「還暦おめでとうございます!」
私の還暦の祝いに、親族や友人たちが集まってくれ、お祝いのパーティーを開いてくれていた。
とうとう私も60歳か。20代前半でメリアージュ様と結婚したので、もう人生の半分以上をメリアージュ様と過ごしている事になるが、未だにメリアージュ様と一緒にいることに慣れないでいる。
新鮮な気持ちと言えば良いのだろうが、未だに新婚当時を同じような執着心で私を見張っておられ、息をつく暇もない日々だ。
そんな私を見て、愛されているなと言われる事はあるが、羨ましいとは……最近、たまに言われるようになった。なんでも奥様に虐められたい夫や、奥様に乗ってもらいたい夫たちから羨望の眼差しで見られているようだが、乗って頂くことしかされていないのは、本当に羨ましいのだろうか……
「父上、還暦おめでとうございます」
「おめでとうごちゃいます」
「おお! ロベルトにアルベルじゃないか! なんと可愛いいんだ!」
正式に孫に会えたのは初めてだった。何度も変装をして会いにいったが、こうして祖父と孫として会話を出来たことはなかった。
アルベルはママに似てか、銀髪の綺麗な髪で艶々の天使の輪ができていて、将来が楽しみなほど可愛らしい子になっていた。
「ママに似たんだな〜。お嫁にほしいと将来行列ができるかもしれんな。いや、我が家の跡取りなのだから、お嫁になどやれんな」
「アルベルがマリウス似なのは否定しないけど、嫁か……」
息子が複雑そうな顔をしていた。愛しい妻に似た息子が、嫁に行く姿はあまり想像したくはないのだろう。私もこんな可愛い子を嫁になどいかせたくはない!
「お! ロベルト! 集まりに出るのは久しぶりだな! 跡取り息子がそんなんじゃあかんぞ!」
「すいません、仕事が忙しくて」
「美人な奥方を娶ったんだってな。今日は連れて来ているのか?」
確かに、ロベルトの妻マリウスは物凄い美人だ。有名なのはその弟だが、マリウスは気の強そうな表情を見せるが、ふとした仕草や頼りなさそうな素振りが堪らなく男心をそそるといっても過言ではないだろう。
「この子が息子ちゃんか。この子の顔を見れば奥方がどれほど美人か分かるな! 噂では物凄い夜のほうも達人だって聞くが本当か?」
「ノーコメントです」
そうだな、妻の夜の媚態など想像もされたくはないだろう。しかし、マリウスは社交界から締め出されるような行いをしてロベルトと結婚している。他人の婚約者を奪う行為は最低だと思われる一方、それほど奥方に愛されるなんて羨ましい、相当愛されていて夜も凄いんだろうと噂をされているらしい。
私もあの美人の嫁がどんなふうに息子に抱かれているのか、興味がないわけではない。いや、嘘です!メリアージュ様!想像しただけなのに、何故か何かを感じたのかメリアージュ様が睨んできた。メ、メリアージュ様以外に興味はありません! _ト ̄|○
「何で今日連れて来ないんだ?」
「妻は妊娠中ですので……それに卑猥な想像をされるのも可哀想ですから」
一応、我が家や公爵家でロベルトの妻の悪評を消すようにはし、貴族社会でも迎えられるように整えたが、嫁は一度も我が家にもきていない。心の準備が整うまでと、ロベルトは言っているが、確かに見ると卑猥な想像をされるようでは出て来れないだろう。
だが、誤解しないように! 皆は別段マリウスに何かしようというのではない! 皆不倫など考えた事もないし、奥様以外と性交渉など考えた事もないだろう。純粋に興味なのだ。寝取るほど愛される夫とその妻というのに興味があるだけだ。
夫が妻を無理矢理手に入れるというのはよくある事なのだが、妻が夫を無理矢理手に入れるというのは聞いた事がないからだろう。
「アルベル、来ていたのか」
「ばーば!」
「え? メリアージュ様。アルベルに会った事があるんですか?」
「俺は、アルベルが生まれた時から定期的に会っていたぞ。お前は、アルベルに会うと美人の嫁を想像しそうで、禁止にしていただけだ!」
な、なんと、孫に会うことすら嫁を連想させて禁止にしていたとは!
