「ねえねえ!……エミリオは僕と運命の恋人だったし、婚約者だったのに、エミリオは僕は捨てようとしたでしょう!?」

叔父と兄夫妻に会いに行き、とうとう私とギルフォードが昔婚約をしたことがばれてしまった。
私としては、子どもの約束だろう。婚約破棄をしたとしても7歳と3歳の間のたわいない約束だし、それほど恨まれるような事でもないと思うのだが。

「………」

「僕が子どもだったのを良いことに、エミリオは僕と婚約までしていたのに勝手に婚約破棄を」

「私だって忘れていたんだ」

だいたいあの頃は、兄が家出して、しかも相手は叔父だという。叔父に恋した兄にびっくししたというか、家出されて家の中がギスギスしていて、ギルフォードと結婚の約束をしたことなど、忘れ果てていたんだ。

「だいたい、お前だって忘れていたんだろう? 人のことばかり責める立場か?」

「だって……僕、まだ3歳だったんだし」

「私だって7歳だ。お前はリエラに帰国していたんだし、そんな昔の約束を覚えていなかった事ぐらいで責められるいわれはない!」

だって考えても見ろ。昔のギルちゃんは天使だった。凄く可愛かったんだが、その15年後、リエラ王子として現れたギルフォードは、まあ美人だったのは変わらないが、変態に変わり果てていたし、あの頃のギルちゃんと同一人物であることなんか分からなくても責められるいわれはない。

「それに、結果的に私と結婚できたんだから、約束は守った事になるだろう?」

「そうだね! 僕、エミリオと18歳の時に再会だったって分からなかったけど、僕の運命の人だと思ったんだよ!」

と、この時以来、ギルフォードにとって私達は運命の恋人、幼い頃の恋を成就した間柄という、無理矢理結婚したはずなのに、相思相愛だと思い込んでいる節があった。



「なんか、そういうところってギルフォード王子と隊長って似ていますよね」

「え?……隊長とギルフォードが似ているのか?」

「だって、あの作戦でエミリオ分隊長って生け贄にされたわけじゃないですか。でもギルフォード王子の中では、結ばれるための試練だった、結局結ばれる運命だったみたいな感じに脳内変換されているし、隊長も何時の間にか生け贄にささげたはずなのに、一族の長として素敵な夫を選んでやった、って思い込んでいますよ」

「……まあ、うちの一族ではそういう思考回路をしているのが多いから、今更驚かないが」

むしろ、ユーリやアンリ様みたいな冷徹で計算高い性格のほうが珍しかったりするんだが。

能力が抜群に高く、頭も良くカリスマ性もあり、何もかも恵まれているはずなのに、ちょっとどこか抜けているけど、抜けている分魔力で何とかする、みたいな性格がうちの一族には多い。

「ルカもそんな性格になるんでしょうか?」

「もう片鱗が見えているだろう……」

つい先日、エルウィンと隊長は2年ぶりに合体したそうだが、息子のアシストもあったらしい。その息子ルカ王子は従兄弟のアンジェと結婚したいがために父親に協力したのだ。

「アンジェ君なんかは、長男だけどあんまりお父さんに似ていないから、クライス様に似たら暴走とかしなさそうで良いですよね」

「……俺に似たら似たらで大変そうだけどな」

「え? どうしてですか?」

「俺は、本来だったらそれなりに強いはずなのに、あんな男に見初められたせいで……俺みたいな目にアンジェもあったら可哀想だと思ってな。それだったらユーリににたゲスな性格のほうがマシじゃないかと最近思ったりしてな」

確かにクライスは同世代の中では10本の指に入るほど魔力が優れている。他国に行けば、すぐさま一国を制圧できるだろう。それがユーリなんかに惚れられたせいで子どもを三人も産まされて、子どもの頃から友人だっただけに気の毒になってしまう。しかもその夫は私の親戚だし、自分がやったわけでもないけれど何となく申し訳ない気分になってくる。

