メリアージュ様が妊娠した。
とても無理だと思っていただけに、初めてそれを聞いたときは嬉しいというより、驚きと実感が持てないというほうが大きかった。
しかし、メリアージュ様が私の子を産んでくれるのだ。嬉しくないはずはない。
けっして魔法が使えないせいか、ストーカーもできず、パンチにも威力がないのが嬉しいわけではない。

それにしても、どうして今頃になって、何もせずに妊娠したのだろうか。不思議だ。
友人や同僚も、この魔力の差でできたのか? と驚いてはいたが、相手がメリアージュ様だと、それも、まあ、メリアージュ様なら……と、なってしまう。

私が何故か国境で全裸で倒れていても、普通だったら事情聴取をされるところだが、まあメリアージュ様が妻なら……と、何も言われず哀れみのこもった目で服を渡されて終わりなのだ。
しかしどうしてあの時私に記憶がなかったのだろうか。数日の記憶がなくなっている。メリアージュ様は知らないというが、私は何か記憶を失っている間にとても重要な事をやり遂げたような気がしてならないのだが……何かとても大切な事を忘れてしまっている気がする。

「ただいま帰りました、メリアージュ様」

「ああ、おかえり」

「おかえりなさい」

「おかえり」

ん? お帰りの数が多い?

声のしたほうを向くと、そこには見知らぬ人がメリアージュ様と一緒にいた。

「えっと、どちら様でしょうか?」

「俺の母と兄嫁だ」

「え?! ということは」

誘拐してきた奥様と、無理矢理結婚をした奥様ですよね……

「メリアージュが妊娠したって聞いてお祝いに来たんだ。初めまして、メリアージュの母です」

ああ、あの義父が30年越しの両思いになったと喜んでいただけあって物凄くお美しくて、それでいて凛々しい感じがする方です。メリアージュ様の凛々しい感じはこの方から受け継いだのかもしれません。顔は似ていませんけれど。

「私が、メリアージュの義理の兄、兼、母親でもある」

ああ、うるう年に一回しかしてあげない、鬼嫁様なんですよね。夫である義兄上は、鬼嫁とはいっていませんでしたが。
きっと逆行魔法で時を戻してやりまくっていることを知ったら、うるう年に一回すら取り上げるんでしょうね。口が裂けても言えません。

「メリアージュの初めての妊娠だ。色々不安になることがあると思って、夫に出入りは禁止されているが、問答無用で黙らせてやってきたんだ」

きっと、うるう年も禁止をするぞと脅したんでしょう……

「大事なメリアージュが孫を産むんだ。大事にするんだぞ」

「ありがとうございます。母上、お母様」

両方とも、母と呼んでいるんですね。
それにしても、公爵家の方々は恐妻ばかりなんでしょうか? 
どう考えても、妻のほうが立場が上な気がします。

「君にもずっと会ってみたいと思っていたんだ。メリアージュを幸せにしてくれる男か、ずっと気になっていたが……メリアージュが選んだ男だ。間違いはないだろう」

「は、はい!……その、公爵家の婿としては物足りないでしょうが、メリアージュ様のことを一生大事にして幸せにします!」

「まあ、見れば分かる。俺の夫のように、言葉も交わさないうちから誘拐して、塔に閉じ込めて、名前も知らないうちに強姦するような男じゃないだろう」

義母上は、この大陸の北方にある国に住んでいた王族の一人だったそうだ。結婚披露パーティーに呼んでもない、悪名高い公爵が勝手に参加をし、その日花婿になる予定だったこの方に一目ぼれをし、一言くらい口説き文句を言えばまだマシだったものを、何も言わさずに連れ去り、花嫁の塔に閉じ込めたらしい。

「まあ、そうだろうな。善良な純朴そうな男だ。私の夫のように、自分の魔力を隠して近づき、決闘に持ち込む卑劣極まりない変態とは違うだろう」

このお方オーレリー様は、アンリ様の母上だ。昔は部隊でもうすぐ副隊長に昇進できる所までいっていたらしい。そこに現れたのがアルフ様だ。
魔力を隠して、オーレリー様の部隊に異動し、同じく副隊長を争うライバルになったらしい。勿論、誰を副隊長に選ぶかは隊長が決めるのだが、そのときは決闘をして勝った方がなると決まったらしい。

「オーレリー、負けたほうは勝ったほうの言う事を何でも聞く、そう決闘条件に追加をしたい」

「変態極まりない貴様のことだ。どうせ、勝ったら妻になれとでも言うんだろう。お断りだ」

「っ……違う!」

「なら良いだろう……勝ったほうが『妻になる』以外の願いを敗者に要求する権利がある」

いや、なんか、そこでもうツッコミどころ満載なんですけど。まず魔力を隠して近づくって、イブちゃんみたいだな……ってイブちゃんが真似をしたのか。
それにこの時点でもう、変態認定されているんですけど。

「……初めて会った時に、貴方を今すぐ押し倒して、私の息子を挿入したいです。っていうプロポーズだったんだぞ?」

それはもう……プロポーズの言葉が間違っていますよ。だからもてないんですね……おそらく、その時時間巻き戻して魔力を隠したんだと思います。
プロポーズした→断わられた→上記の作戦を思いつく→魔力を隠す→時間を戻す→同等の魔力の状態でプロポーズをしなおす。そして決闘に持ち込む。

う〜ん。何か間違っていますね。こんな作戦を思いついて、魔力は隠さないと!と思うくせに、何でアホなプロポーズは直さなくて良いって思うんでしょうか?
っていうか、せっかくの独自魔法の使い方間違っていますよ。

