ユーリから開放されたいと思ったことは何度もあった。

アンジェを妊娠する前、俺はユーリに何度も陵辱され、ユーリを嫌っていたし酷く憎んでもいた。何時こんな日が終わりを告げてくれるのだろうかと、毎日ただユーリが俺の事に飽きてくれないか、諦めてくれないかと祈っていて、妊娠しない事を心配していた日々だった。

けれどユーリに洗脳されてアンジェを産んでしまい、とうに結婚してしまっていた事実に正気になってからどうしようもなくなったことに、俺は何らかの対処をしたわけではない。

この国では結婚してしまったら最後だ。俺は子どもも産んでしまっていたし、どうやっても離婚のしようはない。
それからはユーリから開放されたいと考えた事は一度もなかった。

ただ他の夫婦を見て、他の旦那とユーリを比べて、俺の旦那はと落ち込むくらいだった。

ユーリを愛してしまったから開放を考えない、と、そんな甘い話なんかじゃない。エミリオなんかはかなり旦那に絆されてきているように見えるが、俺はそうじゃない。確かにもう三人も子どもを産んでしまっていた、嫌いならどうしてそんな夫の子を三人も産めるのかと疑問に思われるかもしれない。

しかし、俺は仕方がないとしか答えようがない。

あの男と結婚して、離婚する事もできない、拒む事もできない。ユーリは強姦魔だから、俺が嫌がって抵抗しても何の良心の呵責もなく俺を強姦するだろう。だから無駄な抵抗をしていないだけだ。その結果妊娠してしまう。ただそれだけのことだ。

開放を望まないのも、無駄な事を考えないだけだ。

結局俺が弱く、ユーリという捕食者の言うなりになってしまったのが全ての原因だし、この男の言うようにこの男の妻になった所で開放されるはずがない。そんなことユーリが許すはずもない。

まあ、提案に乗ってみるとしよう。
確実にこの国から出る前に捕まるだろう。いや、この城から出る前にだ。そもそも今も見張られているかもしれない。

ユーリから開放されるためには、ユーリよりも力の強い男の保護をしてもらう必要がある。そんな男は多分世界中を探してもいないだろう。

それにもしそんな男がいたとしても、結局俺は男に隷属して生きていくことになる。

なら逃げ出したとして何の意味がある?

俺はもうユーリと結婚してしまった事で諦めがついている。これから先もずっとユーリが夫だろうし、これから先もユーリの子を産むのだろう。

それに逃げ出した男がユーリよりも格下の馬鹿では、どうしようもない。

どう考えてもこの男王族のくせに余りにも何も考えていない。俺の一目見てシリウス王子の子孫だと勝手に判断し、国につれて帰りたいと言い出すアホなのだ。

ほんの少しでも、調査をしてみれば自分がとんでもない提案をしている事に気がついただろうに。国王の弟の妻に手を出そうとしている。国を滅ぼされる理由が充分すぎるほどある。過去もっとくだらない理由で国を滅ぼされた事があるのだ。この国の夫にしてみれば、正当すぎる理由となってしまう。

「開放ね……されたいと思ったこともないし、夫よりも数段どころか比べる価値もないほどの男を夫にしようとは思わない」

「なっ!」

「だって、こんな申し出をするなら事前にやるべき事があるあろう? 国賓だろうが、この国では何の価値もない。前にもいたんだよ。俺に手を出そうとして夫に殺された男……あの男も国では相当な地位にあったようだが、殺されても何の文句も来なかった。他人の妻にこの国で手を出そうとする事は、どんな地位にある男でも許されない。それが……」