「まあ、アンジェは大丈夫だろう。アンジェより強い子どもは今のところいないし、同じ魔力をもつルカにだって、年上というハンデがあるんだから、そうそう負けることはないだろうし」

「まあ、そうだな。性格よりも、王妃に望まれる件をなんとかしないと、一生結婚できないままになりそうだけどな。公爵家の嫡男が王太子に結婚を邪魔される……目に浮かびそうだ」

公爵家ともなれば王家をしのぐ勢力を持っている。しかし、同系統の隊長が王太子になり今度国王となる事によって同じ一族になってしまう。今までどちらかと言うと王族は真面目な性格が多く、公爵家は誘拐大好きな変態家系で有名だったんだが。
実家を見てみれば分かるだろう。王族のセシル叔父はモラルに厳しく、真面目な性格をしていて。公爵家の血も引く兄は、やりたい放題の、血族結婚だから何が悪いの?という思考の持ち主だ。
叔父も本当に兄が好きなのか疑問に思うところだが、甥に甘すぎるせいで最後には押し切られ妻になってしまったのだろうと推測している。
甥が大好きな人で、この前も次男のウィルを連れて行ったら、また泣いて喜んでいたな。私が生まれた頃にそっくりだと。

ともかく同じ血を引く家族や親戚を見ると、ルカに好かれたアンジェの運命は余り良いものじゃないだろう。

「子どもができなくても、アンジェがルカと結婚したいというんだったら考えるが……まだ子どもだし、ルカのことを弟達と同じようにしか見ていないんだよな。ジュリスもユリアもユーリや隊長に良く似ているから」

「エルウィン、お前はもっと子どもを作るべきだな。うちの一族は愛する人のためなら平気で家族も裏切るし、家出だってするから二人の王子だけじゃ安心できないと思う」

「そういえば、この前の騒ぎで3人目できてなかったのか?」

隊長の命中率は凄いからな。でも、実はギルフォードも命中率が凄かったりする。誰にも言っていないが、二人目のウィルバーを作ろうといったときに、たぶん一発命中したと思う。ギルバードの時も特殊魔法の持ち主の手助けがあったとは言えすぐにできたし。

「大丈夫でした。俺も心配していたんですが、よく考えると隊長は二回目伝説の人なんですよ。ルカもサラも二回目でできたんで、次は危険ですが、今回は何とかセーフでした。もう二度と老けるといわれようが、家族の中で俺だけがおじいちゃんだろうが、国民にセックスレスがばれようが、他国からHさせてもらえないかわいそうな王と言われようが、もう二度と隊長としません!」

私も運命が間違っていれば隊長の妻になっていた可能性があったかもしれないし、エルウィンが変態の夫を持つのが嫌な気持ちは分からないでもない。

だが、何故か隊長が可哀想だと思ってしまう気持ちは、部下の分隊長達と同じなのかもしれない。

「だいたい老ける云々もあとで調べたら60歳まで老けたとしても、またしちゃえば若く戻るって言うじゃないですか! そういうことも隊長言わないで、Hしないと俺だけ老けちゃうからって! 老けて、どうしても若く戻りたくなったらまたその時すれば良いわけじゃないですか? 何も今急いでする必要もないっていうのに」

「まあ……そうなんだが」

だが、別にエッチは若さを保つだけのものじゃないだろ。夫婦の愛情表現というか。この中で誰も夫婦相愛なメンバーはいないから、エッチは愛情表現だろ、というのも何か違う気はするが。

私の知り合いの中で両思いな夫婦は果たしていただろうか。

私は恒例のお茶会を終えると、叔父たちのところにやってきていた。ギルバードとウィルバーを連れて行くと、相変わらず喜んで大歓迎をしてくれる。
兄は叔父と結婚するために、母の実家の跡を継いでいる。

