「兄さん、メイドも乳母も雇っていないんですか?」

「出産後はちょっとだけメイドを雇っていたけど、今は俺一人だよ。だって三人しかいない家族だし、家事もそんなに時間はかからないし、他人を家に入れたくないから」

長男を出産した後の兄を見舞ったとき、たった一人で家事を切り盛りして育児もしている兄を尊敬した。




「俺って、家のこと何もしていないんだよな」

「俺だってそうですよ。皆そうじゃないですか?」

上流階級では、当たり前に使用人が家事をし、子どもは乳母が面倒を見る。勿論教育などは両親がするが、平民のように子育てを全てするわけではない。

「ギルフォードは子育ては全て自分でやっているが」

「それはギルフォード王子が物凄く良く出来た父親だからですよ! うちの隊長なんか見てください! 子育てなんかしたことありませんよ! いえ、それが当たり前なのかもしれないですが、可愛がるだけで、息子たちに良い顔ばっかりして好かれて!……叱ったりする俺は鬼ママだと思われているかもしれません」

「それを言うんだったら、子ども可愛がるだけマシだろう」

世の中には結婚をするだけの手段のために妊娠させたり、妻を引き止めるためだったり、妻を監禁して、妻にしか感心がなく、子どもの事は使用人任せという夫も存在する。

「ユーリはちゃんと良い父親しているのか?」

「あいつは、孕ますのは好きだけどな……良い父親なのかは……まあ、可愛がる事はするけどな」

「可愛がるだけですよね! 結局子どもを10ヶ月お腹で育てるのも、悪阻に苦しむのも、不自由な体なのも、陣痛を経験するのも、皆こっちなのに、子どもが欲しいと気楽に言いますけどね」

まあ、気持ちは分からないでもない。隊長もユーリも子作りは大好きな兄弟だ。
特に俺は妊娠出産に対して負担が大きいし、もう三人もいるんだから気軽に産ませようとするなと声を大にしていいたい気分ではある。

「まあそうだな……子作りが好きなだけで、俺たちみたいに積極的に子育てに参加するわけでもないしな」

こうやってお茶会でも俺はアンジェたち3人を連れてきて、遊ばせているし、見張ってもいる。でも、ユーリが出かける際子ども達を連れて行くなんて有り得ない。

「隊長なんてオムツもかえたことないし、お風呂にも入れたことないのに、俺には私以外の物を見てはいけない!とか言って、おむつ交換もお風呂も乳母のする仕事だ!とか言っていたんですよ。息子にやきもち焼くアホって、馬鹿ですよね」

「ああ、まあ、ユーリも同じようなことを言っていたな。やっぱり兄弟、似ているよな」

アホなところがそっくりだと常々思っていた。エルウィンはユーリのことをクールだとか、外面が良いと言っているが、根本はそっくりな兄弟なんだ。

「エミリオのところは乳母もいないんだろ? 育児は二人でやっているのか?」

「まあ、やることは育児だけだから乳母がいなくても何とかなるからな。両親も手伝ってくれるし、他の家事はメイドがやるんだから楽なものだろ」

「ギルフォード王子が何でもやってくれるんですよね? でも領地の事とかやりながらなんですよね? イクメンでお仕事もちゃんとやってくれるなんて夫の鏡ですよね。良いな……」

「アイツは要領良いし、昔から政務には慣れているから。育児も喜んでしているし、楽しいならとやらせている」

ギルフォード王子は本当に子ども好きで、俺やエルウィンの夫と違って妻を引き止める道具や、快楽のために子どもを欲しがったりはしない。

「良い夫になったよな、ギルフォード王子……それに比べてうちの一族は……」

「今、公爵家に隊長たちのおじい様たちが来ていて……大変なんです」

「ああ……前公爵夫妻か……大変そうだな」

田舎の領地に引きこもっていたユーリの祖父たちが、親戚に出産で王都に戻ってきている。基本は城にはいないがおりにつけ遊びに来て気まずい思いをしていた。

「凄いプレッシャーなんですよ。孫が禁欲させられているせいで、面と向っては言わないんですが、この鬼嫁がと言われている気分なんです」

「俺も……仮面夫婦なのを見破られているような気がして、落ち着かない」

「まあ、仕方がないだろう。オーレリー様は初代鬼嫁だぞ」

「初代鬼嫁って何なんだ?」

「ああ、エルウィンが二代目鬼嫁か?……オーレリー様は歴代公爵家当主で初めて、その……誘拐花嫁じゃなかった方なんだ。アルフ様がそれはもう愛していて、アンリ様を産むまでは……普通に夫婦生活をしていたらしいんだが……アンリ様が生まれてからは、拒否しまくってエルウィンの比じゃないくらいアルフ様をいじめまくって泣かせていたらしい。次男ブランシュ様は、4年に一回の交わりで奇跡的に授かった子で……それからも、もうアルフ様をいびりまくって……公爵家の男たちを震え上がらせたらしい。うちの家系は恋愛結婚少ないからな。ブランシュ様なんかは両親を見ていて、自分は恋愛結婚したいと物凄く夢があったらしい。でも、成功者はアンリ様だけで終わってしまったがな」

「そうか……」

だからか。なんとなく俺たち夫婦のことを怪しんでいるような目で見ているのは。俺がユーリのことを愛していない事が何となく分かるのかもしれない。

「ということは、オーレリー様は夫を虐待していて、それを一族中が知っていたと言う事は、子どもたちも不仲な夫婦だって知っていたんですよね?」

「まあ、知っていたんだろう。ブランシュ様なんか特に皆から閏年の子だって言われていたしな」

「だったらクライス様も仮面夫婦で仲の良い振りなんかする必要ないんじゃないんですか?」

「いや、ブランシュ様なんかは不仲な夫婦の子だったからあんなになってしまったという噂だし。夫婦仲が良いほうが子どもの教育には良いんじゃないか?」

エミリオは一族のことに詳しい。俺も両親が仲が良い方が子どもの教育に良いとは思う。だからこそ必死で子どもたちにばれないようにしている。

「まあ、そうですよね。俺も隊長を虐待している鬼嫁と言われようが、子どもたちの前ではつい仲の良い振りをしてしまいますから……あれ? でも今気がついたんですが、隊長とユーリ隊長の両親はあんなにラブラブなのに、子ども達って……ああ、ですよね。ってことは、両親の仲って別に子どもには関係ないんじゃないんですか?」

「………まあ」

両思いの夫婦からでも、あんな変態&陰険ゲスしか生まれないとしたら、俺やエルウィンが子ども達の前でも仲良し夫婦をしている意味なんて全くないような気もする。

「でも、ユアリス様は……普通じゃない教育していたし、俺たちはちゃんと教育すれば……公爵家の遺伝子に対抗できる、かも?」

物凄く不安だけれど。

「まあ、今は可愛い子ですけどね……あれ?」

「アンジェ? ルカ?」

庭で仲良く遊んでいた子どもたちがいなくなっている。サラとジュリスとギルバードは残って遊んでいて、ユリアは寝ている。
年長組みのアンジェとルカだけが何時の間にかいなくなっていた。

「……この城の中にはいない。探索魔法にも引っかからない……あいつらまだ転移魔法使えないはずなのに」

ここにいる誰よりもアンジェとルカは魔力が高い。俺ではさがせれない。

「クライス様……どうしましょうっ? あの子たちまだろくな魔法も使えないのに!」

「落ち着け、エルウィン。変態でどうしようもない夫だけど、魔力だけは高いハイスペックな夫たちが俺たちにはいるだろう?」




- 205 -
  back  






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -