「独立したい?」
「うん、そうなんです。そろそろ軍を辞めて、独立して病院を開設しても良い時期じゃないかと思いまして」
親友のその言葉に、俺たち友人&夫は。
「駄目だ! お前みたいなお菓子みたいな頭の持ち主が病院経営なんて無理だ!」
「騙されるに決まっているだろう! 今のまま軍の所属を続けたほうが良い!」
騙されるに決まっているという友人軍医の夫の言葉に、俺たち一同はお前が騙したんだろうと言いたくて堪らなかった。
そう、宴会を開いて友人軍医(シャルティー)と友人(エバン)と一緒に飲んでいた時のこと。
お酒が入ると未婚者でも、シモネタが入るのは仕方がないことで。
「……実は俺……最近たたないんだ。インポかもしれない……」
友人エバンのそんな酒が入ったゆえに深刻な悩みを告げられて、医者であるシャルティーはエバンの悩みを真剣に聞いていた。
確かにこの年で未婚でインポになったら悲惨だろう。
けれど、確か見たくもなかったけど、この前の宴会の朝、皆で雑魚寝をしている時にエバンのあれは、相当朝の恒例行事をしていたように見えたけど、酒のせいかな。
「そうなんですか……大変ですね。私でよければ、エバンの治療に当たらせてください」
「ありがとう、シャルティー」
身体的なことでもあるので、皆の前では診察ができないからといって二人で帰っていった。あんなに酔っていて診察なんかできるのだろうか。
翌朝、シャルティーは二日酔いなのか顔色が悪いまま出勤して来ていた。
「どうした、シャルティー。大丈夫なのか? 二日酔いの薬をいるか?」
「……いいえ……その、インポの治療をしていたら……」
「インポの治療で顔色が悪くなるのか?」
「その……インポだと言うので、刺激を与えてみて反応するかやってみたんですが……インポと言う割には物凄く早く反応したんですが……何時もは勃起しないので、挿入まで出来るか自信がないといわれ、試してみたいとお願いされてしまい」
「おい! それで挿入までさせちゃったのか!?」
「はい……」
はいじゃねえだろ! どう考えても騙されているだろ!
インポがそう簡単に勃起しねえよ!
「アホか! そこまでさせる医者がどこにいるんだ!?」
「で、でもエバンは幼馴染ですし、困っているからどうしても断われなくて……結婚する前に、インポが治っていなかったら申し訳ないからと言われると医者として」
「エバンに結婚の予定はないだろ」
「ですが、そのうちそういう予定があるかもしれないですし……私は医者ですし」
「医者だからって処女を簡単に破らせるな! 責任取らせろ!」
処女を奪ったら問答無用で結婚だぞ。
「エバンもそう言いましたが、あれは医療行為なんです! 医療行為に患者に責任を取らせる医者はいません!」
いや、お前……エバンのインポはどう考えても嘘だと思うし、インポと言いながら性交を成功させて結婚にも連れ込む気満々だったと思うぞ。
俺たちは皆知っている。エバンがお前の事を好きだということはな。
だがお前が鈍すぎて、結婚までいたりそうもないからエバンがあんな手段をとったんだと思う。
それでも医療行為だから結婚しないといわれると、エバンが腹黒なのか、可哀想なのか分からなくなっている。
「エバンは子どもの作り方を分からないといわれて……教えて欲しいと」
それから数ヶ月して、シャルティーの部屋からエバンが出ている姿が頻繁に見られて、どういうことか詰問した所そんないい訳が返ってきた。
「あのな……この前、インポの治療の時にしたのが子作りだろう? だからな、もう教えているわけだから、再度教える必要はないだろう?」
「私もそう思ったのですが、酔っていたので何をしたか覚えていないと言われてしまい……生殖器を勃起させ挿入するだけですと言ったのですが……実際にやってみないと分からないといわれてしまうと……医者として教えてあげないといけないと思い、私も知識だけでしたが……私がユーリ隊長兄弟の子作りを手助けした実績を見込まれて頼まれたら断われなくて」
実績って……それだってユーリ隊長や隊長に騙されたというか、変な命令を受けただけだろう!
そんなもの、褒められて、体許すアホがどこにいるんだって、ここにいるんだよな………
「百歩譲って分からないとしても、一回だけで良いだろう? 何で何回もさせるんだ!?」
「その……受精させる方法が分からないといわれてしまい……こればかりは私も言葉でしか説明できなくて……射精の際に妊娠させるように魔力を込めるんですと言ったのですが……やはり実地練習をして成功しないと分からないといわれてしまい……」
「お前な! 成功するってことは妊娠するってことだぞ!」
「はい……そうですが?」
「お前、妊娠するまで練習に付き合って、未婚で妊娠したらどうするつもりなんだ!」
「はっ……そ、そうですよね……もう、しないようにします」
流石に流されすぎている事を自覚してくれたのか、エバンが頼んでいる受精の練習とは、イコール成功したと分かるにはシャルティーっが妊娠するしかない。それはいけないと流石に分かってくれたのだろう。
しかしもう時は既に遅し……受精の練習の結果、シャルティーはもう妊娠していた。
「どうしましょう……?」
「どうしましょうじゃないだろ! もう……エバンに責任を取らせて結婚してもらうしかないだろ」
「でも、医療行為をしただけなのに……」
「それが医療行為だと思っているのはお前だけだ!!!!!! いい加減にしてさっさと婚姻届けだして来い!!!」
シャルティーに任せていたら話が進まないので、エバンにシャルティーを妊娠させた責任を取って来いというと、喜んでエバンは責任を取りにいった。シャルティーも医療行為なのに、みたいなことをまだ言っていたが、エバンにかかれば丸め込むのは簡単だ。
「お前、もう少し何とかならなかったのか? もっとスマートに告白するとか、求婚するとかさ」
騙して孕ませる前にもっと健全なお付き合いからスタートはできなかったのだろうか。
「じゃあ、聞くがな。あいつにプロポーズしなかったとでも思っているのか? 両親を引き連れて求婚に行った事もあった。結婚を前提に付き合ってくれと言った事もあった。何度言っても次の日になかったことにされてしまうし、私は医学の道を志すために一生独身でいますとも言われたな。あいつには正攻法で行っても無駄だ……」
気持ちは分からないでもない。
「それに騙されやすいしな。他の奴に騙されて良いようにされるくらいだったら、先に俺が騙して丸め込むほうがマシだろう?」
「そうだな……全然知らないやつに丸め込まれるのを見るよりも、幼馴染のお前のほうがまだマシか」
こうしてシャルティーは目出度く嫁に行ってくれた。
そして軍医をしながらポコポコと子作りをしていった。
「そんなに……私は騙されやすいのでしょうか?」
皆から独立を反対されたシャルティーは落ち込んで、そうポツリと言った。
どう考えてもこいつの人生は騙されて過ごしているだろう。今の夫や子どもも騙されて作ったわけだし。
これが外国だったら……領主や国王が好き勝手妻を増やす国もあるというし、領民は全て領主のものという風習もあるらしい。こいつが外国に生まれていたら、きっと何処の誰とも知れない子どもをポコポコと産まされていただろう。
「どう考えても騙されやすいから、公務員のままでいようか」
もう夫からして騙されて作った存在なんだから、と皆は心の中で思いながら、独立を阻んだ。
子沢山のシャルティーを見るにつけ、確かに子作りは上手いんだろうな………と、数々の功績(ルカやアンジェの作成を不本意ながら手伝ってしまった)を見ながら、遠い目で見ていた。
END
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