「マーリーン! 俺と結婚するか、リリアと結婚するか今すぐ決めてくれ!」

「僕と結婚するよな!」

「俺とだよな!?」

そう、マーリーンという一人の青年を巡って、死闘が開始されようとしていた。

「……お二人とも素晴らしい方で、僕には決められません」

「なら決闘だ!」

この国では愛する人を巡って殺し合いは、非難される事ではない。強い男が愛する者を手に入れることはごく当たり前のことであったし、負ける弱いほうが悪いという理屈で、決闘で相手を殺しても何の罰もない。
殺されるのが嫌なら、決闘を受けなければ良いだけの話なのだ。
諦めて愛する人を譲れば良いだけの話だ。


俺とリリアはそれこそ小学校の頃から張り合っていたライバルだった。
成績も常に主席を争っていたし、同じ爵位の貴族の出で、同じ跡取り息子であり。
軍に入ってからは出世でも争っていた。そして結婚する年頃になり、同じ相手を好きになった。

最早ここまで来ればもう相手を殺すしかないだろう。
俺の人生にここまで立ちはだかってくるリリアは、目障り以上の何者でもない。

「兄貴、明日の決闘勝つ自信はあるのか?」

「ふっ……そんなもの」

俺とリリアは今は同じ階級である分隊長。次の筆頭分隊長の地位も狙いあっているライバル関係だ。
魔力はほぼ同じ。魔法の腕も同様だ。そんな俺にとって勝つ自信は……

「あるわけないだろ」

ない。負けないだろうが勝つ事は無理だろう。
決着がつかないままお互いの魔力を削りあって力尽き、お互い死ぬかもしれない。

「なら、何でそんな勝ち目のない決闘なんかするんだ?」

「お前、俺を心配しているんじゃないだろ? リリアを心配しているんだろ」

俺は、決闘に勝つ自信はない。だが、勝負をする前に、勝つ自信があるから決闘することにしたのだ。

「……だが、すでに俺の勝利は決まっている。お前、リリアを手篭めにして来い」

「は、はあ? あ、兄貴何を言い出すんだ!」

「お前が子どもの頃からずっとリリアを見ているのは知っている。次期家長として命じる。リリアを今夜襲って、処女を奪い、あの家の婿に入れ!」

この弟は、子どもの頃からずっとリリアのことが好きだったのだ。しかし、俺よりも魔力が高いくせに、アプローチもせずに、ただ片思いを続けていた弟にはハードルが高いかもしれない。

「お前は、俺がリリアと決闘して、もしリリアが勝って、マーリーンと結婚しても良いのか?」

「そんなこと……良いはずない」

「じゃあ、俺とリリアが相打ちになってリリアが死んでも良いのか?」

「駄目だ!」

「なら明日の決闘にいけないように、リリアの純潔を奪い、リリアと結婚をして来い! もう、今日しかチャンスはない! 必ず強姦して来い。それがリリアの命を助ける事にもなる!」

「兄貴!……俺、頑張ってリリアを強姦してくる!」

ふっ……リリア、勝負って言うのはこうやって決着をつけるものなんだぞ。
お前のように正々堂々と戦うなんて馬鹿がすることだ。明日は不戦勝で、俺の勝ちだ。

弟は中々良い物件だ。ライバルのお前にやるにはもったいないほどにな。

高笑いをし、明日の不戦勝に備えて早く寝る事にした。マーリーンと結婚するのだから、俺の美貌を損なってはいけないからな。



「んっ……」

早く寝たからだろうか、夜中に寝苦しくて目が覚めてしまった。
それに何かが俺の上に乗っている気がする。

「……え?……は、伯爵??」

何故か自室のベッドで、俺の上にいたのか、良く見知った人だった。

「あ、あの、何故ここに?」

リリアとの決闘を止めにきたのだろうかと思った。この方はリリアの父親だから、いくら決闘は正当な行為とはいえ心配になったのかもしれない。一人息子を決闘せ死なせてしまったら、跡継ぎもいなくなってしまう。

「リリアに頼まれてね……ルーカスを勝たせないために、襲ってきて欲しいとね」

あの卑怯者が!!!!!
いくら勝つ自信がないからって、父親に泣きつくなんて卑怯だろうが!!!!
俺は弟にしておいたのに、お前は父親を送りつけてくるなんて、母親に悪いとは思わないのか!?

