エミールは仕事を続けるつもりといっていたが、廃嫡され、私と駆け落ちをした事がばれたら流石に仕事を続けるのも難しいと思っていた。
しかし兄たちはそこまでエミールを追い詰めるつもりはなかったのか、周囲にはまだばれてはいないようだった。
私達のしている事はばれればかなりの醜聞だ。
甥と叔父という関係以上に、結婚もしていないのに同棲をし、なおかつ性的関係を持ち続けているのは、常識から言えば有り得ないことだからだ。

だから、沈黙を守っている兄夫婦は、最後の優しさをエミールに与えているのではないかと思っている。

しかし常識から有り得ない行動をより取ろうとしているのがエミールだった。

「セシル! セシルに似た子ならきっと可愛いよっ」

「いやっ……出さないでっ」

「どうしてそんなに嫌がるんだ!? セシルに俺の子を孕んで欲しい」

無理強いしないと約束したけれども、私からついて来てしまったこと。そして体を許してしまった事で、エミールにとってはもうなんでも合意と判断したらしく、どんなに私が嫌がっても抱くのを止めてくれなかった。

「どうしてそんなに嫌がるんだ? 俺に抱かれるのは良くても、子どもは駄目ってどうしてなんだ?」

「一度、君に許してしまったけれど……君に抱かれるという事は、身篭る可能性もあるんだ……エミール、君の側にいるよ? でも、そうなる可能性がある以上、君に抱かれるのは、嫌なんだ……」

エミールにしてみればこれ以上ない拒絶かもしれない。一緒にいるが性的関係は持ちたくないという言い分は到底納得できないだろう。

「だからどうして嫌なんだ? 俺の子どもを産むのはそんなに嫌なのか?」

「私達は結婚していないんだよ? この状態で子どもを産んだら、私生児になってしまう。分かるだろう? どうするんだい? 子どもを私生児として産んで、私達は処刑になるの? 私達は高位貴族だから許されたとしても子どもは取り上げられて、一生会えないんだよ、きっと」

これ以上そんな不憫な子どもを産めるはずがない。
兄達も今度はきっと呆れて、エミリオの時のように引き取ってもらう事なんか頼めない。

「君のしようとしていることは、そんな無責任な事なんだ……そんな可哀想な子どもを産んじゃいけない」

「子どもさえできれば結婚を許してくれるかもしれないだろ?」

「っ!……そんな子どもを道具にするようなことできない!」

君は少しは大人になったかと思ったが根本的なところは何も変わっていない。凄く勝手だ。自分の欲望のためなら平気で人の気持ちを傷つけようとする。

「これ以上強制するんだったら、私はもう君とは一緒にいられないよ……」

「セシル、私生児になってしまうことだけが原因なのか? なら」

それだけじゃない。私はもう子どもを産みたくないんだ。もう二度と私なんかが産んではいけないと思っている。理由は言えない。エミールは知らなくてもいいことだからだ。14歳の彼に責任を押し付ける事なんかはできない。

「どうなろうと絶対に私は二度と子どもを産まないっ!」

珍しく私が話し合う余地もないほどに怒っていたからか、エミールは困惑しながら仕事に向って3日ほど戻ってこなかった。私は魔力を封じられたままだし、強力な結界が張ってあり、家から出る事はなくただエミールの帰りを待っていた。

あれほど私に執着していたと言うのに、3日も戻ってこないという事は、頑なな私に飽きたのだろうか。

ならばここから開放して欲しい。

エミールは3日経って戻ってきたが、深刻な顔をして黙っていた。

「エミール……?」

「エミリオに会いに行こう」

「え? どうして?」

「あの子が……俺たちの子なんだろう?」

エミールに驚かされる事は何度もあったが、これほど死にたいほど驚かされた事は初めてだった。

「セシルは、二度と子どもをうまないと言った。興奮して覚えていないかもしれないが、一度は子どもを産んだということを白状したも同然だ……で、俺なりに考えてみた」

「エ、エミール……」

「あの子は……セシルの特別だってことは分かっていた。大切な宝物でも見るかのような目で見ていた。俺が嫉妬してしまうほどに……俺の代わりならエミリオでも良いのかと、弟なのに馬鹿らしくエミリオに嫉妬していたんだ」

エミールは頭が良い。ほんの少しの私の失言で、何時も正解にたどり着いてしまう。

「それに、ずっと弟が欲しかったけど、できなかった。けど、凄くおかしなタイミングでエミリオは現れたんだ。ずっと母上は姿を消していて、出産のために田舎にこもっていると父上は言っていたけど、俺が訪ねていけないはずはないのに、どこにいるのかも教えてくれなかった。で、大きな腹の母上を一度も見ずに弟だけが現れた。まあ、母上に似ていたから不思議に思う事はなかったけど、今思い返しているとおかしかった」

「君は……知るべきじゃないと思っていた」

「俺とセシルのことだ。知らないじゃ済まない事だろう……って、俺が悪いんだよな……セシルが子どもを欲しがらないのも当たり前だよな……ごめん……セシルにこんな酷いことをさせて……辛かったよな」

エミールは跪いて私に謝った。

「ごめん……本当は、エミリオはセシルが育てたかったんだよな。手放したくなんかなかったんだよな……俺が勝手だったから、セシルが子どもを育てられなくて、何て謝ったら良いか分からない」

「良いんだ……私は、育てることなんかできなかっただろうし……君も父親なんかには幼くてなれなかった。どうしようもなかったんだ」

エミールのいう通り、私はエミリオを育てたかった。母親としてあの子に接したかった。兄に託す事がどんなにあの子のためだと言い聞かせても、年に数回叔父としてしか会えない自分を恥じていた。
あの子を見る度に、私が母だと名乗りたかった。あの子の大きくなる姿を毎日見つめていたかった。

