エピローグ




「ギルフォード、君にだけ話しておくよ」

義母が突然言い出したのは、わが子ギルバードが生まれてしばらく経った頃だった。

「エミリオは俺達の子どもじゃないんだ……実際には孫、だ……俺達の長男エミールと弟のセシルの間に生まれた、公表できない子だった」

エミリオとこの義理の母はとても良く似ている。容姿だけではなく、竹を割ったような性格すら良く似ていた。
誰が見ても親子で、関係をいぶかしむ人など存在しないだろう。

「それをエミリオは知っているんですか?」

僕の実家、リエラ王家だが、かなり複雑な家族だった。僕自身公表できない生まれであったし、両親も同じように隠されていた。
だからだろうか。エミリオの出生の秘密もすんなりと受け止める事ができたし、勿論なんとも思う事はない。近親相姦の果てに生まれた子だからと、僕の反応を少し心配そうに見ていた義母だったが、僕の気持ちには変わりありませんと言うと、安心したようだ。

「君は、とてもエミリオを愛していてくれるから言っても大丈夫だと思った」

「ええ、そんなことで僕のエミリオの愛は変わりません」

僕の両親はリエラの人間だが、僕は生まれも育ちもこの国だった。
縁があることに育った所もエミリオの領地の一つで、遊学のため訪れた際にとても懐かしさを感じた。たぶん、この国が僕の生きる土地だったのだろう。

エミリオのご両親は僕がエミリオに求婚していることを、喜んではいなかった。何度も断わられたし。エミリオを妊娠させて婿としてこの家に来たとき、相当嫌な顔をされた事を覚えている。
たぶん、自国の貴族の子息を嫁にしたかったんだろう。同じ風習で、そして純潔の人間が当然という結婚で、僕は違う。僕も後悔しているんだ。エミリオと出会えることを知っていたら、僕は絶対に純潔を守っていた。けど、ちゃんと避妊具をしていたし、生でしたのはエミリオが初めてだから、僕は純潔だったと思い込むようにしている。

隣国の王子など全く歓迎していないのは分かっていたが、それでも一緒に暮らしていくうちに、僕のエミリオへの気持ちを認めてくれるようになり、こうして秘密を明かしてくれるほど信頼してもらえるようになった。

「エミリオは、知らないんですよね?」

「ああ、知っているのは俺と夫とセシルに……エミールは知っているかは分からない。セシルが話したかによるが、3〜4人しか知らない真実だ。エミリオはあっけらかんとしている所もあるし、性格も生真面目ながら適当なことも多い性格をしている……けれど人一倍常識的なところがあるし、きっと知ったら苦しむだろう。だから一生知らせるつもりはない。例え、この考えが間違っているとしても」

「いいえ、たぶんそれで良いと思いますよ。真実がすべてじゃない」

エミリオはとても真面目で、責任感のある性格をしている。
もし自分がこの両親の子どもでないと知ったら、実は兄と叔父との間に生まれた禁断の子だと知ったら、きっと悩むだろうし、実の両親を恨むかもしれない。

だから知らないほうが幸せだろう。

「ギルフォード、君に話したのは……俺たちに何かあればエミリオを守る事ができなくなる。それでもなくても、エミリオは孫なんだし、俺たちのほうが早く死ぬ。もし何かあれば、俺たち以外でエミリオを命がけで守ってくれるのは、セシルとエミールだ。だから君には知っておいて欲しかった」

「分かりました……何かあれば僕がエミリオを支え、守りますが。それでも無理なときはその二人に頼るようにします。勿論、秘密は絶対に守ります」

婿として、エミリオの夫として義母が信頼してくれて秘密を明かしてくれたんだ。一生秘密は守るし、エミリオのことも守る。


「エミリオ、僕エミリオのお兄さんのこと家出したってことくらいしか知らなかったけど、どんな人なの?」

「なんだ、突然。そうだな、お前も婿として知っているべきか……一言で言えばただの変態だ。叔父に懸想して、叔父と駆け落ちして両親の怒りを食らったアホ兄だ」

余りにも外聞が悪いので、身分違いの恋をして失踪したと周辺には言っているそうだ。

エミリオは兄のことを当然父とは思っておらず、ただのアホの変態としか思っていないようだ。なんか、幾分お兄さんが可哀想ではあるような。

「僕、お兄さんたちに挨拶もしていないんだけど」

「……いる所は知っているが、私の婿など知らなくても良いと思うが?」

うん、やっぱりちょっと可哀想だね。実の息子にこんなふうにしか思われていないなんて。

「でも、一度ご挨拶もしたいし、ギルバードを見せてあげたいと思うんだけど、駄目かな?」

「まあ、そうしたいんだったら紹介するが」

ギルバードがハイハイできるようになった日、エミリオの実の両親を訪ねることになった。

「エミリオっ! 会いに来てくれたの?」

エミリオには全く似ていないけれど、とても穏やかそうな美人の男性がとても嬉しそうに駆け寄ってきた。これがエミリオの実母なのか。一般的には凄い美人なのだろうが、僕はやはりエミリオのような男前な美形が好みだ。似なくて良かった。

