その日はロアルドの還暦の祝いだった。
親戚や友人、それに息子や孫を招いて、夫の祝いをしていた
ロアルドも楽しそうだったし、俺もロアルドが楽しそうにしているのが嬉しく、酒も進んだ。

強引に俺はロアルドと結婚した。ただの上司としか思っていなかった、いや、それどころか暴力を振るう煙たいと思っていた上官を妻にし、それでもロアルドは還暦になるまでひたすら従順で、俺だけを守って生きてきてくれた。
こんな素直じゃなく、優しくもない妻を、それでも愛しているといってくれた。


「メリアージュ様! 私を漢にして下さい!」

初めは言われた意味が分からなかった。

だがロアルドの言葉を聞いていくうちに分かった。かつてたった一度、俺はロアルドにこの体を自由にさせた。勿論その記憶はロアルドにはない。俺が記憶操作でロアルドの記憶を弄ったからだ。元々、俺の魔力はロアルドよりも低い。それでもその記憶操作が成功したのは、公爵家が持つ独自魔法だったからだろう。
だからロアルドは自分が一度は俺を抱いたことがあることは知らない。

どうして結婚後30年以上が経ち、ロベルトが生まれてから久しいと言うのにこんな事を言い出したのか。

パーティーではイブやアーロンやそして息子と楽しそうに会話をしていた。

俺は嫉妬深い。それは否定しない。ロアルドの私生活全てを束縛している。

だが、ロアルドにも友人は必要だろうと、友人との時間だけは邪魔しないようにしている。昔からの親友アーロンや俺の友人イブとも何時の間にか仲良くなっていたロアルドだったので、パーティーの時間も遠目で見ていただけだった。
だがその間に何かあったのだろう。

俺はプライベートな会話は聞かないようにしていたが、魔法で全て保存はしてある。パーティー時間の会話を高速で取得した。

『メリアージュに漢にしてもらいなよ』
『母上が乱れるって、冗談よして下さいよ。イブおじさん……想像したくもないですよ』
『どこまでして良いのだろうか?』
『それは……パイパンは必須だろうね〜王都では一度は奥さんにやってもらいたいプレイナンバー1だよ。ねえ、ロベルト?』
『まあ、第一部隊で流行しているようですけど。うちの部隊でも、信奉者も多いみたいですね』
『ロベルトはしたの? 僕もアーロンにやってもらおうかな』
『うちはまだですね。もともとマリウスは銀髪だから目立たないですし…生えているか分からないほど薄いですし』
『パイパンにして嘗め回して、漢ならバックからも必須だよ! あとはやっぱり正常位は顔が見えて可愛いよ』
『俺は、やっぱり騎乗位が一番好きですね。可愛い顔もよく見えるし、羞恥に悶えながら動いてもらうのを見るのが大好きなんです』
『でもね、メリアージュは何時も騎乗位だから、他の体位薦めてあげないと……』
『パイパンは必須なんですね! あと、正常位とバック』
『あとは本能の満たすがまま、メリアージュをやりまくれ!』

イブのやつ!
ロアルドに余計なことを吹き込みやがって!

もう、俺は二度とあんな恥ずかしい真似したくないのに。
勿論それでロベルトを儲けた事には感謝をしている。
どうしても一人はロアルドの息子を産んでやりたかった。人並みにロアルドに父親になるという喜びを味あわせてやりたかった。
そして妊娠したお陰で父や兄とも和解が出来、両親に孫の顔を見せてやれた。いや、それだけではなく、俺が勘当されていたことを何よりも気に病んでいたロアルドが、一番喜んでいた事が俺にとっては一番喜ばしい事だった。

父が60を過ぎて生まれた子だったので、ロベルトの顔を見せれた頃にはもう両親はかなり高齢になっていた。だが母のほうが父よりも若い。先に見送るとしたら父のほうだと思っていたのに、先にいなくなってしまったのは母のほうだった。
魔力の高い両親は加齢はしない。何時までも若いまま、しかし寿命は魔力の高い低いには関係ない。ある日、前兆が何もないまま、ひっそりと亡くなるのだ。
母と父は一緒に死ぬ魔法をかけていない。母が拒絶したのだ。死ぬときくらい一人で死なせてくれと。母のほうが若いので父が死んだときに一緒には死にたくないといっていたが、結局母のほうが先に行ってしまった。そして父はすぐに後を追った。
何の問題もない。これがまだ子どもが幼い頃だったとしたら、追うのは批難されることだが、もう子どもを残していっても何の問題もないからだ。
そして一緒に葬儀で送った。

和解があと一年でも遅かったら孫の顔も見せられなかったし、わだかまりを残したまま両親を見送る事になっただろう。
だからあの日のことは後悔していない。

していないけれど、あれから30年近く経ち、今更こんな事を言われるなんて。

あの羞恥を再び味うことは無理だ。

しかしロアルドは、何故駄目なのかと執拗に食い下がった。駄目なら駄目で知りたいと。知れば納得できるはずだといわれると、正直に話すほうがよほど恥ずかしかった。
お前の事が好きすぎて醜態を見せてしまうから駄目だなんて、抱かれるよりも恥ずかしいかもしれない。言えば納得するのだろう。しかし言えない。

思えばロアルドも可哀想な男だ。誰よりも良い夫になれただろうに、こんな妻としか結婚できず、男として妻を抱く自由もないのだ。一度くらいしたいと思うのも男として当然なのだろう。
そして俺は軽々しく約束してしまった。どんなことでも願いをかなえてやると。

あと一度くらいなら……記憶を消す事はできるだろう。約束を守った後、記憶を消去すれば良い。記憶にはなくても、願いをかなえてもらったという満足感は残るかもしれない。

そう思って、ロアルドに最後だと思い抱かれる事にした。

たぶん、酔っていたのかもしれない。そうじゃなければ、いくらなんでもあんなに好き放題させたりしなかった……と思う。

「メリアージュ様……私はどうして外国で全裸で倒れていたのでしょうか?」

「酔っていたんだろう?」

酔っていたからといって全裸で外国で倒れているわけはない。しかし、そうですかとロアルドは納得していた。酔っていたから記憶も無いんですね、とションボリしていたが、記憶消去がちゃんとできていて安心した。あんな記憶がロアルドに残ったままだとしたら俺は一生ロアルドの目を見れないかもしれない。いや、目を見れても二度とロアルドに乗っていくことができないかもしれない。

「メリアージュ様……………………今夜も無しなんですか??(´・ω・`)」

あの夜、ロアルドが俺のをパイパンにしてしまったせいで、ロアルドに裸を見せることが出来ず夜の行為がない日が続いた。何時もは催促しないロアルドだが(催促する前に俺が絞り取る)余りに日が空いたため、したいな、みたいな感じで聞いてきた。

お前が何故か生えない魔法も一緒にかけたせいで、まだ生えてこないじゃないか!

こんな姿を見せたら何が切欠で思い出すか分からないだろう!
それにどうしてパイパンなんですか? と疑問に思われるに違いない。

だから、できない!

が、自分で生やせば良いんじゃないかと思い、余りに生えてこないので生やそうとし……

「魔法が使えない?……」

「メリアージュ様、どうしたんですか?」

俺は64歳。ロアルドは60歳。

最も僅差の魔力差の夫婦から子どもが生まれたと大陸記録協会から、記録保持者として表彰されたが……

「まさか……ありえないよな」

俺はそっとお腹に触れた……


END





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