弟が結婚をした。
弟エルウィンは異性愛者で、庶民とそれほど変わらない生活をしていた我が家でも、異色の存在だった。
だが本人が異性にしか興味がないなら仕方がないと思い、エルウィンも三男だ。好きな結婚をさせてやろうと思い、娘しかいない家を探し見合いをさせた。
この国では婿をとる場合、数通りある。

まず、今回のように娘しかおらず、女性には継承権がない。全権を婿に渡して継いでもらうパターンだ。貴族女性自体ほとんどいないため、このパターンはそれほどいない。
その次は、魔力が低い跡取りしかおらず、高い魔力を持つ婿を貰う場合。これも全権、婿が取り仕切り、当主となってもらう。
あとは当主の魔力に問題はないが夫となる人のほうが魔力が高い場合。これは様々だ。妻のほうが当主となり取り仕切る場合もあるし、夫に任せる場合もある。

エルウィンが望むような縁談を纏めたはずだったが、何をどう間違ったのかこの国一番の名門貴族の跡取り息子と結婚してしまった。

公爵家と嫁となるほどの家系でもなければ、魔力もない。公爵家の方々は魔力の高い美人が好みだったはずなのに、何故だ?と疑問には思ったがもう既にお腹に子どももいると言われては断わるわけにもいかない(実際にはまだ妊娠していなかったが)

家柄がと思わないでもなかった。元々公爵家の方々は誘拐しているのがほとんどだったので、嫁の家柄もあった者ではない。塔に閉じ込めて公爵夫人の顔も分からない事も頻繁にあった。そう思えば、一応男爵家とはいえ、この王国の貴族の出なのだ、そう悪くはないという擁護の声も頂いたが。
しかし最近は、当主アンリ様は王弟殿下と結婚をされ、次男ユーリ様は侯爵家の出の美しいクライス様と結婚されている。
エルウィンが嫁に入ったら、身分の卑しいと虐められるのではないとか少し心配になったが、心配するなと言われ、何故か男爵家から急に伯爵家に格上げされてしまった。
伯爵家といえば、王都でも一流の貴族だ。細々とした領地しか持っていなかったのに、急に莫大な領地を与えられ、どうやって領地経営をしたら良いのか分からない。
これでも一応領地の経営くらいは出来るはずだ。しかし、領主というのはそれだけでは駄目なのだ。
この大陸には凶暴な魔獣や害獣が山のようにいる。領主たるもの、領民の求めに応じて、魔獣から守ってやらないといけない。今までの細々とした領地だったらなんとかなった。しかし、莫大な領地を与えられた今、とても維持するのは不可能だ。領地から領地の端まで、移動するだけで数日かかってしまう。
転移魔法を使えるほどの大貴族ではないと、本来伯爵家規模の領地は維持できないのだ。


「困りましたね……公爵家のご好意で頂いたので、辞退する事などできませんし」

「エイドリアン兄さんと、俺と父さんでは、とてもこの領地を守る事など不可能だよ」

「そうだな……一族のものに協力をあおいでもとても無理だろう」

エルウィンは軍に入るほどの魔力があった。軍ではそれほど高い魔力とはいかないだろうが、二人の兄よりも魔力が高かった。
一族も総じて魔力が高いわけではない。総勢集めても、領地の維持は無理だろうとなる。

「旦那様、公爵家の方から使いの方がいらしています!」

「なんだと!すぐ通せ!」

本来だったら絶対に会うはずもなかった高貴な家だ。それが今は親戚になってしまった。
普通だったら玉の輿だと喜ぶ所だろうが、こんな小さな家では逆に負担になってしまう。

「公爵家から使いで参りました、アレクシアと申します」

あれ? 使いと言う事は当然使用人が来たと思ったが、どう見てもアレクシアさんは使用人ではない。
高い魔力と高貴な面差し、どう考えても貴族でおそらく公爵家の一員の方だ。

「実は、今回爵位を上げたことで、爵位と実力が伴っていないことに、隊長は憂慮をされております」

「伯爵家を頂けたのは大変ありがたい事です。しかし、仰るとおり我々には過ぎた地位と思っております」

初めは確かに嬉しかった。ただハイな時期が過ぎると、身に余る地位だと気がつき憂鬱になっていたのだ。これで隊長閣下が爵位を元に戻していたければ……

「従って、魔力の底上げを命じられました」

「魔力の……底上げですか? しかし、どうやってでしょうか?」

いえ、だって魔力は生まれた時から決まっていて、たまには修行で伸びる人もいるがそれも未成年の間だ。成人した今どうやっても底上げする事は不可能だ。

「結婚です」

「け、結婚?」

「そうです。隊長は、結婚によって魔力の高い血をいれて、この家を伯爵家として相応しい魔力の維持を考えておられます。そこまで親身になって考えているのは、愛しい奥方の実家だからです。今回、隊長はお見合いを考えられております」

