「あ、あの……申し訳ありません!」

「まあまあ、そんなに緊張をしないで。私がロベルトの父のロアルドで、こちらがロベルトの母のメリアージュ様だ」

何故、妻を様呼びにしているのだろうか? と不思議に思ったが、聞き返すことは出来なかった。
ロベルトの両親は、ロベルトに似た穏やかそうな風貌の父と、凛々しく素晴らしく整った顔立ちの貴公子そのもの母だ。様をつけて呼びたくなる気持ちも分かる。

「あ、あの……マリウスです。ご挨拶が遅れて本当に申し訳ありません……今回もお手数をおかけして本当にすみません…」

「何をそう、さっきから謝るんだ?」

「4年も挨拶が遅れました。それに……父のことでご迷惑を…」

「挨拶なんてどうでも良い。ロベルトが会わせなかっただけだ。気にするな」

「……俺、ロベルトの結婚を駄目にして……この伯爵家にもご迷惑をおかけしました」

謝らないといけない事がたくさんある。

「あのね、気にしなくて良いんだよ。もともとうちの家の評判なんてね……」

「別に構わないだろう。俺だって、ロアルドを無理矢理手に入れた。好きなら、欲しい物は何をやっても手に入れて当然だ」

「あの……でも、俺は寝取って」

「俺だって、ロアルドを上司の立場で無理矢理結婚した。結婚もいくつも潰したし、必要だったら寝取っただろう」

「……家から勘当もされましたし」

「俺だって、両親から絶縁された」

「ま、魔力も低いですし」

「俺だって、両親や兄や甥に比べて魔力が低かった」

「……ロベルトに愛されてもいません」

「俺もロアルドに愛されていない」

「え、ちょっと嘘ですよ! 私はメリアージュ様のことを愛しています!」

「お前も嫁の前だからって格好つける必要はない! 俺もお前と同じだ。実家に勘当され魔力も低く、夫に愛されていない! だから何だって言うんだ!? 欲しいから手に入れたんだろう? お前もロベルトが欲しかったから、何を言われようが抱かれたかったんだろう?」

何を言ってもメリアージュ様に、俺も同じだと言い返されてしまう。

「……はい」

「だったら、構わないだろう。ロベルトだってこんな美人の嫁に言い寄られたら悪い気はしないだろう。それに俺の息子は愛してもいない男を抱けないはずだ」

そんなことはない。ロベルトは俺への肉欲に負けたって言っていた。少なくても一番最初はそうだったんだ。
この方は、自分は愛されていないといっているけれど、ロアルド様を見る限り、愛されていると思う。

「実家のことで、ご迷惑をかけました。ひょっとしたら、父が何か伯爵家にしでかすかもしれません」

「それは大丈夫だよ。あのね、メリアージュ様は物凄い権門の出だから、この国でメリアージュ様に逆らおうとする人は誰もいないから安心しなさい」

「クラレンスは昔から小心者だ」

「メリアージュ様を目の前にすれば、皆さんそうなりますよ」

「まあ、これで何の問題もないことがわかっただろう? まあ、ただクラレンスは小心者だが、悪知恵は働くからな。またマリウスに手を出しかねないから、ここに住め」

「……えっ…あの…出来ません」

「何故だ?」

この人たちはこんな俺でもロベルトの妻として許してくれている。

「……俺は伯爵家には相応しい人間じゃありません」

実の父や母にさえ嫌われるのに、ロベルトの両親が俺なんかと暮らしたら嫌われるに決まっている。
母よりはずっと高い魔力だったはずだが、祖父や祖母からも陰口を叩かれた。父と違って直には言わなかったが、マリウスが跡取りでは心配だと愚痴を零していたのを知っている。
メイドですら跡継ぎは好かれているクライスになると分かっていて、空気のように扱われていた。
誰からも好かれなかった俺が、ロベルトの両親に好かれるはずはない。

「あのな! さっきも思っていたが、お前は卑屈すぎる!」

「あの、メリアージュ様!」

「お前は黙っていろ。お前の魔力が低く生まれたのは誰のせいだ?」

「……俺です」

「そこからして間違っているだろう! 俺だって、実家には相応しくない魔力しか持って生まれなかった。疎まれても当然だったが、俺の場合は生まれた順番が幸運だったんだろう……兄も甥も生まれて俺なんか必要なかった。だからだろう、俺の魔力なんか関係なく可愛がってもらえた。だが、疎まれたとしても、それは俺のせいじゃない。そう、生まれただけだ。お前だってそうだろう。偶然魔力が低く生まれただけだ。誰かの責任だと言うのなら、クラレンスのせいだ。あの男が身分も弁えず、お前の母のような魔力の低い相手を選んだ。まあ、それ自体は良い。愛しているのだったら仕方がない。だが、魔力の低い相手を選んだのだったら覚悟も必要だっただけだ……魔力の低い子どもが生まれることを覚悟し、どんな子どもが生まれても守る覚悟で結婚するべきだった。お前の父親はそれがなかった、無責任な男だ」