「叔父さん、今だから聞きますが……兄さんと結婚して幸せなんですか?」

「……え?っ……急に何?」

「だって、どう見たって叔父さん、兄さんに押し切られて結婚したでしょう? 好きでもない相手と結婚して幸せなんですか?」

私が言うのもなんだがな。私もギルフォードを全く愛していなくて結婚したし、それでも第二子まで儲けたので人のことをどうこう言う権利もないんだが。

「……エミリオには申し訳ないことをしたよね」

「それは別に良いんです。家のことはギルフォードがやってくれていて、私は別段何もしていませんし」

「いいお婿さん迎えたよね。あの子エミリオのことが大好きって見ているだけで分かるから、あの子がエミリオの夫で嬉しいよ」

叔父さんには昔からの結婚の約束を守って結婚した私達は純愛を貫いたと勘違いをされている。まあ、わざわざ夢を壊すこともないかと思って黙っているが。

「あのね……私はエミールのことを愛していないわけじゃないよ。凄く凄く大事で……大切にしてあげたいんだ。エミールが幸せなら、私もとても幸せなんだ」

この人を見ていると、刷り込み現象と言うか、被害者が加害者に惚れてしまうという現象がまさに目の前で起こっているような気がしてならないんだが。

「エミールがこんな私とでも一緒にいて幸せなら……叔父とか甥とか……そういうことにこだわるのはもう止めたんだ。色んな人を傷つけて、大切にしないといけない人を捨てたりもしたんだけど……一生許されないようなこともしてしまったけど、エミールのために生きて行こうと思えたんだ」

駄目だな。こんな純粋な人に夜の生活はどうなんですか? 知り合いに両思いの人がいないから分かりません、教えてくださいとはいえないな。

「でもね、内緒なんだけど。エミールとエミリオだったら私は、エミリオのほうが大切なんだよ。言ったら怒るから言わないけど」

はい、昔から叔父さんは甥が好きすぎですからね。


「おかえり。ギル、ウィル、エミリオ! 寂しかったよ!」

「たった半日出かけていただけだろ。お前も仕事ご苦労だったな」

綺麗な顔からは想像もできないほど筋肉のついているギルフォードは長男と次男を簡単に抱き上げてあやしていた。

うん、まあ、初期はどうなるかと思ったほどの変態だったけれど、私の両親も丸め込んでしまうほど良い夫良い父親をしているよな。

「ウィル、段々顔立ちがはっきりしてきて、エミリオに良く似てきたよね! 可愛い!」

ウィルバーはギルフォードのお気に入りの子だ。
ギルバードはギルフォードが無理矢理孕ませたわけだが、ウィルは私の同意のもと作った子だからか、余計可愛いらしい。

「お前子ども好きだよな……」

「だって僕とエミリオの子なんだもん! 可愛いよ!」

「……じゃあ、もう一人くらい作るか?」

何となくそんな言葉があふれ出てきた。

兄やユーリや隊長、ルカなどを見ていたら、公爵家の血を引くわが子の将来が心配で、二人じゃ足らないような気がしてきた。
というわけでもなくて、私も子どもが愛おしいから、もう一人くらい欲しくなってきたのかもしれない。

「え?………あの……エミリオが僕の子が欲しいの? 現実逃避じゃなくって?」

「まあ、ウィルの時はそうだったが……もう一人位いても良いと思わないか?」

「うん! うん! 良いと思う!」

好きでもなく、勝手についてきた夫だが……まあ、一緒に過ごしていくうちに、可愛く思うようにもなるのだろう。

最近、特にエルウィンやクライスを見ていると、まあ、私の夫のほうがまだ良いよな、と思うようになることが多かったのも原因のひとつかもしれない。

隊長の言葉通り、いい婿を選んでやったと思われるのは癪に障るが……

いや、そもそも私が7歳の時にギルフォードと結婚の約束をしたんだから隊長は関係ないだろう。

決して始まりは良かったとはいえないが……まあ、最近は良い夫で良い父親なので、良しとするしかないだろうと最近は思い始めている。

「早く! 3人目作ろう!エミリオ!」

END




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