「隊長!」

「ユーリ!」

クライス様が言うように、俺たちには変態だったり陰険ゲスだったりストーカーだったりパンツ被ったりと、とても褒めれたものじゃない夫がいるが、ハイスペックなことだけは生まれた時から変わらない夫がいるんだ。

「そんなに慌てるな、エルウィン」

「大丈夫だよ、クライス」

慌てる妻とは正反対に落ち着き払った夫がいた。

「だって、ルカとアンジェがいなくなっちゃったんですよ! あんな小さい子なのに! 怪我でもしたらどうしよう!」

「今頃寂しくて、不安で泣いているかもしれないだろ!」

勿論、俺もクライス様も知らなかった。息子たちが寂しくて泣くどころか、ある国の王宮でいたずらの限りを尽くしていたことを。

「わが家の子どもだったら、誰しもが経験することだ。私も同じように魔力を暴走させたことがあったし、ユーリもだ。親の言いつけを守らず、こんなことは日常茶飯事だったのだ」

「そうだよ、俺もアンジェと同じようなことをしたしね。それに、アンジェやルカが危ない目にあうような事は有り得ないし、見る限りとても元気そうだよ」

「え? もう居所分かったんですか?」

「ああ、二人で楽しそうに異国を楽しんでいるようだ」

「だったら早く迎えに行ってください!」

確かにあの二人は物凄い魔力の持ち主で、怪我をしても勝手に治ってしまうだろうし、誰かが害そうとしても無理だろう。
だから危険な事はないかもしれない。だけど、やはり小さな子なので、親としては心配して当然だろう。

「無事なのか?」

「怪我一つないよ。ちょっとイタズラは過ぎるようだけだけどね」

「じゃあ、早く迎えに行こう。他国に迷惑をかけたら可哀想だ」

「え? 可哀想なのは他国ですか? ルカたちだって知らない場所で戸惑っているはずですよ!」

「エルウィン……あの子たちは自分が無茶をしたせいで、こういう目に会っているが……他国からしてみれば、恐怖の誘拐魔の子どもが好き勝手していたら、どれだけ怖い思いをしているか……俺たちにとっては可愛い息子だが、他国にとっては恐怖でしかない」

そうクライス様に言われてみると、そうかもしれない。
可愛い子だが魔力が高すぎる。俺はもう慣れているけれど、生まれた時余りに高すぎて少し怖かったし、イタズラをしても俺みたいな魔力量では止める事も適わない。

こんな俺でも、他国に行ったら充分魔力が高いといわれるほどなのだ。ルカたちなら、破壊兵器にしか見えないだろう。

「分かりました。隊長、早く迎えに行きましょう」


ルカたちがいた国は海辺の小さな国で、余り裕福ではないようだった。

「ルカたちって王宮にいるんでしょう? だったら、何で王宮に直接転移しないんですか?」

「そうだが、他国の王宮に許可なく転移をするのは失礼だろう。それでなくてもルカたちが迷惑をかけているというのに」

「隊長……」

なんだか、物凄く常識があることを言われた気分だった。
確かにこの国は小さいがそれでも一国の王宮を訪ねるのだ。無断で転移など失礼極まるだろう。

しかし、一方隊長は大陸一の大国の国王なのだし、そこらじゅうの国の王族を誘拐しまくった誘拐魔の子孫でもある。突然転移して現れたとしても、相手は無礼だなんて怖くて一言も言えないはずだ。

なのに、息子が迷惑をかけた時はきちんと礼儀を重んじるんだ。

「いったい、あの子たち何をしたんですか?」

「そうだね……この先のスラムを破壊して、国王がハーレムがあることが気に入らずハーレムを解散させて、後宮を爆破し、横領など犯罪をしている役人を爆破すると脅し、国民の財政を圧迫している大貴族たちから金を全部没収し、一夫一婦制にしないと死刑だと今も脅しているようだね」

「………」

「まあ、そう落ち込むなエルウィン。あの子達もカルチャーショックを受けているんだ。妻は一人で愛し抜くという当たり前の常識以外を見させられて、受け入れられないんだろう。わが国では横領なんてする貴族もいないしな」

いないことはないかもしれないが、貴族は基本余り政治に関与しようとしないし、何か権力を使うとしても家族の問題で結婚を許可してもらうとかそういう恋愛がらみが殆どだ。
もし権力が欲しいとしたら、結婚相手の身分が高いため、出世したいとかそういう目的でしかなく、金持ちになりたいから悪事を働くという事は余り聞かない。

門番の人に、子どもたちを迎えに来たのであわせて欲しいと言えば、何故か国王自ら案内を買って出てルカやアンジェのところまで連れて行ってくれた。

「しけいだ!」

「ばくはつだ!」

死刑が連呼されて、おそらく色んな役人が涙を浮かべながら、許してくださいと叫んでいる大広間に通された。

「あ、ママだ!」

「お母様! お父様!!!」

二人の息子たちは不安など微塵も感じさせない様子だったが、それでも両親に会えたのが嬉しいのか、ダッシュで駆け寄ってきた。

「パパ! おむかえにきてくれたんだね!」

「お父様、ありがとう!」

「こら! 魔法をむやみに使ってはいけないと言ってあっただろう? ルカくらいの年頃ではまだ上手く魔力はコントロールできないのだ。ちゃんと相応しい年頃になったら、使い方を教えるから、それまで魔法は禁止だ。分かったな?」