「マリウスには会わせていないですがね。どうみても怖がると思って」
……虐める。いや、メリアージュ様はそんなことなどしない! と思うが……確かに物凄く威圧感はある。あの凛々しさに圧倒されて萎縮してしまう可能性は高いだろう。
そんなふうに思っていると、イブちゃんとアーロンがやってきた。イブちゃん死んだ事になっているのに、堂々と出歩いている。まあ、死んだ振りは誰もが知っているから問題ないと言えばないが。
「やあ、ロベルト君。その子がアルベルか? 可愛いけど、うちの一族の好みの顔じゃないかな?」
辺境伯家はイケメンでしっかりしているタイプに弱いらしい。アルベルのような将来守ってあげたいと思うような顔立ちになりそうな美人タイプは好みじゃないだろう。それに、大根と有名な一族に可愛い孫をやりたくはない。
「それにしても、メリアージュとこんなに長くよく続いているよなあ。君がこんなに我慢強くなければ、いくら離婚できないからってとうに逃げ出しているよな」
「俺もそう思いますね。よく、父は逃げ出さないでいられますよね。俺は子どもの頃から、父が乳首を弄られているのを見ていて、軽く乳首にトラウマが残ったままなんです。乳首を舐めるのは好きでも、舐められるのはどうやっても我慢できません」
「おい、ロベルト、お前あんな美人な妻に乳首を弄らせているのか!?」
「違いますよ……というか、R・M商会なんとかならないんですか? あそこでマリウスが変なものを買い込んできて困っているんだ……」
あの商会は、私が嫌がって使わなかった道具をメリアージュ様がやけのように売っていたのが、いつのまにか大ヒット商品になってしまい、いまや王都になくてはならない商会になってしまっているらしい。
「あそこは、メリアージュ様が仕切っているので、私には手を出しようがない」
「ロアルド君、まだメリアージュに仕切られているままなのかい? まさか、ベッドの中でも一度も主導権をとった事がないとか言わないよね」
「………」
「え? まさか、本当なの? 結婚して30年以上経つのに、一度の一度も?」
「……父上」
息子にすら気の毒そうな目で見られてしまっている。
「父上たち、かなりお盛んにしていたでしょう? それは、母上が何時も誘っていて乗っかっていたのも知っているけど……まさか、一度も父上からしたことがないと?」
「ロベルト君、君は騎乗位でできた子なんだよ。ロアルド君はその体位しかしたことがない、らしい……」
「自分の作成の体位を知るなんて複雑な気が……」
息子よ、私はロベルトが何時出来たのか分からない。それが判別できるほど、少ない回数ではなかった。毎夜のごとくメリアージュ様に襲われていたので、この日だと分かる日はない。しかし、体位は分かる。騎乗位だ。それしか体験していないのだから……(´; ω;`)
「その年で、騎乗位しか体験した事がないって……」
「いや、ロベルト君、世の中の夫婦は、例えば君の伯父夫婦なんかはうるう年に一回しかさせてもらえていないと聞く。子どもが二人もいて4回しかさせてもらっていない夫婦もいるという。そう思えば、奉仕してくれる妻がいることは誇りに思う事で、不憫がる事ではない」
「まあ、そう言われればそうかもしれませんね……」
「世の中にはマグロの妻も多いというのに」
「かわいそうな夫が多いですね。俺の妻は何でもさせてくれますよ」
「マグロじゃないのか!?」
アーロンはマグロだからな……マグロでもやらせてもらっているイブちゃんは勝ち組のはずなのに、物凄く息子を羨ましそうに見ている。辺境伯家って可愛い顔の家系の癖に、性欲が強すぎるような気がする。アーロンも何度も泣き言を言っていたし、イブちゃんのアレを私はみたことがないはずなのに、アーロンが形状や大きさをこと細かく説明するものだから、脳裏にすぐに浮かんでしまうようになった。
「いえ、まあ、どちらかというと俺がするほうが好きなので妻に奉仕をさせる事は余りありませんが、初めては騎乗位だったんです。なので、たまにしてくれと頼むと、物凄く恥ずかしがりながら乗ってくれますよ。初めてのことを思い出しながらか、恥じらいながら悶えてくれるのは物凄く淫らで、たぶんそれが一番妻が感じる体位です」
あんな可愛い妻が恥らいながら乗ってくれるのか!
私のメリアージュ様も乗っかってくれるはくれるが、物凄く凛々しく男らしく乗っかってきます。どっちが抱いているのは全く分かりません。
たぶん、メリアージュ様視点だと魔力が低いから仕方がなく奥様に回っているだけで、感覚としては私を抱いている気でいるのだろう。
そうではなければ、私を泣き出すまで攻め立て、その後私に腕枕をして眠るなんてしないだろう。
「ロアルド君、息子にも盛大に負けてしまっていて、思うところはないのかい?」
思うところはこの数十年ずっとあったが、ああいう方が奥様なので仕方がないと諦めている。
「還暦と言ういいチャンスだ! メリアージュに漢にしてもらいなよ!」
「漢!?」
「そう、これを機会に主導権を握りなおすんだ! 還暦のお祝いに漢にして貰うんだ!」
「でも、無理ぽ」
「恥ずかしがって悶えるメリアージュを見てみたくないのか!?」
「は、恥ずかしがって悶えるメリアージュ様……」
「いえ、そんな母、どこにもいないでしょう……というか想像もしたくないです」
息子の冷静なツッコミがあったが、私の耳には届かなかった。
確かに、私の還暦という区切りの良いチャンスだ。ここで、お祝いだとお願いをしてメリアージュ様から私に主導権を渡してもらって、そして漢にしてもらえる!??
*ロアルドの還暦祝いはかなうのか?
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