俺の進路はもうすぐ卒業したら、兄と結婚することになっていた。
働く必要はないと言われている。

「結婚を延期だと! 何を言っている、クロード! お前はお兄様と結婚をすると決まっているんだ!」

「そうだよ、クロード。突然何を言い出すんだ?」

「……一度、働いてみたいんです。お兄様と結婚したら、自由に外で働けないでしょうし、子どもも生まれたらもっと難しくなるでしょうから…」

とりあえず兄から離れてみて時間を稼ごう作戦に出ようと思った。

「そんな必要はない! 外の世界なんか知る必要なんかないんだ! クロードは働く必要はない!」

「しかし! 同じ公爵家の方々は部隊で活躍をされてっ」

「あそこの家は国の防衛を一手に担っている家系だからね。うちは魔素の提供で国に貢献している家だよ。比べても仕方がないよ?」

「そうだ! 早くお兄様と結婚をして、子どもを作ろう! いや、子どもはしばらく先で良い! 子作りの過程が早くしたい!」

「もう、シリルったら、お父様と同じような事を言って」

「まあ、息子だからね。僕に似ていても仕方がないだろう? 僕も早く兄さんを抱きたくて仕方がなかったからね」

「俺も、早く征服されたくて仕方がなかった」

はいはいはいはい。聞きたくないですね。

「せめて、一年だけで良いんです!」

「だったら結婚しながら働くんだ。結婚して部隊に所属できないというわけではないのだからな。クロードはお兄様のものになってなら、働く事を許そう」

確かに、結婚しても働く事はできてしまう……でも、兄と結婚したくないから仕事をしたいといったわけで、仕事を許可してもらう代わりに結婚では全く意味がない。

「……正直に話します。お兄様との結婚は、白紙にして欲しいんです」

「何を言うんだい、クロード!」

「そうだ! こんなに愛しているお兄様と結婚を白紙になど、どういうつもりなんだ!」

家族は混乱していた。それはそうだろう。今まで俺が兄と結婚することが当然で、常識だったからだ。

「ずっと思っていました。兄弟同士で結婚なんておかしいと。建国の時代なら分かります。この独自魔法が必要だったことは……でも、今の時代に俺たち一族が必要でしょうか? 何時までこんな親族同士でしかできない結婚を繰りかえすつもりなんですか? 俺はもう嫌です。自由に結婚をさせて下さい」

「クロード、兄弟の何処がいけないんだ? お母様はお父様と結婚できてとても幸せだったよ。シリルも夫としてこれ以上ない存在になるはずだよ」

「お兄様はクロードだけを愛してきたんだ! どうして、今頃そんな事を言い出したんだ? ああ、そうかマリッジブルーなんだね?」

「違います!」

「じゃあ、反抗期か? 大丈夫だ、結婚すれば落ち着くだろう」

まるで取り合ってくれない。マリッジブルーだの、反抗期だのと言われて真剣に結婚を取りやめたいという声に向き合ってはくれなかった。

「分かりました……本気にしてくれないのなら、俺はこの家を出ます。この家の子ではなくなるので兄弟で結婚する義務はなくなるはずです。今まで育ててくれてありがとうございます」

クロードと叫ぶ声が聞こえたが無視をした。そしてそのまま軍に入隊をした。軍に入った目的は、結婚相手を探す事だ。別に早く結婚をしたいというわけじゃない。
兄以外と結婚をして、兄と結婚できないようにするためだ。家出をしたって素直に諦めてはくれないとは思っているからだ。
家出初日目だが、一刻も早く夫を見つけなければ連れ戻されてしまう可能性も高い。

そこで俺が目に付けたのは、別の公爵家の一族の男だった。ただ単に夫を見つけただけでは意味がない。兄から守ってくれるほど強くなければ駄目だ。
そういう意味で、同じ年のその公爵家の男はうってつけだと思った。
とにかく先手必勝なので、押し倒して既成事実を作ってしまおうと思い、その男の部屋に行き押し倒した。まあ、俺が抱かれるほうなんだけどね。

「うわっ!」

「うわっ……って、こっちの台詞なんだが? 突然、人を押し倒した挙句、悲鳴を上げてなんなんだ?」

突然理由を言わずに押し倒した俺に呆れたような目で見てくるが、それは仕方がないとは思う。

「物凄い電流が走った……」

「そうか? 俺には何も感じなかったが。だいたい何なんだ? 突然人の上に跨って。俺は眠いんだが」

「結婚を無理強いされそうになっていたから、身分が高く魔力の高い夫とすぐにでも結婚したかったんだ」

「そのターゲットが俺か。だが、無理だな。お前には何にも感じなかった。俺の運命の相手はクロードじゃない。勃起もしない」

出た。運命の相手というのが。
公爵家の一族の男は、運命の相手に会ったら一目で分かるそうだ。一目で分かって、誘拐し、監禁するのが公爵家の通常恋愛。
俺の一族では、逆に兄弟じゃないと惹かれないのかもしれないが、生まれた時から結婚相手が分かるそうだ。例えば四人兄弟で生まれたら兄弟なら誰でも良いという訳じゃなく、弟が生まれてもそれほど関心を示さない場合は、この子が相手じゃなかったのね、ということでもっと頑張って子どもを産むそうなのだ。

