「有り得ない! 何故、こんな男が美男選手権一位なのだ! この男は処女ではないぞ!!!」

その言葉で、俺の一位は無くなってしまった。

しかも、その後すぐあの国に併合されてしまい、一夫多妻制からあっというまに一夫一夫制になった。

純潔は尊ばれるもの。その中で俺は面と向って処女じゃないと、誘拐貴族に宣言されたせいで、居場所がなくなっていた。


俺だって好きでこんな目になっているわけじゃない。

俺が生まれた国は貧富の差が激しく、俺の家も底辺に毛が生えたような家だった。
父親は他にも家庭があって、いわゆる俺の家は数多い妻にもしてもらえない愛人の母と、兄弟たちだけの貧困家庭だった。

そんな俺にも希望はあった。俺は子どもの頃から優秀と言われ、魔力もそれなりに秀でていた。
このまま18歳まで学校に通い、その後専修学校に行き、資格を取れたらきっと家族に楽をさせてあげられるだろうと。

しかし、そんな学費はうちにはなかった。
あるのは借金だけ。

それでも無料の小学校にだけはいけた。その後の学費は続かないだろうことは、子どもの俺でも分かっていた。

そんな時に悪魔のささやきがあった。

体を売らないかと……俺は、金が欲しかった。金が欲しくて、少しでも上に這い上がりたくて、今思えば馬鹿だったが、有り得ないほどの安値で体を売っていた。
今思えば相場を知らなかった、子どもだったからだ。

それからずっと体を売り続けて、今に至る。

でも、当時は嬉しかったんだ。母は稼いできたお金はほとんど借金の返済に回ってしまい、よくに食べる物もなかった。でも、身売りをしてくれば俺が自由にできるお金が手に入った。そのお金で、弟たちに腹いっぱい食べさせてやれた。
だから売春と言われようが、体を売った事自体は後悔していない。

だけど、余りにも易く買い叩かれた事については、俺が馬鹿だったと何度も涙を零した。


小学校の卒業式だった。俺はこれで上の学校へは行けなかった。ここまでは無料だが、この先進もうと思えば莫大な授業料がかかる。
そんなお金などあるわけなかった。

「サンディ、この先も学校に行きたい?」

そう聞いてきたのは、クラスで一番の、いや、たぶん学校で一番の金持ちのクラスメイトだった。

「行きたいけど……エレインみたいに金持ちじゃないから」

「僕がサンディの授業料を出してあげようか?」

「お前が? 何で……だいたい、そんなお金」

エレインの家はお金持ちだろうが、エレイン本人がお金持ちという訳ではないだろう。

「僕の学友ってことなら、お金出してくれるよ。そういうの、上流階級では良くあるんだ」

上流階級のことは良く知らなかったけれど、ようするに付き人ということだろう。エレインの世話をしたり、メイド代わりということだろうが、それでも俺は学校に行きたかった。

エレインの学友として、学校に通える事になったのは嬉しい。けれど、俺の家は小学校に行く事じたい贅沢なことだった。子どもは働き手だ。いくら無料とはいえ、貧しい家庭の子どもは小学校など行かず、働くのが普通だった。
俺も本来ならいくら将来のためとはいえ、エレインの家の援助で学費はかからないが、学校に通っている余裕などなかったのだ。
そのため、学校が終われば働かなければいけなかった。

「サンディ、僕が君が稼ぐ分くらいのお金を出してあげるよ」

この意味が分からないほど子どもじゃなかった。けれど、そこまで世の中に精通していたわけでもなかった。

エレインに体を売って、弟達の生活費を稼いだ。エレインは俺が日々汗水たらして稼ぐよりも多くのお金をくれた。だから俺はその金が少ないなんて思いもしなかった。その金があれば弟たちの腹は膨れた。だけど贅沢できるわけではない。借金の利息をなんとか返しながら、空腹に泣かない程度のお金、ただそれだけだった。

「サンディ、君はとっても綺麗だよ」

エレインに初めてお金で体を売ったのは13歳の時だった。自分で納得していたとはいえ、酷く惨めだったのを覚えている。だってそうだろう。売春なんて褒められたことじゃない。したくてしたわけじゃない。俺にだって初めてには、それなりの夢もあった。好きな人としたかった。

エレインほどお金持ちだったらこんな事をしなくて済んだのに、と何度思ったか分からなかった。

「んっ……」

エレインが達したのを腹の中で感じて、思わず呻いた。何時までたっても慣れなかった。

エレインに抱かれた後で、お風呂を借りる。ベッドから起き上がると、エレインの物が流れ出した。それを不安な思いで眺めるしかない。

「どうしたの? サンディ。痛かった?」

「そうじゃないけど……」

「ごめん、まだ慣れていないから乱暴にしたかも。ちょっと興奮しすぎていて……次はもっと優しくするようにするから、許して」

お金を貰っているんだから、どんな乱暴をされようが文句は言えない。優しくされようが乱暴にされようがどうでも良い。

「……あの、避妊って……ちゃんとしてくれている?」

最近気になってきたのはこのことだった。初めはお金が無い、ばかり気になっていて、そういうことまで気が回らなかった。けど回数をこなしていくうちに思ったこと。避妊をしてくれているかということだ。
避妊の方法は2つ。あまり効果が定かではない避妊薬を飲むか、避妊の魔法具をつけるかだが、どちらも物凄く高価で俺には手が出ない。
避妊薬は俺が飲むんだろうし、魔法具はエレインがつけなければいけないが、どのどちらもしていない。要するに避妊をしていないことは百も承知だったが、それでもそう聞くのは、して欲しいという要望でだ。

「ん?……避妊なんてしようがないだろう?」

「魔法具とかっ……あるって聞いたよ」

「そんなのあるの? 知らなかったけど……そんな無粋なもの、僕とサンディの間に要らないだろう?」

「でも……っ」

「そうだね、僕たちまだ大人じゃないからサンディを妊娠させるのは、まだ早いよね。気をつけるよ」

気をつけるといってくれてからも避妊をしてくれている様子は無かった。でもお金を貰っている分際で、これ以上お金をかけろと要望することはできなかった。
こんなふうに、俺や弟たちは生まれたんだろうか。

「そんなに心配しないで。もしできたらちゃんと責任を取るから」

養育費をちゃんと払ってくれると言う事だろうか。それとも数多い妻の一人にでもしてくれるという意味だろうか。しかし妻の座なんて正妻でもない限り、簡単に捨てられてしまうものだ。

そもそも、こんな歳での性行為はとても危険が伴うのだ。魔力が安定していない場合、下手をすると魔力が暴走して死んでしまうこともあるらしい。ただ俺の場合は、生まれた時から魔力が増えないタイプで安定している事が分かっていたので、問題は無かったけれど。安定しているか、どちらかか分からないかの、2つのタイプに分かれる。分かっていなかったらとても売春なんてできなかっただろう。

母も俺が何をしてお金を稼いでくるか分かっているだろうが、何も言わない。

そして俺が16歳になった頃、弟が同じように金を稼いでくると言い出した。俺がエレインからもらえるお金はそれほど多くない。
食べるのと借金の返済でカツカツなのだ。だけど、弟に体を売らせるわけにはいかなかった。
だからもっと稼いでこないとと思い、エレイン以外にも体を売ろうとした。

そこで俺はエレインが俺に払っているお金は相場よりもかなり安く、特に俺ほどの器量の持ち主だったら、いわゆる初めては俺の一家の一年分の生活費に匹敵するほどの金額で買ってもらえたのにと言われた。
俺のように魔力が安定しているとはっきり分かるタイプは少ない。だから当時13歳という年齢だったらどれほど高額な値をつけてもらえた分からないと残念がられた。

それでもエレインが俺に払ってくれる金額よりも多くを払ってくれると言うので、売春宿で働く事にした。学校に通いながらだが夜の仕事だから両立できると思ってだ。

「サンディ、酷い事するんだね? 僕を裏切ろうとするなんて」

「酷い事って、俺とお前とは金だけの関係で! お前以外の男に体を売ったって、お前には関係ない!」

初出勤する日、その娼館は跡形もなく消えていた。唖然としていたら、エレインに閉じ込められた。

「関係ないわけ無いだろう! こんな僕を傷つけるようなことをするなんて! もう、日の光を見ることはないと思え」

「何でっ……」

「何でだって!? 僕以外にその体を許そうなんて考えるだけでも罪深いだろう! 許せない!」

エレインが圧し掛かってきて俺の体を無理矢理開こうとしてきた。ただでさえ安金で買い叩かれていたのに、こんなふうに扱われる事に我慢できなかった!

「止めろよ! 俺に触るな! あんな安金しかくれないのに! お前なんかよりも、腹の出た親父のほうがよっぽど俺を満足させてくれるに決まっている!」

エレインなんかよりもきっとたくさん金をくれるだろう。それは汚い親父なんかよりも、エレインのほうが美少年で抱かれるとしたらエレインのほうが嫌悪感が無いに違いない。しかしエレインは、金では満足させてくれない。

「許さないよ、サンディ。口が裂けてもそんな酷い事を二度と言わせるわけにはいかない……」



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