俺は思うね。
義父はやり方を間違えたのだと。

彼らはクライスを溺愛していた。まあ、気持ちは分からないでもない。クライスは国で一番美しいし、賢く、魔力も高い。
そんな息子が生まれれば、誇りに思うのは当然だろうし、俺も感謝はしている。クライスを産んでくれてありがとう、と。

クライスを跡取りにしたいがため、嫡男であり正式な跡継ぎであるマリウスを廃嫡したがっていた。しかしクライスの手前何の理由もなく廃嫡にする事ができない。廃嫡にするだけの理由がないからだ。
次男が余りにも優秀なために、跡取りとして特に問題のないマリウスを放逐しますとは、世間的に見てもまずいし、何よりもクライスに軽蔑される。それを恐れて、裏で虐待し、結婚をさせないことで、クライスを跡取りにさせようとしていた。

でも、俺からしてみれば、せっかく嫁にと希望してくる家があったのだから、マリウスをロベルトの家に嫁に出せば今の問題はなくなったはずなのに、馬鹿だなと思う。

クライスも兄が熱愛の末嫁いだのだったら、祝福し自分が跡を継ぐことに何の疑問も感じなかったはずだろう。そうすれば今の禍根もなかったはずなのに、マリウスの何がそこまで憎いのか、結婚もさせず、ただ飼っているだけ。
その状況が今の、跡取り不在を作り出してしまったというのに。
まあ、どのみちクライスは俺と結婚する運命にあったのだから、跡継ぎ不在になるのは確定していたが、それでも円満にどちらかから養子を取ることもできただろう。

ただ結果論だが、両方嫁に出した場合、どうしても長子、つまりマリウスの子が優先されてしまう。そういう事態も考えて侯爵はマリウスに結婚をさせるつもりはなかったのだろうが。


侯爵は未だに俺の息子たち三人の誰かを跡継ぎにほしいと懇願してくるが、王家の命令でマリウスの子孫しか許可が出ないことを理由に突っぱねている。
クライスがそう望めば、一人くらい跡継ぎにと考えないでもないけれど。クライスは実家の兄に対する仕打ちに怒っているため、当分養子にと考えることはないだろう。

俺自身はあんな家どうなった所で関係はないが、一応クライスの実家だ。クライスが後で気に病まなければいいとは思っている。

俺はクライスに愛されていないことは分かっているから、俺自身がクライスの負担になっている事も理解している。だから、それ以外のことは、できるだけ煩わせたくはない。


********

今日は隊長の即位式だ。さっそく隊長が色々やらかしていてエルウィンを怒らせていた。
何故、ああも簡単に怒らせる事ができるんだろうか。ある意味、才能だと思う。

まあ、めでたい日だ。だから目を瞑ってやってくれと願うが、エルウィンにとっては隊長のやる事なす事がエルウィンに恥をかかせて許せないのだろう。

俺は隊長の義理の兄弟になるし、夫の兄の即位式には当然出席する必要があるので、お茶会以外では最近滅多に登城しない王城に来ていた。
次男と三男はまだ小さいので城で留守番をさせている。アンジェだけ連れて来たが、お利口にしていた。本当にユーリの子とは思えないいい子だ。このままずっと良い子にしていて欲しい。公爵家の血を目覚めさせないようにしておきたい。

隊長は無事に即位し、国王となったがあとでエルウィンとどうなるかは……不明だ。

俺は関わりたくないので、エルウィンたちの側には行かず、城の中庭でアンジェとルカが遊ぶのを見ていた。
見守っているというわけではなく、ただまだ小さい子たちなので念のため見張っていただけだ。魔力だけを言うのなら、アンジェやルカのほうが明らかに俺より高いし、まだユリアを産んでそれほど日が経っていないので、まだ魔力が回復してはいない俺はあの二人が何かしでかしたら止めようはない。

今回は中々魔力が戻らない。通常1〜3ヶ月ほどで魔力は戻るのだが、6ヶ月経ってもまだだ。ただ、仕方がない面もある。三人目ということと、夫が通常では有り得ないほどの魔力の持ち主で、お腹の中で育てた息子も同様では、普通と比べても仕方がないだろう。

ただ今回はユーリ依存期間が前回よりも短く終わったので、そのことのほうが安堵していた。段々長くなると思っていたので次の一年くらい戻れないのだろうと覚悟はしていたが、半年弱で済んだことは目出度かった。

それにしてもこの二人本当に仲が良いと思う。アンジェがルカのことを好きなのなら応援してあげたいが、恋愛感情を今の時点で持っているとは思えず、まあ幼いから仕方がないが、大人になった時にこの二人では子どもができないと思うと、苦労するだろうからあまり応援したくない事も確かだ。
別に子どもができないからと差別するつもりはない。けれど、ルカは王太子で国王になるのだから、もし子どもができなければアンジェも辛い目に会うだろう。
エルウィンは公爵家の跡取りではないアンジェ以外の子をルカの婚約者にと言ったが、ジュリスとユリアもルカと子どもができるとは思えないので、却下しておいた。

俺はユーリを愛していないが、子どもたちは愛している。だから、できればアンジェも子どもができる相手と結婚して子どもがいる喜びを感じて欲しいなとは思う。

普段ならほとんど外国人などこの城にいないが、今日は即位式のためたくさんの国賓が招かれている。
普段は余り関わらないようにしている諸国も、即位式では招かれたらいかないわけにはいかないのだろう。

夜の舞踏会まで時間があるからか、美しいので有名なバラ園を見に来ている国賓も多く、ルカやアンジェの子どもながら魔力の多さに驚いているようだった。

「失礼」

「……何でしょうか?」

国賓だと思われる北方系の顔立ちをした男に声をかけられた。こんなふうに声を簡単にかけてくるのなら、俺の身分を知ってはいないだろう。誘拐公爵と名高い、いくつもの国を併合しまくった悪名高い次期公爵の妻に、身分を知っていれば声をかけてくるはずはない。

「即位式の時から見ていました。貴方のその銀髪は、我々と同じ血を引いているように見えまして」

確かにこの国でスタンダードな髪色と言えば、金髪か茶髪だ。俺の銀髪はかなり珍しいだろう。俺も自分と兄マリウスくらいしか銀髪の髪は見た事がない。あとアンジェも兄の子もそうだ。ようするにうちの家系でしか見た事がない。

ただ、誘拐しまくっている貴族階級では色んな髪色を持っているので、スタンダードから離れている人々も多い。
隊長やユーリは色んな血を入れてはいるが、公爵家の血が濃いのだろう。金髪や茶系の髪ばかりだ。

「私達のいなくなったシリウス王子をご存知ありませんか? 貴方のように美しい銀髪をしていて、貴方に良く似た絶世の美貌を持っていた王子でした。私達の国の最後の王子でしたが、ある日突然いなくなって、それ以来姿を見ないまま100年が経ってしまいました。今では受け継がれた映像しか残っておりません」

それは……もう、先祖の誰かが誘拐してきたのだろう。100年前だと、何代前の先祖になるのだろうか。父方か母方のどちらかにいたのかもしれない。

「詳しいことは分かりませんが、先祖の誰かが花嫁に迎えたのかもしれませんね」

あえて誘拐とは言わず、花嫁として迎えたと柔らかい表現を使ってみた。

「貴方は多分シリウス王子の子孫なのだと思います」

「まあ、この国では先祖の誰かがどこかの国の王族だったと言う話は珍しくもなんともないので、そうかもしれませんね」

いなくなった王子の100年後の子孫が俺だったとして、何が言いたいんだ?

「シリウス王子は王家最後の直系でした。シリウス王子がいなくなり、王座を巡っての内乱が起きました。傍系の王族達が、血で血を洗う争いを続けたまま、現在に至ります」

それはそれで可哀想だが、俺がそのシリウス王子の子孫だったからといって、何かしてやれる事もない。知らない国だしな。

「王座は空欄のままです。ですが、シリウス王子の直系の子孫がいれば、話は変わってきます」

「まさか、俺に王になれと言うのか? 馬鹿馬鹿しい……」

「まさか。いくらなんでも外国育ちの貴方に、王になれは無理です。流石に国民感情がついてこないでしょうし、他の王族達も反対します」

「なら、なんだというだ」

段々敬語を使うのも面倒になってきたな。

「王妃として迎い入れたいのです。私も傍系王族の中で最も力を持っている一族です。シリウス王子の直系を花嫁に連れてきたのなら、反対勢力を押さえ込む事も可能でしょうから」

馬鹿だな。きっと思いつきで言っている。本当にそうしたいんだったらせめて俺が本当にそのシリウス王子の血を引いているか調べてからにするべきだし、そもそも俺と言う人間が誰かを知ってから言うべきだろう。この国の怖さを知らないアホなのか?

「王にというのなら、まだしも、王妃か?」

思わず嘲笑してしまった。ユーリに殺されるぞ。

「失礼ですが、貴方からは魔力を感じない。魔力の高かったシリウス王子の子孫としては残念ですが、とても国王としての器量はないでしょう」

たぶん俺はそのシリウス王子よりも魔力は高いと思うけどな。

「あいにく俺は出産後で魔力が戻っていないだけだ。お前の王妃だなんて、戯言を言った事がばれたら間違いなくお前は俺の夫に殺されるだろうから、さっさと国へ戻った方が良いと忠告しておく」

「夫? 結婚をしているんですか?!」

「そうだ。相当陰険で嫉妬深く、狭量で怒らすと何をしでかすか分からんからな」

まあ、これは俺の夫だけに限った事ではないが、この国の魔力の高い夫たちは妻に関わる事となると何をしでかすか分からない所がある。その中で最も魔力の高いユーリなら、妻になれといった男に何をしでかすか俺でも想像するのは難しい。

「どうしてもというのなら、俺の息子たちの誰かが望めば……その国の王になることなら可能かもしれないがな。まあ、不可能か」

こんな不愉快な事をしでかした男が王族として君臨する国に、息子を国王として派遣する事など、許すわけはないだろうし。

「どう聞いても、貴方はその男を愛しているようには感じないのだが。陰険で嫉妬深い男を愛しているのですか? そうではないのなら、わが国に来れば、解放されるはず。私の妻となって、一からやり直してください」

開放される?

ユーリから?



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