海の国の宰相は思った。
「噂に聞くような理不尽な方たちではなかったな。礼儀をよく知っていて、とても素晴らしい方たちだった」
お陰で、貴族が不正で溜め込んでいたお金は没収され、横領はなくなり、国庫がかつてないほど豊かになり、社会福祉にも予算をかけれるようになった。
「はい、過去の公爵様やその他の方々の誘拐が酷かったせいで、風評被害が激しかったのでしょう。もともと、国王様はよても良い方ではないかと評判でしたしね」
「実際にお会いしてみないと分からない物だな……お子様たちは凄かったが」
「お子様といえば、今回滅亡は避けられましたが……将来あのルカ王子が大人になって、自分の力で海をプレゼントするんだと、併合しに来たりはしませんよね?」
「はは……ま、まさか」
たかがプレゼントのために、そこまでしないよね?
と宰相は祈った。
免れた併合が、時限爆弾で将来襲ってくるかもしれない。
★
「どうして性教育でそんなに怒るんだ? だって重要な事だろう?」
「……重要な事かもしれないけど、デリカシーに欠ける」
「じゃあ、聞くけど。このまま放置しておいて、年頃になった時に暴走を許しても良いのか? あの子達は魔力が高いから何でもできる。ある程度教育しておかないと、程度というものを弁えないだろう?」
「一理あるが、じゃあ、性教育を受けたお前は、程度というものを知っているとでも言うのか? いきなり人をレイプした男が」
「酷いな、俺はちゃんと手順を踏んだだろう? 告白をしてデートを申し込んで、クライスが俺を好きになるようにずっと待っていたんだよ」
「その後、強姦しただろう」
「その気になれば、目があった瞬間にでもできたんだよ。実際そうしたかった……すぐにでも花嫁の塔に閉じ込めて、抱いて、俺の子を産ませたかった。でも、クライスに俺のことを好きになって欲しかったから、かなりの自制心で抑えていたんだよ。勿論今もね……」
「教育をして、ああ、じゃあ意味がないような気もするがな」
「愛し返されたら、俺はとっても優しい男だったよ。子どもたちも、相手がちゃんと愛してくれたら何の問題もないんだ。相手次第かな?」
★
「俺も隊長に、性教育なんて幻滅ですって廊下に出しちゃいましたが、いま少し反省しています」
「珍しいな、何でなんだ?」
「だって俺じゃあ、将来性教育なんて出来ないだろうし、ルカとか見ていると公爵家の血が強すぎて、そういうことは隊長に任せたほうがあの子にあうような気もしてきたんです」
「まあ、ルカはどうみても隊長似だしな……」
「何も教育しないほうが怖い気がして……」
「まあ、分からないでもない」
エルウィンは下級貴族で上位貴族のあれこれを良く知らない。
「まあ、普段子育てはしないが、叱る事と、将来の性教育は任せよう。たぶん俺たちの血より、あいつらの血のほうが濃いような気がするからな」
クライスは、必ずしも夫だけの血が濃い子どもばかりではない事を分かっていない。
将来、妻になるわが子に性教育をどうしたらよいか大いに悩む事になる。
★
「お兄さま、ここどこなんでしょう?」
「ユーリ、お前の魔法が暴発したのだ。私にもここがどこか分からない」
「お父さまやお母さまが助けに来てはくれないのでしょうか?」
「取りあえず、ここがどこか探索してみよう」
幼い兄弟だが、兄のほうはそろそろ10になる頃だった。弟よりも魔法の扱いも長けてきた頃だった。
「お兄さまが一緒で、うれしいです」
「そうだな、一人だと心細かったかもしれんな。ん?……」
『そんなにエッチがしたいんですか!!?? エッチのたびに孕まさせるくせに、少しは避妊できるようになってから迫ってきてください! 避妊もできないのに性欲を満たしたいなんてゴキブリにも劣りますよ!!!!』
『俺に似た子が欲しい? 産めども産めども隊長方に似た子ばっかりでどれだけ性欲と遺伝子が強いんでしょうか! パンツあげますから、それで一人で励んでください!』
『せ、せめて脱ぎたてのをくれないか』
『洗いたてなのを喜んでください!』
「お兄さま、あれ……何なんでしょうか?」
「ふむ……聞いたことがある。かかあ天下というものではないだろうか? しかし下品だな」
「そうなんですね。あれが鬼嫁というものなんですか……オーレリーおばあ様も鬼嫁だって、おじいさまが泣いていました」
「われわれは見合い結婚かどこかから誘拐でもしてくるのだろうから、鬼嫁の心配はしなくても大丈夫だ。ふむ、どうやらここは王宮のようだな。城からここまでの転移だったらたいした距離ではない。城に戻ろう」
兄弟は歩いて戻った。
城は何時もの城だった。だが、使用人たちが見知らぬ顔が多く、しかも兄弟を見る顔が少し違和感を感じた。
「お母さま!」
何時も母がいるはずの部屋に飛び込んだら、母とは全く違う顔3人がいた。