「エミリオを連れて来よう」

「え? 何を言ってっ!」

「あれ? おじさんにお兄ちゃん?」

エミールに急に転移され、目の前にエミリオがいた。小学校の帰りなのか友達と仲良く手を繋いでいた。

「エミリオ、大事な話があるんだ。家に帰る前におじさんとお兄ちゃんとお話をしてくれないか?」

「うん、良いよ。クライス、また明日ね〜」

突然私とエミールが現れたことを不思議がってもいなかった。

「お兄ちゃんがセシルおじさんと結婚するために、家出したことは知っているか?」

「……お母様が、僕がお兄ちゃんの代わりに家を継いでもらうかもって言っていたよ」

「そうなんだ……お兄ちゃん、母上を怒らせてしまってな。たぶん、もう許してもらえないと思う。そしたらエミリオにも迷惑をかけることになってしまうんだ」

「僕は良いけど、セシルおじさんに迷惑をかけていない? おじさん、本当にお兄ちゃんと結婚したいの?」

「結婚するんだ。だから、エミリオも一緒に来ないか?」

「え? 何で?」

余りにも意外な事を言われたのか、キョトンとエミリオはしていた。

「エミリオには俺たちのせいで迷惑をかけるし、一緒にくれば跡を継がなくてすむぞ。それに、セシルおじさんがエミリオと離れたくないから結婚しないって言うんだ」

「え? おじさん、そろそろ甥っ子離れすべきだよ。それにお兄ちゃんたちみたいな変人と一緒に住みたくないよ」

余りにも無碍に断わられてしまった。勿論、エミリオと住む事なんて無理だと分かっている。エミールが突然こんな事を言い出して何を考えていると唖然としている間にこんな話になってしまっていた。

「僕はお母様たちと離れたくないから、おじさんと住めないよ。ごめんね、おじさん」

「……良いんだよ。お兄ちゃんが無茶苦茶なことを言っているんだ。お母さんたちと離れて暮らそうだなんて有り得ないよね?」

いくら兄と叔父だからと言って、実の両親とはなれて暮らすなんてことに了承するはずがない。

「うん」

「お母さんとお父さんのことが好きだもんね」

「うん、セシルおじさんも寂しいんだったらお兄ちゃんと結婚して赤ちゃん産めばいいんじゃないのかな? そしたら寂しくなくなるよ……でも、おじさんとお兄ちゃんが結婚っておかしいんだけどね」

面と向っておかしいと言われてしまった。この子は現実的で、頭がいい。そして両親を愛している。

「ごめん……エミリオを浚ってしまおうかと思ったけど、それはきっとセシルは望まないと思った……」

「あの子は、兄上たちを愛している。寂しいけど、あの子にとっての両親はもう兄上たちだけなんだ……知らせるべきじゃないよ」

一生言わないしエミールにも秘密にするつもりだった。けれどエミールは知ってしまったけど、お互いエミリオに名乗り出る顔もなければ権利もない。

「けれど、俺はエミリオは生まれてきてくれて凄く感謝している……セシルには酷いことをしてしまったけれど」

「どうして? 14歳で父親になって、弟が息子だったことに何を感謝するんだ!?」

「だって、そのお陰でセシルは俺だけだっただろう? 俺以外に抱かれないでいてくれた……花嫁の媚薬の効果のせいで、俺がいなくなったと俺はセシルが他の男に抱かれ続けていたんじゃないかと心配したけど、エミリオのお陰で、そうせずに済んだ。感謝しても仕切れないだろう?」

私はエミリオを身篭っていなかったら自殺していただろう。媚薬の効果のせいで、他の男抱かれるくらいなら死んだほうがマシだと考えていた。

「……エミール、君……記憶が戻っているね?」

「……セシル……ごめん」

「一体何時から戻っていたんだ? 私を騙していたのか!?」

「ごめんっ! 記憶は……言い出せなかったんだ。何時言ったらいいのか分からなくて……そう、記憶は18歳になった頃から段々思いだしてきた。セシルがどこにいるかずっと探していた。そしてあの家に物凄い強力な結界が張っていたから、おそらくアンリ様が張った結界でどうやっても破れなかった。ずっと見張っていてもセシルは出てきてくれなったし、いるんだって分かっていたけど会いに行けなかった。その間、もう一度会えたらどうやってセシルにもう一度アタックしようかずっと考えていた。そして無効地帯のお陰で結界がなくなって、任務に志願して……自然にもう一度セシルにアタックしようと……」

「ばか!」

「馬鹿だよ! セシルは色々隠しているし、死んだように精気がなかったし、俺のせいでセシルの人生滅茶苦茶にしたの分かっていて、けどどうやっても諦め切れなくて! セシルが俺のいない間に他の男で媚薬の効果をなだめていたら死んでしまいたいと思っていたし! 俺はもうセシル馬鹿だ! 他の男の形跡がいないかチェックしまくって、いないけどどうやって媚薬の効果を消したのか分からず苦悩して、もう何でもいいからセシルを手に入れたくて、記憶を失った振りをしながらセシルの同情をもう一度買おうとして!」

「もう、君って男が分からないっ! あんなに可愛い子だったのにっ!」

「セシルだけいれば良い、馬鹿な男なんだ! お願いだから、セシルおじ様……僕の側にいて下さい」

本当に酷い男だよ、君は。こんなときだけ可愛い甥っ子の振りをするんだから。




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