さて、妻たちに酷評されつつもハイスペックな夫たちに頼るしかないと思っていた頃。
アンジェとルカは……
「ねえ、アンジェくん……ここ、どこ?」
「分かんないよ。ルカが悪いんだよ、魔法使っちゃいけないっていわれているのに」
「だって、アンジェくんが海がみたいっていうから、ぼく…」
知らない国にいた。正確には、住んでいる国から5つ先の海沿いの国であった。
幼い少年が二人。とても可愛らしい、明らかに身分の高そうな子たちである。
城下町の治安のよくない地域にいるのは不相応でもあった。
「お城にもどれる?」
「できないよ。どこにお城があるのか、わからない」
この二人は魔力は非常に高いが、まだ小さいこともあって魔法が使いこなせない。本当だったら転移などこの歳ではできないはずだが、父親譲りのハイスペックな才能があったため、できてしまったのだ。
「さ、宰相閣下! 大変です! 城下町で、その! 子どもが誘拐されかけて!」
「よくあることだろう? 何をそう慌てているんだ?」
私はこの国の宰相だ。治安が良くない、財政も破綻しかけているこの国でそれはもう苦労をしながら宰相を務めていた。
「それが、その!……明らかに、普通じゃないお子様たちが誘拐されかけて、当たり一帯を吹き飛ばしてしまったんです! もう尋常ではない魔力の持ち主の子どもたちで、あんな魔力の高い子どもうちの国には絶対生まれません!!!!」
「その子どもたちに怪我は無いのか?」
「全くありません! 迷子だと言うので、城まで連れてきて保護をしていますが、どうしたら良いでしょうか!? 本当にスラムが吹っ飛んでしまっています。死人が出なかったことが不思議でなりません」
宮廷魔法士の彼がそういうのだから、本当に物凄い魔力の持ち主なのだろう。うちの国民だったらとてつも無い戦力になるだろう。取り込む必要がある。そうでなくても、城下町のスラム一帯を吹き飛ばしたのだ。調査をする必要があるだろう。
「あの子どもたちです……」
一見とても身なりの良い子どもたちだった。
一人は銀髪の少年で、将来がとても楽しみな愛らしい子どもだった。
もう一人は銀髪の少年よりも一つくらい年下で、高貴な面持ちをしている。明らかに貴族の子息だろうことが分かる。
確かにただの子どもではないようだ。
「坊やたち、迷子って聞いたけれど、どこから来たんだい?」
「ここどこ?」
「お城だよ」
「せまいよ」
「うん、小さいね」
確かにわが国は小国だが、一応国王がむ城だ。小さいだなんて誰も言うものはいなかった。
「どこから来たのかな?」
「わからないよ……」
「たぶん、すごくとおくから」
「ねえねえ、なんであんなに女の人がおおいの?」
少年たちは何故かものめずらしそうに後宮の女たちを見ていた。確かに、珍しいかもしれない。普通、後宮の女性たちは滅多にハーレムから出ないと言うが、うちの国では自由に出入りが出来る。
「国王様の奥様たちなんですよ」
「え………」
物凄く嫌そうな顔なのか、びっくりした顔で二人の少年は固まった。
「なんでおくさんたちが、女の人なの? おくさんは男の人でしょ?」
「なんであんなにたくさん奥さんがいるの!!!??? 奥さんは一人じゃないと駄目なんだよ!!!」
物凄く怒った顔で少年たちに詰め寄られてしまった。魔力が高いので少年たちと言えども、物凄く怖い。
「そ、その国王様なので奥様がたくさんいても良いんですよ」
「だめだよ! ぼくのパパだって王さまだけど、ママだけだよ!」
「そうだよ! 一人としかけっこんしちゃダメなんだよ!」
「しけいだ!」
「しけいだよ!」
そ、そんな重婚したくらいで死刑だなんて……いや、この坊や達、パパが王様だって言わなかったか?
この坊やたちからの情報
・パパが王様
・お城が物凄く大きい
・重婚したら死刑
・奥さんは男性
・魔力が物凄く高い
「あ、あの国の……」
「へ、陛下を呼べ!!!」
どうしてこんな国にあの国の王子がいるんだ!!!