「ルーカスの処女を奪ってきて欲しいと頼まれてね……私も、明日の決闘は心配していたんだ。ルーカスが私のものになれば、決闘などしなくて済むだろう?」

俺は伯爵のことをずっと尊敬していた。ライバルであり親友だったリリアのとても格好良い父親を、俺の父親があんな人だったら素敵だとずっと思っていたのだ、伯爵も俺の事を子どもの頃から可愛がってくれていたのに、息子のために妻を平気で裏切るような男だったなんて。

「ルーカス、震えているね……ずっとこの日を夢見てきたよ」

「止めてください!……こんなこと、いくら息子のためだからといって、伯爵夫人に悪いとは思わないんですか!?」

「……何故? リリアの母はとうの昔に死んでいるし、私が結婚するとしたら祝福してくれるだろう」

そういえば、リリアの母親は一度も見た事がなかった。しかしそんなことはそれほど珍しくない。世の中には妻を監禁している夫はたくさんいる。妻を見せたくない夫もたくさんいるので、伯爵夫人を見た事がなくても不思議にも思った事はなかった。

「……で、でも……」

再婚は許可されている。配偶者を失った場合に限るが。ただ、大抵は伴侶をずっと思っていて再婚する人は殆どいない。

俺だって結婚するんだったら、同じ純潔の人が良いし、奥方の後釜に座りたくはない。

だいたい、この人は息子に言われて俺を襲うような人だ。俺を襲った後捨てられるかもしれない。結婚する気もないかもしれないのだ。


「俺は……伯爵となんて、無理です……」

「何故、無理なんだ! 私はそれこそ、君が7歳の頃から知っている。リリアが友達だと連れて来た頃から、将来の花嫁にしようと思ってきたと言うのに! 君だって私のことを嫌いなはずはないだろう! 私が君を大人にしてやったのだから」

そういわれ、思わず顔が赤くなった。そう、精通がなかなか俺に来ず、悩みを伯爵が聞いてくれて、俺は伯爵の手で精通を迎えたのだ。

「あの頃、私はこんな幼い君に触れてしまったのだから、責任を取って結婚すると言ったはずだろう! 君も私の花嫁になると言ったはずなのに!」

それは……いくら最後までしていないとはいえ、伯爵と関係を持ってしまった事に罪悪感を覚え、結婚しようと言う伯爵の言葉に頷いたこともあった。
しかし、俺は跡取りであり、伯爵の花嫁になる事はできない。それに同級生の父親であり、妻もいる。
そんな男と結婚できるはずもない。そう思い、俺は伯爵を避けるようになり、リリアもあの伯爵の息子だと思うと憎らしくなり、ライバルとしてしか見る事ができなくなり、現在に至る。

奥方がいないと知った今も、息子に斡旋されてやってくる父親となんて……としか思えない。

「だって貴方は、息子のほうが大事なんでしょう!? 息子のために俺を襲いに来るなんて! どうせ、処女を奪ったらその辺に捨てるんでしょう!!」

「何を馬鹿なことを! 何故、大事に大事にしてきたルーカスを捨てないといけないんだ! 私はずっと君を花嫁にするのは楽しみに楽しみに待っていたと言うのに。君によそよそしく避けられるようになってどれほど傷ついたか……私の花嫁になる決意がつかないだけかと思っていたが、決闘などと言い出したせいで……リリアに頼まれなくたって、今夜私のものにして、決闘になど行かせないつもりだった」

「伯爵……」

「私の花嫁になるね?」

伯爵が俺の事をずっと好きだったというのは嘘じゃないみたいだ。しかし、だからといって伯爵の妻になるのは違う気がする。
奥さんのいた人と結婚するなんてやはり考えられない。

「あ、あの……俺も、弟をリリアを襲わせるためにやりました。早く助けに行ってあげないと、リリアの処女が危ないですよ……」

「ん?……まあ、構わないだろ。私がルーカスの家に婿入りするんだ。リリアも伴侶を貰って、家を継いでもらわないといけないし、ルーカスの弟ならちょうど良いだろう」

何故、伯爵が俺の家に婿入りをするんだ?
意味が分からない。

「さあ、もうこれ以上お話は必要ないだろう? 早く結ばれよう」

よく分からない。
確かに、家を継ぐはずの俺には妻が必要だ。もし俺が妻になるんだったら、普通は婿は迎えないが、婿が必要だ。
伯爵は自分の家があるのに、何故か婿入りをしてくれるらしいし、一見問題はない。
しかし、俺は明日の決闘に勝つつもりで、弟に襲いに行かせたのに、何故か同じように襲われている。