そして、まんまとアルフ様の作戦にかかってしまったオーレリー様は、決闘の時に莫大な魔力に戻ったアルフ様にあえなく負けてしまい……妻になる以外という条件……つまり、最初のプロポーズの言葉通り、その場で息子を挿入されてしまったそうだ。

「……確かに、義兄上は変態ですね」

「そうだ。私はまんまとあんなアホな作戦にひっかかってしまい! 決闘場で、青姦で処女を失ってしまった……」

「でも、結婚したんですね……妻にはならないはずだったのに」

「決闘をみていた部下たち以下、が知ってしまっているんだぞ……結婚しない勇気はなかった」

でも、鬼嫁しているから凄いですよね。

「義母様のように、30年かけても許す気は起こらないが」

「俺だって許す気はなかった……ただ故国の危機を何も言わなくても救ってくれたし、こいつ本当に俺の事を愛しているんだなって分かった時、仕方がないなと許す気になったんだ。もう年だし、死ぬまで許さないのもかわいそうな気がしてな……あれでも必死に俺に好かれようと、許されようと努力をしているんだ……メリアージュができたのは誤算だったが、年がいってできた子が可愛いというのは本当だったし、こうして孫の顔も見せてもらえるかと思うと感慨も一押しだ」

「アンリの子とはまた違った感動がありますね。ロアルド、貴様の股間を守ってやっていたのは私と義母様なんだぞ。メリアージュだけではとうてい抑えきれないくらい怒り狂っていたからな。何時も馬鹿な計画を立てては潰していたのは私達だ。これもこれもメリアージュのためなのだから、子どももメリアージュも大切にしろよ」

「は、はい!」

そうか、そうだよな。あの公爵親子が俺の息子をそう簡単に諦めるわけはなかったよな。
あの花婿の毒薬以降、一回も公爵親子の妨害がなかったのを不思議に思っていたが、妻達がしっかりと手綱を握っていたんだな。

メリアージュ様もこのお二人を見ていたから鬼嫁に……いえ!私は一度もメリアージュ様のことを鬼嫁だと思った事はありません!!!!!
ただ、この二人の気の強さと公爵家の執着心を併せ持った、スーパー奥様がメリアージュ様なんでしょね……

「メリアージュの出産が心配だから、出産の一ヶ月前には城に里帰りしてもらいたいんだが、良いかな?」

「勿論です。メリアージュ様も生まれ育った城で、ご家族に囲まれて出産のほうが安心ですよね」

「おい……俺は勘当されているんだぞ。城に戻れるはずはないし、だいたいあんな所で生んだたら、お前が見にこれないぞ」

そうでした……俺は常に股間を狙われている身。公爵家の城に出入りさせてもらえるはずがありませんね。

「おい、メリアージュの勘当を解くよな?」

「そうじゃないと、お前はうるう年どころかうるう年も4回に一回に格下げ」

4回に一回のうるう年って、16年に一度ですか? 四年に一度だけでも可哀想なのに。

「うわああああああああああああああんん(´;ω;`)可愛いメリアージュがあんな男の子を産むなんて!!!」

「許せるはずがないだろう!!!!!!!!!(´;ω;`)」

突然公爵親子が登場しましたが、びっくりしているのは私だけで、他のお三方はなんとも思っていないご様子です。
隠れて見ていたのをご存知だったんでしょう。

「孫なんだぞ!!!! もう俺たちは何時死ぬか分からないのに、孫の顔を見れるだけでも喜ばないといけないのに、何時までも彼が気に入らないと絶縁していて良いのか!!?? お前は、メリアージュと絶縁したまま仲直りもせず死んでも良いのか!!!」

「だってだってっ」

「メリアージュの産む子まで憎いのか!!!???」

「そ、そんなことは」

「だったらここで許せ! もう彼の股間は狙わないと誓え!」

「メ、メリアージュ、パパを許してくれるかい?」
「お父様を許してください」

メリアージュ様は優し許して差し上げていました。私も嬉しいです。私のせいでメリアージュ様が公爵家から勘当されたままなのを心苦しく思っていました。しかも不仲だからというわけではなく、愛されていたから余計にです。

「じゃあ、城に戻ってこれるな」

「いや……それは難しいだろう。なんせユアリスがいる」

何でユアリス王子(元)がいると難しいのだろう。

「そういえば、そうか……ユアリスは、アンリの婚約者だったメリアージュを目の敵にしているからな。出産のためとはいえ戻ってきたら、嫉妬が爆発して手がつけられなくなるだろう」

「別に良い。ここで産むから」

「でも、パパはメリアージュのために何かしてあげたいんだよ!」

「無事に出産できるように見守ってあげたいんだ!」

仲直りしたからでしょうか。あれだけ子どもを産むのも許せんといっていたのに、急に孫を心配する祖父の顔をしだしますね。

と、いうわけで何故か、公爵家親子4人が私の城に居候をし出しました。
いえ、それなりに広いので4人が居候をしても狭いという事はありませんが……

仲直りしてくれたことは本当に、本当に嬉しいです。しかし

「貴様! 妊娠中のメリアージュに手を出そうとするなんて!」

「違います! 私だってメリアージュ様のおなかの子どもが気になって、やめてくださいとお願いしているのに、メリアージュ様が手を出してくるんです!」

夫婦生活を見張られて、舅にいびられています。
同居が大変だというのは本当だったんですね……早くわが子が生まれないかなあと願っています。



END
嫁マリウスとの夢の同居の前に、舅たちと悪夢の同居になってしまったロアルド・・でした。



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