「何じゃ? ハーレムで楽しんでいたのに邪魔しおって」
「大変です! あの少年たちを迷子で保護をしましたが、おそらくあの国の王子なんです!」
「な、何! 本当なのか!!!??」
「ぼ、坊やたち……お名前とパパの職業教えてくれるかな?」
「ぼくはルカ。パパは王様です」
「ぼくはアンジェです。お父さまは隊長で、次の公爵です」
勿論あの国の情報は知っている。この前即位したばかりの国王にはルカという王太子がいるということを。
国王の弟が次期公爵で隊長をしていて、そしてアンジェという公子がいることも。
「ど、どうしてこの国に来たのかな?」
まさか属国にするため? 侵略のためか!
この少年二人で充分破壊されてしまう!
しかしあの国はそんな好戦的なことを国でしたことはない。あくまでも、花嫁を誘拐するために、ということで、こんな少年を送り込んでくることはない、はずだ。
「わかんない。アンジェくんに海をみせてあげようとおもって……ここにきちゃった」
「そ、そうかい」
おそらく魔法を誤って使ってしまったのだろう。しかしこんなところにあんな大国の王子たちがいるのはまずい。
誘拐されたといちゃもんをつけられたら困る。
「この人がおうさま?」
「そ、そうだよ」
「しけいだ!」
「しけいだ!」
「な、何でなんだい?」
突然、子ども二人に死刑を突きつけられた陛下は真っ青になりながら倒れそうになっていた。子どもの戯言にしては、魔力が大きすぎて冗談には取れない。
「だって、おくさんがたくさんいるなんてしけいだよ!!! ね、アンジェくん」
「うん、そうだよ! 僕のお父様みたいに、お母様だけをあいさないとダメなんだよ!」
厳格な一夫一婦制をとるあの国では、伴侶は当然一人だけなのだろう。ルカ王子とアンジェ公子からしてみれば、たくさん妻達がいる国王は死刑で当然、なのかもしれない。
「王子様たち、その……この国ではたくさん奥さんがいても良いんだよ」
「そんなのだめなんだ! ぼくたちがしけいにしてあげようか?」
「うん、そうしようか!」
「そ、その王子様たちもいずれ国王になるだろう? 他国には色んな風習があるのだからお互い尊重しあってだね」
陛下は必死でそんなことを言っていたが、こんな小さな子にそんなことを言っても理解してもらえないだろう。
奥さんは一人と言う思考で凝り固まっているのだ。
「だめ!」
「死刑は勘弁して下さい!」
「王子様たち! お願いです! そうだ! 王様に奥さんを一人にしてもらおう! それなら良いかな?」
陛下は物凄く余計なことを言うなという顔をしていましたが、命がかかっているんですよ!
それに後宮の費用がどれだけ嵩んでいると思っているんですか?
一夫一婦制にするのは悪いことじゃないはずだ。
「……でも、おくさんがたくさんいたことは変えられないよ」
「そこをなんとか!」
「じゃあ……奥さんがたくさん暮らせないように、こわしちゃえ!」
言ったとたん、財をこらした後宮が爆破して跡形も無くなくなっていた。
「もうおくさん、一人だけにするんだよ」
「は、はい………」
そうしてくれれば財政が少しは楽になるはず。
「うそついてる! ぼくわかるもん。このおじさん、嘘ついている!」
「そ、そんなことはっ!」
「陛下、なんで嘘なんかつくんですか!」
「だってっ!」
どうせこの少年たちがいなくなった後に、またハーレム復活を企んでいるのでしょう!
後宮を再建したらどれだけ金がかかると思っているんですか!
「坊や達、陛下は嘘をついているんです。嘘をつけないように出来る魔法はないんですか?」
「……う〜んと、アンジェくん、なにかある?」
「このおじさんだけじゃなくって、ここにいる人みんな嘘をついているよ!」
「そうだよね! あっちのほうでもうそついている!」
施政宮のほうを指を指して、二人は走っていく。慌てて陛下と私は後を追った。
「このおじさん、うそついている! ワイロ?っていうのをもらっているんだって!」
「このおじさんは、オウリョウ?をしているんだって!」
「このおじさんはジンシンバイバイ?をしているって」
次から次へと走り回って、役人たちの悪事を暴露している。どうやって見破っているのかわからないが心を読んでいるのだろうか?