「やぁっ! 伯爵、止めてください!」

「何年待ったと思うんだ! 十数年ずっとこの日を待ち続けてきたんだぞ! 私はもう限界を超えている……さあ、結ばれよう」

伯爵の物が俺の後ろに宛がわれて、このままでは貫通されてしまう。処女を失ってしまったら最後だ。

「やめてください、俺っ……本当に、無理です!……やっ!」

やだ、やめて欲しい、無理です。そう何度も懇願をしたけど、伯爵は全く聞く耳を持たずに、俺を貫いていく。

「ひっ……だ、だめっ」

「ルーカス……いくら、駄目と言ってももう入って行ってしまっているよ?……ほら、もう全部入ってしまった。もうルーカスは処女ではないのだから、私と結婚するほかない。あまり、グダグダ言うと初夜で孕ませてしまうよ?」

伯爵はもう子どもがいるくらいだ。避妊の仕方くらい分かっているだろう。
子どもを作るほどに魔力の調整が上手くなっていき、避妊ができるようになると聞く。

「やだ、やだっ……赤ちゃん、いやっ」

「私だとて初めてなんだ。ルーカスと結ばれた事が嬉しすぎて、上手く避妊ができないかもしれないからね……まあ、明日結婚をすれば今夜孕んだとしても問題ないだろう?」

なんだか違和感がある言葉を聞いた気がしたが、伯爵が俺を突き上げる痛みに耐えかねてよく考える事ができなかった。

それから何度も伯爵は俺の中で出して、もう純潔とは程遠くなってしまった俺は、全てが終わると伯爵の胸の中で泣いてしまった。


「どうして泣くんだ? そんなに私では嫌だったのか? 夫ではなく妻がどうしても欲しかったのか?」

マーリーンのことは、不思議と何も思い出さなかった。

ただ俺だって結婚には夢があった。
奥さんがいた人とは結婚したくはなかった。お互い初めて同士で結婚をしたかった。

そう言うと、伯爵は物凄く不思議そうな顔をした。

「私は妻がいた覚えはないが?」

「え?……だって伯爵はリリアの父で、亡くなった奥方が」

「リリアは兄夫婦の子だ。幼い頃に、奥方が病気で死に、兄が同時に死ぬ魔法をかけていたせいで、リリアは天涯孤独になってしまって、私が一時的に伯爵の座についてリリアを養子にして育ててきただけだ。だから、私が伯爵の座を退いて、ルーカスの婿になる事に何の問題もないし、正当な跡継ぎはリリアだ。私は、20歳になったばかりの頃に7歳だった君に恋をして以来、ずっと独身を通してきたから、勿論私の初めての相手はルーカス君だよ」

「……そ、そうだったんですか」

「そうだ……昔ちゃんと説明したはずだったが、覚えていなかったかな。私はリリアの伯父だと言ったはずだが」

7歳の頃だったのならたいした興味もなかっただろうし、覚えていないのも不思議じゃない。リリアも伯爵の事を父上と呼んでいたし。

「これで、もう何の問題もないだろう? 私の花嫁になってくれるね?」

「……はい」


翌日、2つの家で盛大な結婚式が行われた。

珍しくお互いの跡取りが、花嫁ではなく婿を迎えることになったが、家柄も釣り合いが取れていて何の問題もなかった。

しかし花嫁同士は親戚になっても……

「ふっ……お前、弟のよくくわえ込めたな。あいつでかいって有名なのに。レイプされていたくせに、感じまくったって? 淫乱花嫁とはお前の事なんだな」

「……っ! お前の弟なんてでかいだけで早すぎて感じる暇もなかったわ! お前こそ、馬並と有名らしい父上のをよく咥え込めたな! 本当に処女だったのか?」

「っ!……流石年の功だけだって伯爵は上手かったからな(年の功といっても童貞です)お前の夫みたいに、射精するだけの能無しとは違ってな」

ライバル関係だった友人同士は義兄弟になってもやはりライバルだった。初めは、リリアもお前の弟なんてといっていたくせに、弟を俺が貶すと今度は擁護にまわった。

「若いから回復も早いし、サイズも大きいし、情熱的に求めてくるし!」

「伯爵だって凄く大きいし、昨晩だって10回も求めてきたし! 弟にサイズが負けているとは思えない!」

今度は出世ではなく夫のナニの価値でも、競いだした。

「じゃあ、見比べれば分かるだろう! 伯爵、パンツ脱いで!」
「ルバードも、パンツ下げろ!」

ろくでもない夫の見得比べを始めた。しかし、夫たちはパンツは脱がなかったが、長年惚れぬいた相手と結婚できて幸せそうだった。

しかし、そんなライバルたちの争いに巻き込まれた一人の青年は……

「来ない……」

決闘の立会いに来ていたが、中止の連絡もなく、まさか夫になるかもしれなかった男達が花嫁になっていると知る由もなく、待ちぼうけを食らっていた。

END



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