「アンジェもだよ。お母様に心配をかけて悪い子だね。俺たちは魔力が強いから、失敗したときには自分ではなくて、他の人に迷惑をかけることになるんだよ。たくさんの人を傷つけてしまうかもしれない。将来、人の上に立つんだよ、アンジェは。分かっているだろう? だから、人一倍気をつけないといけない、分かったかな?」

「「はい」」

息子たちはシュンとなって神妙な面持ちで父親に縋り付いた。

「クライス様……なんだか、さっきから隊長やユーリ隊長がすごくまともなことを言いすぎて……」

「ああ……なんだか騙されているような気分だな」

そう、昔はこういう人だったはずだ。俺やクライス様に出会う前のこの兄弟はそれは評判の高い優秀な兄弟で……俺もすごく尊敬していたんだった。


「私はルカの父親だ。今回息子たちが迷惑をかけたようですまなかった。息子が壊したものはこちらが弁償しよう」

「そんなっ! とんでもありません!」

「いいや、散々迷惑をかけたのだ。まずスラムの破壊だったな。これは再建をすぐしよう。ただ治安が良くないので、犯罪が低下するように、皆が住める建物を作っておいた。それから後宮だが、これは息子の言うようにたくさん妻は必要なかろう。財政もかなり圧迫するようだし、一人用の妻の住居に変えておいた。そして没収した金は国庫に入れればよかろう。あとは罪をおかせれないように、制約の魔法をかけておいた。今度、犯罪を役人達がすることができないはずだ。余計な世話だったかもしれんが、この国のためになるだろうし、息子たちもそう望んでいる。子どもたちが住みやすい国作りをしてくれたまえ」

隊長……なんだか、すごく格好いい国王様に見えます。

「パパありがとう!」

「ありがとうございます、何から何まで……」

「息子が迷惑をかけたので当然だ」

きっと、ルカたちのせいで、この国が爆破されたらどうしようとか、隊長たちを怒らせたらどうしようとか考えていたのだろう。
それが宰相さんにはとても良い形で幕を閉じれてホッとしたのだろう。宰相さんだけは笑顔だった。

「私は若い頃陛下の国に勉強に行って、あのような国作りをしたかったのです。私の理想の政治体制でした。私が力がなく、貴族や役人の専制を許してしまいましたが、これから理想の国作りを頑張りたいと思います。ありがとうございました、国王陛下」

「良いのだ」

「そういえば、どうしてルカはこの国に来たの?」

「アンジェくんがうみをみたいっていったの。パパ、アンジェくんにこの国をプレゼントしたいの」

瞬間空気が凍った。

滅亡を逃れられ、逆に隊長に色々救われたと言うのに、ルカの一言で併合の危機が訪れたからだ。

「ルカ……アンジェが欲しければ、自力でなんとかするんだ。そうじゃなければ、大事な息子をお嫁になんか出せないからな。パパに頼っているようでは、叔父さんはルカをお婿さんとは認めないよ」

「そうだ。ルカ、叔父さんの言うとおりだ。アンジェが欲しければ、パパにおねだりをせず、自分でなんとかしなさい。お前は国王になる男だぞ。なのに、好きな子を手に入れるためにパパに頼るのか?」

「……はい」

びっくりした。何がびっくりしたかというと、息子に甘い隊長が、ルカに強請られたら簡単にこの国を併合すると言い出すと思ったからだ。ユーリ隊長もクライス様を奪おうとした国を簡単に併合してしまったので、二人がこんなふうにいうとは思わなかったからだ。

「なんだか、物凄く父親らしい事二人が言っていますよね」

「俺も驚愕している……今まで可愛がることしかしていなかったからな。ちゃんと父親しているよな……」

さっきから隊長が物凄く格好良く見える。

ギルフォード王子のように子育てには協力的ではないけれど、それでもこういう大切な場面では頼りになるし、きちんと父親として子どもに的確なしつけをしてくれるんだ。
パンツを被って迫ってくる姿が強烈なせいで、隊長の本質を見失っていたのかもしれない。

城に戻って来るとアンジェとルカは疲れて眠っていた。

ルカを子ども部屋に寝かせて、その顔を撫でながら隊長にお礼を言った。

「今日はありがとうございました。俺じゃあルカを探すことはできなかったし、心配しすぎて叱る事もできませんでした。でも、隊長はあの国に対しても誠意ある対応をしてくれたし、ルカにもきちんと躾をしてくれました」

「いいや、エルウィンの夫として当然のことをしたまでだ。子どもの魔法教育は父親の役目だしな。大人になったら、もっとしっかり教育をしよう」

「嬉しいです。ちゃんと父親していましたよね……頼りになります」

「ああ、任せてくれ! 大人になったらきちんと公爵家の出の王子として、性教育をしっかりと躾!……エルウィン?」

「性教育?………何を教育するんですか! 隊長の早漏さを見習うようにですか? 三回目で三こすり半なのを教えてあげるんですか! せっかく見直し始めたのに、幻滅です! 今日も廊下で寝てください!!!」

(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)


そして似てない様で似ていた弟のほうは。

「親として子どもの躾は当然の役目だからね……子どもの性教育は任せておいて欲しいな。どんなふうにして愛する者を手に入れるか、ばっちり教育してあげるよ」

弟のほうもせっかく妻に見直されそうになっていたのに、寸前で台無しにしていたことに気がついていなかった。


END



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