧乏貴族なので、アレンの実家には結婚は受け入れられないかと思ったが、皆アレンが好きな人と結婚できて良かったねと歓迎してくれた。
三兄弟のうち、アレンが一番早い結婚だったので、他の二人が結婚できなかったら俺の子を養子にもらうからがんばって作ってねとお願いされたくらいだ。それにしても可愛い遺伝子凄いな。兄のリオンは可愛い綺麗系。アレンはお人形みたいな可愛い顔立ち。弟のイアンは巻き髪のこれまたお人形みたいな子だった。
それに持参金も凄かった。領地まで一緒に持ってきてくれてしまって、両親も驚愕していたが、これでも辺境伯家全体から見ると、何十分の一しかないらしい。まあ、いろんな国併合しまくっているので、公爵家とかこの辺境伯家も、普通の国以上に領地持っているから。

そんなこんなで俺の玉の輿作戦は成功した。
けれど、俺が上に立つためにアレンからプロポーズさせようとしたのは、たいした意味がなかったことに気がついた。
どのみち、子犬のように俺に甘えてきて、俺の機嫌を伺っている可愛らしい夫が出来上がっていた。これなら俺と結婚しようとこちらからプロポーズしても大して変わらなかったかもしれない。

それで申告があった、でかかった…のは、想像以上にでかかったが、事前に申告してもらっていたのもあって、そんなに気にはならなかった。それよりも毛深さが学生時代より進化していたほうが驚いたかもしれない。

「なあ……お前、条件にあう結婚相手にアレンが引っかかったけど、アレンのこと好きでもないのに金目当てで結婚したのか?」

「……あのな……俺は自分のプライドにかけて俺からは言いたくなかった。けど、好きでもないとあの毛深さや、でかさに我慢できると思っているのか?」


顔も好みじゃないし、はっきりいって色々気になる点がないわけじゃない。

けど、プロポーズもできない恥ずかしがりやの乙男を俺はそれになり好きだったりするんだ。





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