意味もわかっていないだろうに、悪いことをしていることだけは分かっているのか、罪人を次々に見つけ出していっている。
「ぼ、坊やの国でもこういう悪いことをする人はいるだろう? 少しは仕方がないんだ」
どうやっても賄賂や横領は取り締まりは難しい。もう、政治のシステムとしてできあがってしまっているし、大貴族などが国の金を掠め取っているのを、国王の力で止めさせるのはできないのだ。だからここまで財政が厳しくなってしまっているし、役人達を追放したら国が成り立たない。目を瞑るしかないのだ。
「ぼくの国ではこんなわるいことするひといないもん!」
そう、私も調べた。あの国は本当に善良な人が多いのか、あんな大きな国を纏め上げて、反乱も内乱も貴族の専横もない。何故か不思議すぎる。そう思ってこの国にもあの国の政治システムを取り入れたいと思って、若い頃勉強をしに行った事もあった。
分かった事は、大貴族ほど政治権力にも、金にも興味がないということ。政治にかかる時間を無駄にするくらいだったら妻とラブラブしたいという夫が大半なのだ。そうでなければ妻を監視したり監禁するために、時間を割きたいということ。
ほんの義務感で領地を治めるのが精一杯の国への奉仕だということ。
じゃあ、その下の平民などはどうかというと、大貴族たちが魔法で横領やその他の悪事を働けないように、制約の魔法をかけているため、悪事を働けないのだ。魔法大国ならではだ。うちの国では無理なんです。
「そうなんですが……」
「うそついたらばくはつする魔法をかけよう!」
「うん、うそついたら爆発だよ」
「ひ、いいいいいいいいいいいいいいい、す、すいません。それだけは勘弁して下さい」
嘘なんて人間誰しもがつく。卑劣な嘘もあるだろうが、些細な日常の嘘もある。それをちょっと嘘ついたら爆発なんてこの国の人間がいなくなってしまう。私だって嘘をつかない自信はない。
あの国だって流石に嘘をついたら爆発する、なんてことはないはずだ。
せめて、悪事を働いたら1年間勃起しないとか、そういう魔法は無いのだろうか。いや、でも、こんな幼い子にそんなこと言えないし、言ったら親御様に抹殺されてしまうだろう。
「え〜っとね……嘘をついたら爆発じゃなくて、嘘をつけないようにとか、悪いことをできないようには、できないかな?」
「……そんなむずかしいこと、まだできないよ」
「うん、ばくはつならできるよ」
「パパならできるよ!」
「お父様ならできる。お父様をよぼう!」
「や、やめてくださいいいいいいいいい」
だってお父様やパパって、あの誘拐公爵一家の方でしょう!この大陸で最も悪名高い誘拐魔で、いろんな国を破壊したり併合したりしたんですよ!
会いたくないし、来て欲しくないです!
「だって、パパがたすけにきてくれないと、かえれないよ」
それも困りますよ!
だってこの二人が来てから、スラムは破壊するし、ハーレムは壊すし、国王陛下は妻を一人にさせられたせいで放心状態だし。
この強い魔力に当てられて、爆発だ!死刑だ!と騒がれて宮廷魔法士たちは恐怖の余りにいなくなってしまったし。
なんとか自力が帰ってくれないのだろうか。
「あ、でも……呼んでも、とどかないみたい……お父様からへんじがない」
「パパもだ……」
ほっ……いや、ほっとしている場合じゃないだろう!
迎えにきてくれないと、また爆破だ!死刑だ!が始まる。
「パパ、きっとさがしにきてくれるよ!」
「じゃあ、それまですごく素敵なお部屋用意するから、待っていてくれるかな?」
「うん、わかったよ。おじさん、おくさん一人だけえらんでね。ぼくちゃんとみているんだから」
「はい……」
陛下は泣く泣くたった一人奥方を選んで、あとは実家に帰らせました。
後宮の費用>スラム爆破再建費+後宮の建物費だったのはまだ救いかもしれません。
「ねえ、アンジェくん。ぼくはおうさまになるけど、ちゃんとおくさんはひとりだけだよ」
「あたりまえだよ」
「だから、アンジェくんぼくのお嫁さんになってね」
「いやだよ」
王宮中を不安と混乱に陥らせた少年の一人が(´; ω;`)ふうに泣いていたのを宰相は知らない。
そしてそれは少年の父親もよく妻に泣かされて(´; ω;`)ふうになっているのも、また知らない。
物凄く似たもの親子なのも知りようがなかった。
「アンジェくん(´; ω;`)」
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