公爵家の男の妻なら、もっと言うまでもないと続けようとして、言い過ぎたことに気がついた。

男は顔を赤くし憤怒の表情になっていた。

一応忠告のつもりだったのだが。これでも親切心からだったんだけどな。


「確かにこの国では妻を奪おうとする男には厳しいかもしれないが、奪われた事に気がつかなければ問題ないだろう? このまま私の国へ来てもらおう」

ああ、馬鹿だ。気がつかれないはずないのに。

男の手が俺に伸びてくる。今の俺は魔力はないが、これでも鍛えた軍人だ。男の腹に向って強烈な足蹴りをくらわせ、死んでもおかしくない攻撃を続けたが、生憎男はそれなりに魔力があった様でダメージはあったようだが、治癒魔法で回復させると俺に向って魔法を放ってきた。
魔力がある状態なら絶対に負けることはないだろうが、今は魔力が使えない。

だが、特に問題視はしていなかった。ここは王城だ。王城で他国の男が魔法を使うという事は。


「お母さま!」

「クライスまま!」

「副隊長!」

「クライス様!」

魔法に長けた騎士や息子が駆けつけるに決まっている。

「よくもお母さまに!」

「アンジェよしなさい。お前の魔力が高まりすぎている。まだ魔法を安定して使えないんだから、使えない魔法を無理に使えばこの男を殺すだけじゃすまなくなるぞ」

「お父さま……だって」

「この男はお父様が責任を持って始末をするから、安心しなさい」

息子とルカが一番に駆けつけたのだが(一番近くにいたため)、母親が攻撃されようとしているのに気がつき、怒りが爆発しかねない様子で魔力が安定していない。滅多に怒らない子なので、怒ることがあるのだと、俺のほうがびっくりしていた。

「ユーリ、遅い」

駆けつけたとはいえ、この様子だときっとずっと監視されていたんだろうなと思う。なのに今現れたのかと、どうせ監視をしているのならもっと早く来るべきだろうと、つい悪態をついてしまった。

「クライス、ごめんね。だって、見ていたら俺の事を好きだから、この男の妻になんかなるはずがないって言ってくれないかなと、期待していたんだ。だからぎりぎり登場になっちゃったけど、許してくれるかな?」

馬鹿馬鹿しい、お前の事が好きだからなんて正気の俺がいうわけない、と言おうと思ったが、たくさんの騎士がまわりにいて息子や甥が目の前にいたら、仮面夫婦の俺が言えるはずもない。特にアンジェには俺たち両親は凄く愛し合っていると思われているからな。

「夫なら、妻が困っているときにはもっと早く登場してくれ」

「畏まりました、奥様……さて、この馬鹿な男をどうしようか。困ったな、これ以上領地が増えたら管理が大変なんだけどな……いっそ、滅ぼそうか。こんな馬鹿な男が王族の国なんて編入してもしょうがないし」

「おい!」

この男はどう始末されても、俺も文句は言わない。一国の王族としてやってはならないことをしたからだ。例え、俺が今魔力がないせいでたいした地位にいるとは思っていなかっただろうとしても、実際には俺は国王の弟の妻であり、次期公爵夫人なのである。知らないかったから許してくださいと言うレベルで済む問題じゃない。

だが国民には罪はないだろう。せいぜい連座して罰せられるとしても王族や親族までに抑えないと後味が悪すぎる。

余りにも莫大な魔力を持つ男達に囲まれ、そして一番魔力の高い男が俺の夫だということを理解したのか、男は最早蒼白を通り越して死んだも同然のような肌色をしていた。命乞いをする言葉も発せられないほど怯えきっている。

「世の中には手を出してはいけない領域があるのを……死ぬ前に理解したとしてもしょうがないか。俺の妻に手を出そうとする事がどれほどの罪なのか、その身をもって他国に通告とさせてやろう。俺のやさしい妻が国民にまで手を出したら駄目だと言うので、四人目の息子にあげる領地にしようかな? ねえ、クライス、それで良い?」