「……お見合いですか…どなたをお考えで」

「私です」

アレクシアさんは確かに莫大な魔力を持ちに見えます。この方の子どもならそれは高い魔力を持って生まれてくるでしょう。

「えっと……アレクシア様とどなたを」

「それは勿論、次期当主エイドリアン、貴方と私の縁談です」

「そ、そうですよね……」

魔力の底上げを考えているのなら、当然跡取りの私とと言う事になる。

「見合い映像で見るよりも、実物が見えたほうが分かりやすいと思いまして、私が今回見合い相手兼使者として参りました」

それは……とてもよく分かりますけれど。

「と、突然のお話にどうお答えしたら良いか……分かりません」

「何も考える必要はありません。貴方は私のように優秀で、妻を熱愛する男を夫にできることを幸運だと思って下さればよいのです」

え、ちょっと、もうこのお見合いって決まりなのか?
お見合いは断わる権利も……

『こ、断わっちゃ駄目なんだろうか?』
『無理無理無理! あの公爵家からお見合いを斡旋してお断りなんて失礼な事できるわけないだろ! エイドリアン兄さん』
『弟の夫の好意を無視する事など……』
『え? だって私の夫になるんだろう? なんか、ちょっと変わった人のような?』
『高貴な方々は少し変わっていて当然なんだ!』

「あ、あの、このお話ってもう本気まりなのでしょうか?」

「チェンジが希望で?」

「あの、できれば、色んな方々と会って」

「無理です」

「で、ですよね……で、でもアレクシア様もご命令で突然結婚など、お嫌ではないのでしょうか?」

「私は、隊長がエイドリアンの婿を決めようと言われた際に真っ先に立候補をしました。結婚式でお会いしたでしょう? その時からなんと美しい人なのだろうかと思っていました。隊長は従兄弟の私に快く、最愛の妻の兄上の婿になれと命じてくださいました」

確かに公爵家の方々には会った。だがたくさんいすぎて私はアレクシア様を覚えてはいない。

「……ですが、貴方はこの話に乗り気ではないようですね」

あ、空気読めるんだ! エルウィンから散々隊長の悪口を聞いていたせいで、公爵家の方々は話を聞かない、空気を読まない、自分の都合の良いように解釈をすると思い込んでいた。

「そうですよね……私の一族が恋愛結婚をしようだなんて贅沢でしたよね。私の父の代で、アンリ様が初めて恋愛結婚をした時、父たちは俺たちの時代が来たキタ━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━!! キタ ━━━と喜んだそうです。しかし、他の一族は相変わらず両思いになれないままで、ただの偶然だったと消沈したそうです。しかし、今度はユーリが恋愛結婚をしたのを見て、波が来ているキタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─!! キタ――♪ o(゚∀゚o) (o゚∀゚o) (o゚∀゚)o キタ― ―♪. キタ━(゚∀゚)━┥と親戚一同喜んでいたんです。しかし、隊長の結婚を見て……やはり我々の時代など来ないんだと実感しました。貴方も私を好きになってはくれないんですよね」

いえ、好きも何も今会ったばかりじゃないですか。それはこの話に乗り気じゃないですが……

「私も一族の希望の星になりたかった……」

あ、でも諦めてくださるんだ。

「やっぱり公爵家といえば、略奪と誘拐と無理強いの一族なんですよね……」

「お、お受けします!!!!!」

「え? 本当ですか!? +(*゜∀゜*)+」

『え?良いのか?息子よ』
『だってどうせ断われないんでしょう……』
『それにこの方、断わったら強姦しようかな、みたいなこと呟いていたも同然だよ! 同意の上で結婚したほうが賢いよ』

「エイドリアン、私が貴方も貴方の一族も領地も守って見せます! たくさん魔力の高い子を産ませて差し上げます+(*゜∀゜*)+」

「は、はは……よろしくお願いします」

「エドガー君も心配しないでくれ! 君も私の弟になるんだ! 素敵な嫁入り先を探してあげよう!」

「 Σ(゚口゚;. そ、そんな気を使わなくても……お兄様」


それからは……魔力の差があるから、凄く妊娠しやすいんですよね……。
先に結婚したエルウィンよりも子沢山になっていき……
次男エドガーもアレクシア様が紹介してくれた上位貴族(毛深一族)に嫁いでいき……子孫は全て上位貴族になりました。
魔力の底上げには、弟の夫の思惑通り成功しましたが……成功しても、弟に余計な事をしましたね!と功労者は叱られて泣いていたようですが……


END





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