「でも……」

「お前も、魔力が低く生まれたのはお前のせいだ! くらい言ってやっても良いはずだ。まあ、言えない性格なんだろうし、押さえつけられて来たからなんだろう。だから、またクラレンスが来たら言いなりになってしまうだろう? 俺が守ってやるから、ここで暮らせ!」

「メリアージュ様……」

「お前まで様をつける必要はない。様をつけるんだったら、お母さまとでも呼べ」

「では、私はお父様と」

「ロアルド……」

「申し訳ありません!」

「でも、俺なんかが……そんな資格」

メリアージュ様が言うことも分かる。そう思えれば、言えれば良かっただろう。でも、クライスは魔力の低い母でも、あんなに魔力が高く生まれた。誰よりも優秀で、誰よりも美しい。クライスなら義理の両親に愛される資格もあっただろう。

「あのな!……俺は、妊娠している」

「え?……」

俺は今魔力が使えないので、相手の魔力を測ることができない。そのせいで、妊娠しているかしていないか見て分かる事はない。
しかしメリアージュ様は、一体お幾つなのだろうか。若くても50代だろう。

「俺は64歳で夫は60歳だ。まあ、有り得ないほどの高齢妊娠だが、俺の母も50代終わりで父は60代で俺を産んだ。高齢出産家系なのかもしれないが、この子が成人になるまで、生きているかは分からん……俺もこんな歳になって妊娠するとは思わなかったが」

18年後、メリアージュ様は82歳だ。確かに、成人になるまで生きているか不安になるだろう。

「俺の兄夫婦は、父たちが高齢でなくなった場合に備えて、二番目の両親として俺を本当の子どものように育ててくれた。だからな、マリウスも俺たちの子の二番目の母親になってくれ」

「あの……」

「幼くして、一人ぼっちになったら可哀想だろう? 兄夫婦に途中で引き取られても肩身の狭い思いをするかもしれない。甥っ子たちと仲良くここで育って欲しい。俺たちも、マリウスやロベルトが一緒に育ててくれたら安心なんだが、駄目か?」

確かに、何時、残していってしまうか分からない状態では不安だろう。勿論何かあった時にはロベルトの弟だ。肩身の狭い思いはさせないつもりだけど、顔も見たこともない兄やその妻に育てられるのは可哀想だろう。
一緒に育てば、何時メリアージュ様たちがいなくなっても、俺たちを本当の両親と思ってくれるかもしれない。

それにこんな俺でも、二番目の母として一緒に育てて欲しいと、必要としてくれた。

「ありがとうございます、メリアージュ様。いいえ、その……お母さま。俺なんかでよければ、ロベルトの弟の二番目の母親にして下さい」


********

「は? 弟が出来る??」

やっと任務が終わって帰ってきてみれば、何故かマリウスは実家に住んでいて、弟が出来ると言われた。

昔は欲しかったが、自分の子どもよりも年下の弟が出来るといわれると複雑な気分だ。まあ、あの母に不可能は無いだろうから、妊娠自体には驚かないが。

「うん……お母さま、俺とロベルトにその子の二番目の母と父になって欲しいって言われて。俺でもお母さまたちの役に立てるのなら、一緒に育ててあげたいんだ。アルベルもこの子もきっと仲良くできると思うし」

「いや、それは良いし、俺の弟のためにそう思ってくれるのは嬉しいけれど。本当に大丈夫か? 母上かなりキツイ性格しているぞ?」

マリウスが一緒に暮らせられるか心配になってしまう。
父があれだけ束縛して生きていられる事じたいが不思議なのだ。

離れに城を建てて貰えるらしいが、それまで一緒に暮らすことになるし、何故か祖父や祖母も母の出産を見守る!と言い出して、一緒に暮らしているし。(*祖父と祖母はオーレリーとアルフです。前公爵なのはロベルト知りません)

「ううん。お母さま、正直なだけで、凄く優しいと思う。俺が伯爵家に入りやすいように、第二の母と理由をつけてくれたし。素敵な人だよね、ロベルトの母上って」

それは否定しない。もともと面倒見の良い人だし。困っている部下がいたら、放っておけずに尊敬もされていたらしい。子どもの頃も父の部下は父ではなく母の命令に従っていたし。だから、理不尽に侯爵にいたぶられているマリウスを放っておけなかったのだろう。正義感の強い人だ。一応マリウスのことは父に頼んでおいたが、妊娠中の母を放っておくわけにもいかずに、母を連れて父はマリウスを助けにいったのだろう。

ただ、母が優しく見えるのって、父が美人な嫁に関わらないように、母が積極的に動いているからのような気がするが。母の動く動機は全て父に直結するんであって……


「せっかく夢の同居できたのに、メリアージュ様とオーレリー様に嫁を取られた(´;ω;`)」

楽しそうに4世代(オーレリー様・メリアージュ様・マリウス・アルベル)お茶会をしているのを、羨ましそうに見る父がいた、らしい。



END



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