一人は母よりもユーリにとっては美しく感じるとても銀髪が綺麗な顔だった。
もう一人は兄にとってこの世で一番美しく感じる顔だった。
「え? ジュリスに良く似ているけど……かなり年上だし」
「私の未来の妻!」
「この子もルカに良く似ているけど、歳があわないし」
エルウィンもクライスもお互い子どもに似ているが、年齢があわない子の登場に戸惑った。
「誰かな? ユアリス様のお客様かな。たぶん、一族の子だろうし。エミリオ誰か知っているか?」
「いや、こんな年齢の子、今うちの一族にいないような? でもうちの一族だよな……名前なんて言うんだ?」
「ユーリです! こっちも僕のお兄さまです!……美しい人、僕が18歳になったら結婚して下さい!」
「こら、兄を差し置いてプロポーズなど! 私のほうが長男で公爵家を継げます。どうか、金髪の美しい方、私の伴侶となってください」
「ああ、なるほどな……エルとクライス。お前の夫たちが過去から迷い込んできて、プロポーズしているみたいだぞ」
「うわ……隊長の子どもの頃なのか。ルカみたいで可愛いな〜隊長も小さいと色々許せますね。さっきなんて脱ぎたてのパンツじゃないと嫌だって泣き崩れていたんですよ」
「確かにミニユーリだと、押し倒される心配がない分、可愛いと思うだけだな。おいで〜俺を奥さんにしたいのか?」
「はい! クライスと言うのですね。僕の奥様になってくれますか? 勿論一生貴方だけを愛すると誓います! こんなにはやく運命の人を見つけれるなんて僕は幸せです!」
ちょこんとクライスの膝に座ったミニユーリをクライスは撫でながら、幼い夫のプロポーズを黙って聞いていた。
「う〜ん。もう俺には嫉妬深い夫がいて、子どもも3人もいるんだ。残念」
「そ、そんな! 何で僕が大きくなるのを待っていてくれなかったのですか! その男を今すぐ殺します! 貴方の子どもも抹殺して僕だけの子を産んでください! もっと大きくなったら時を戻して」
「はいはい……子どもの頃からこんな思想持っていたら怖いな……」
「エルウィン、貴方は私と!」
「残念だけど、俺も今3人目がお腹にいるんだよ」
「そ、そんなっ! その男の子などなかったことに、今から逆行魔法でっ」
「はいはい、そこまで」
「私の子を消されては困るな。いくら自分とはいえ」
そこで幼い兄弟は悟った。いくら幼いとはいえ、目の前にいたら、それが自分かどうかは分かる。
「いじわるしないで下さい。クライス、あなたは僕の未来の妻だったんですね。安心しました。そうですよね、僕があなたを他の男に渡すわけないのに」
「エルウィン、良かった。貴方の子どもは私の子なんですね。消そうとしてすいません……こんな美しい方が私の未来の妻なんて……想像したら、どうしてでしょう? なんだか股間があつい……」
「うわっ子どもとは言え、やっぱ隊長だ……ね、分かったら安心して過去に戻ろうね。未来の自分がちゃんと元の次代に戻してあげるから」
「私の記憶はこのままなんでしょうか? エルウィン、貴方の記憶がなくなってしまったら悲しいのです」
「残念ながら、次元の壁を通るときに記憶はなくなってしまう。だが安心しなさい、記憶など無くてもちゃんとエルウィンは私の妻となるのだ」
「そう、この美しいクライスはちゃんと結婚してくれるからね」
「もう少しここにいてはいけないですか? 記憶がなくなってしまうとしても、もう少し貴方と一緒にいたいんです、クライス」
「せめて、愛しい貴方の記憶を失ってしまう私を哀れんで、口付けをプレゼントしてくれませんか?」
普段だったら夫を鬱陶しがっている妻たちは、夫の願いなどかなえたりはしない。
だが、ここで2つミニ隊長とミニユーリには勝算があった。
1つは、小さいため可愛く見えて妻に嫌われてしなかったこと。(息子に良く似ているため)
2つ目は、夫に一泡吹かせようと思った奥様がいたとか……
「過去にお戻り、キスしてあげるから」
隊長が止める間もなくエルウィンはキスをちび隊長に落とし。
クライスも何時も夫が好き放題している仕返しになればと思い、チビユーリを抱きしめてキスをしていた。
当然その次の瞬間、怒った夫たちが、自分を過去に戻してしまったが。
「酷い!(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)私にだってキスをしてくれたことなどないのに!」
と、何時ものように泣き崩れる隊長と。
ブリザードのように静かに怒って、みんなの前だろうがお構いなくクライスにディープなキスをしているユーリがいた。
二人とも過去の自分に嫉妬してどーするんだと、一人蚊帳の外のエミリオは呆れていたのだった。
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