「はい、セシルおじさん。結婚して子どもも生まれたので一度ご挨拶にと思いまして……夫のギルフォードと息子のギルバードです」

「凄く嬉しいよ! エミリオのお婿さんと子どもに会えるなんて! 可愛いね……パパにそっくりだ」

え?
泣いちゃっているよ……それはまあ、自分の子どもが結婚して孫を見れたら、感動してしまうかもしれないけど。でも、エミリオには内緒なんだから泣いたら駄目じゃないのかな。

「セシル、泣くなよ」

「そうですよ、おじさん。おじさんは昔から甥に弱いんですから」

ただ、エミリオもエミリオの兄もおかしいとは思っていないらしい。

「二人とも、子どもの頃の婚約を守って、結婚したんだね! とっても素敵な夫婦だよ」

「わああああああああ、おじさんそれ駄目!!!!!」

「え? どういうことですか?」

「え? だって君、ギルフォードってことはギルちゃんだろう? 三歳の頃エミリオと結婚の約束をした」

「エミリオ、僕たち婚約していたの!?」

「私は何も知らない」

僕が育った土地はエミリオの領地だ。昔僕はリオ君という子と結婚の約束をしたと母が言っていた。それが僕とエミリオだったのなら!

「え? 覚えていないの? 小さかったからしょうがないかもね。でも覚えていなくても惹かれあって結婚したのなら、結ばれる運命だったんだね。エミールがね、当時の事件の保存のため、あの当時の映像を残しているんだ。一緒に見よう?」

エミリオは頭を抱えながら、僕は喜びに満ちながらその映像を見た。

確かに僕がエミリオにプロポーズをして、エミリオが受けてくれている!

「エミリオ、僕達は運命の婚約者だったんだね!!!!すごいよ!」

「……ソウカモナ」

小さいエミリオは物凄くかわいい!
この映像を複製してもらって僕の宝物にする事にした。僕達は運命の恋人だったんだ。

映像を見ている間、セシルさんは本当に嬉しそうにギルバードを抱いていた。名乗れないけれど祖母だから、この一瞬がとても大切な宝物なのだろう。

ちなみにこの映像を見ながら、エミリオの父に謝罪をされてしまった。
映像から行くと、エミリオは僕が何かしらの処罰を得ないように、内緒で兄に秘密を打ち明け何とかしようとしてくれていた。なんて優しいんだ、エミリオは。
しかしエミールさんも軍人だ。勝手な判断で全て秘密裏に処理をするわけにはいかない。そういうわけで僕と言う存在が上に報告され、要注意人物として監視される事になったらしい。
母上は隣国リエラから密かに探し人としてこの国にも協力要請が入っており、息子の僕がとても良く似ているこということで足がついてリエラに連れ戻されてしまったという次第だったらしい。
魔力阻害症なんて有害な能力を持つ僕がいては鬱陶しかったらしい。実際エミリオの領地で騒ぎを起こしてしまったし、隣国に追いやろうということになってもおかしくないだろう。一応僕は人間兵器にもなれるけど、戦争のない時は無用の長物の能力でしかないし、能力が安定しない間ははっきり言って邪魔な存在でしかないし、いないほうが良いと判断されても仕方がないとは思う。実際僕がリエラに組して戦争を越したとしても、隊長級の能力者がいれば無効化能力などさして役に立たないからね。敵に回したところでたいした問題でもないんだろう。

でも、今ではそれで良かったと思う。僕がただのエミリオの領民で魔力もない平民では、エミリオと結婚したくても無理だっただろう。リエラの王子と言う肩書きがあったからこそ、隊長が僕を認めてエミリオを託してくれたのだから、離れ離れにされた時間も、今のエミリオとの生活のためなら必要だったと思うしかない。


「兄上、私がギルフォードを婿に迎えて、家を継ぐ形になりましたが本当に良いんですか? 今からでも帰ってきて兄上が跡を継いで、エルシアがその次に継ぐのが本当は順当なんですが」

「エミリオ、俺たちは何の責任も取らず無責任に飛び出したんだ。もう家を継ぐ資格なんかないし、お前が正当な後継者だ」

エミールさんの長男はエミリオだから、確かに正当な後継者はこの二人の子になっているエルシアという子ではなくエミリオだろう。
二人が家に戻ってしまえばエミリオが跡を継ぐ資格がなくなってしまう。


「父上も母上も頑固ですよね。いい加減許してあげればいいのに」

それはね、エミリオ、君のためを思って許せないんだと思うよ。
この二人を許してしまったら、君が本来受け取るべきだった実の両親の愛を受け取れなかったことは、一体なんだったのかと言う事になる。
エミリオの相続権もそうだし、君が不憫できっとご両親はこの二人を許してはいけないんだと頑なに思っているんじゃないのかな。

「良いんだよ……私達はね、それだけのことをしたんだ。許されてはいけないんだと思っている……ただね、エミリオ、君が幸せでいてくれたら、それだけで良いんだ」

「幸せですか……まあ、強引な夫を迎えてしまいましたが、可愛い息子にも恵まれて、それなりに幸せですよ」

僕も幸せだよ! エミリオ!

だから心配しないで下さいね、義母様、義父様。あなた達の代わりに、大事なエミリオを僕が幸せにしますから。





END

やっと終わりました。最後はギルたんにしめてもらいました。
一応ハッピーエンドだと思っております。

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