四人目は当然まだ生まれていない。三人目のユリアが生まれたばかりなのだ。

ユーリが言いたいのは、俺の望むようにごく少数の犠牲を今回の件をおさめてあげるから、四人目を作ろうね。と言いたいのだろう。

どうせこの件がなくなってそういう運命なのだから、否定するべき事でも何でもない。

本当はこの男も馬鹿だが、死ぬほどのことでもないとも思っているのだが、ユーリがこのまま許すはずもないだろうし、国の面子としても許してはいけない事だとわかっているので、男の命乞いまではしない。

「ああ、それで構わない」

「じゃあ、早くこの件を始末して、四人目を作ろうか?」


********

「っ……ユーリ激しいっ」

産後は優しい愛撫ばかりだったのに、今日のユーリは俺を奪いつくすようで、激しくてついていけない。

「クライス……クライスがこんなに綺麗だからあんな男に目をつけられるんだよね? 俺の奥さんがこんなに綺麗で誇らしいけど、他の男にまでその魅力は知られる必要ないのにって思うよ」

「そんなにっ! 腹が立つのなら、あの男に声をかけられた時点で妨害していれば良かっただろ!」

結局、ユーリはあの国をサクッと併合してしまい、一領地になってしまった。そして四人目の領地なり持参金にしてあげようという名目の元、子作りをしようと現在に至っている。ちなみに男がどんな死に方をしたのか俺は知りたくもなかったので、言わないでくれといってある。

「クライスがどう答えるか興味があったんだよ。まさか、あの男について行こうとするんじゃないかって、そこまで俺嫌われていたらどうしようとかね……俺の方が良いって言ってくれるかなって期待もあったんだ」

「……息子たち三人も置いて、逃げるわけにも行かないだろう」

「そうだね……やっぱり、たくさん産ませて良かったよ」

もう3回終わったはずなのに、嫌らしい手つきで触れてきて、思わず睨んでしまう。俺は一体何人産まされるのだろうかと。

「それに……これでも、俺は夫は一生に一人だと思っている。お前みたいな非道な男でもな……」

これで、物凄く愛してしまった男が出来てしまったら……少しは悩むかもしれないが、それでも俺は子ども達を置いて逃げるような事はできないだろう。勿論逃げたとしてもすぐに捕まるだろうし、子どもを産むということは、一生の責任を持つということだ。特にジュリスとユリアは一応夫婦になってから作った子なので、相応の責任がある。

だから開放されようとも思わないし、逃げようとも思わない。

「とても素敵な言葉を聞いたよ、クライス。クライスにとって俺だけが一生の伴侶であるんだね」

「……ああ」

「一緒に死んでくれる?……クライスと死ぬ時まで一緒にいたい」

この国では相思相愛の夫婦でかなりの魔力を持つ者はある魔法がかけられている。それは死ぬときまでも一緒にできる魔法だ。伴侶のどちらかが死ぬときは、同じ時に同じ場所で死ねる。ただこれは強制は出来ず、お互い合意の上ではないとできないので、相思相愛の夫婦に限って同時に死ねる魔法だ。
きっと義父と母はその魔法をかけてあるだろう。

「勘弁してくれ……死ぬときくらいは一人で死にたい」

「大丈夫だよ…魔法なんかかけなくても、一人で死なせたりしないから。絶対に一緒に死ぬようにするからね」

俺が先に死ぬのだったら後を追えるだろうが、俺が残ったらどうやって一緒に死ぬ気なんだ? 俺を何らかの方法で殺すのか?

この一族は何でもできすぎて、そんなことできるはずないと思うことでも平気でできるだろう。そんな独自魔法があるのあるのかもしれない。

逃げなかった事は後悔していない。

ユーリとあの男を比べれば、何もかも下である男の物になるのもプライドが許さない。それだったらユーリの妻のままで結構だ。

そう思ってはいるが……やはり、嫌な一族で、その中でも群を抜いて陰険で嫉妬深い夫を……俺は何度目になるか分からないまま、俺の夫って一体……と思った。




*クライス様がどういう気持ちで夫婦をしているのか一度きちんと書きたくて、このお話を書きました★



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