「……お前のその電流。呪いのように何十にも重なって魔法がかけられているな。性的関心を持って触れたら、盛大な電流が走るらしい。俺の方には何の性的な意図がなかったせいで大丈夫だったが、これが性欲バリバリな状態でお前に触れたら即死になるほどの威力がある」

あんのくそお兄様が!!!!!

どうやっても兄以外と結婚できないようにしてあったのか。だからあんな冷静にマリッジブルーとか言っていたのか。



「クロード、これが分かっただろう? お兄様と結婚しようね?」

魔法(呪い)を解除させようと実家に赴いてみると満面の笑顔でそんなことを言う兄がいた。

「解除を」

「しない!」

「なら、永遠に独身のままで結構です! お兄様と結婚するくらいだったらね!」

「クロード……お前の気持ちも分からないではないが、少し兄が可哀想であろう?」

「へ、陛下!?」

「家族だけの問題に留まらないようなので、私が調停として参加しても良いかな? ことは国防に関する重大事だ」

兄に魔法を解除させようと思っただけなのに、突然陛下がわが家にやってきていた。陛下を味方につけるとは卑怯だ。

「さて……クロードの気持ちは聞いている。兄と結婚したくないそうだな」

「そうです……国防に関わる重大事だという事はよく分かっています。けれど、俺の人生も一度きりです。自由に生きたいんです」

「だが、まずこの一族は国の存亡に関わる重要な血筋だということは分かっているだろう。そのために莫大な領地や地位、財産が与えられている。クロードもその恩恵に与ってきたはずだ」

「それは……分かっています」

だがやっと俺は成人になるんだ。成人になるまでは親がお金をかけて育ててくれるのは当たり前のはずだ。もしこれまでにかかったお金を返せる事で自由になれるのなら俺は借金をしてでもかえすだろう。

「そして、この一族が何百、何千万の国民の生活を、安全を担っているのだ。好き、嫌いの問題で、結婚を拒絶できるわけではない」

「……」

「それにね、クロード……お母様はクロードがお兄ちゃんと結婚するのが嫌だって知らなかったんだよ。一体何時から嫌だったの?」

「小学校に上がって……兄弟で結婚するのはおかしいと皆に聞いてからです。兄弟から生まれた俺もおかしいし、兄と結婚する俺もおかしいと思ったからです」

「だったら、どうしてその時に言ってくれなかったの? 結婚直前になるまで黙っているなんて卑怯だろう? 7歳の頃から結婚するつもりがなかったのなら、いくらでも対処法はあったんだよ」

それは、嫌だと言ったら皆から排除されるかと思ったからだ。
だから卑怯にも成人するまでは黙っていて、独立できるようになったら家を出ようと思っていたんだ。

「7歳の頃だったら、まだ子どもをお母様、産めたんだよ。シリルのお嫁さんを産んであげれたかもしれないのに、今となっては無理だよ。今まで黙っていて、シリルを拒絶するなんてシリルが可哀想だろう? シリルに伴侶がいないまま死ねと言うの?」

「勝手を言っているのは分かっています」

兄が言葉がないのは、ずっと泣いているからだ。
兄が俺のことを好きでいてくれるのは充分すぎるほど分かっている。ずっと僕のお嫁さんになるんだよと言われ続けて、夢を見ていたのを知っているからだ。

「お兄様も別の伴侶を探されては……一族外から」

「駄目だ。国王として許可は出来ない」

元々俺の一族は数が非常に少ない。当たり前だろう。外部から人を入れれないのだから、増えるはずがない。細々とした人数で頑張って支えているのだ。
今、繁殖可能といえば、俺と兄それに従兄弟二人の計4人だけだ。俺たち二人が抜けてしまったら、従兄弟二人で頑張って増やすしかない。

「だがクロードが自由を求める気持ちも分かる。そして泣いているシリルの気持ちも分かる。そして国のために二人は結婚してもらわないと困る。だから妥協案を出そう……クロードはシリルと結婚をして、最低二人子どもを儲けなさい。二人子どもを儲けた後は、自由だ。誰と再婚をしても良いし、離婚も自由だ。国王の名に懸けて誓おう」

でも、それじゃあ、結局兄と繁殖することには変わりはないんですが……
兄抱かれて子どもを産むのがいやだったから逃げ出そうとしたのに、結局変わらないって……兄に抱かれて子どもを産んだ後で、離婚して自由になれても意味はあるのだろうか。




- 195 -
  back  






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -