「公爵親子むっちゃ怖かったんだよな……メリアージュ様みたいな方が、どうして俺みたいな平凡な男を選んだんだろう」

常に尽きない疑問。どうしてメリアージュ様は俺のことが好きなんだろう。好きと言うこと事態、嘘ではないのは勿論分かっている。
けれど、好かれるような事をした覚えもないのに。そして、メリアージュ様だったらもっといい男と結婚できただろうに、と思わずにはいられない。

「それ言うんだったら、俺だってどうしてイブちゃんが俺のことを好きになったのか分からん」

「まあ、お前も奥様っていうイメージじゃないしな……そのお前がいまや辺境伯夫人だもんな」

「そうなんだよ……辺境伯家って建国の礎を築いた名家中の名家だろ? 親は玉の輿だって喜んでいるけどなあ」

お互い伴侶をとんでもない名家から貰ってしまって同じような悩みがある。しかしアーロンは名家に嫁いだだけであって、玉の輿だ。俺のように名家からお嫁さんを貰って、その実家に難癖つけられているのとは訳が違う。

「メリアージュ様も俺みたいな平凡な男の何処が良かったんだろうか……」

「平凡なところが良かったんじゃね? お前って、夫にするなら最高物件だと思うぞ。善良で魔力は高くって伯爵家の跡取りで金持ち……まあ、副隊長の家から見れば豆粒のようなものだろうけど、逆にそういうのが新鮮だったんじゃないのか? 公爵家って、変わった性格の男が多そうだし」

「はあ……あの一件で公爵たちがメリアージュ様を諦めるのだろうか……胃が痛くなる」

「胃が痛いという割には良く食べているじゃないか」

「ここの菓子美味しいんだよな。せっかく差し入れ貰ったのにアーロンは食べないのか? お前もここの焼き菓子とかパン好きだったじゃないか」

「……なんか、食の好みが変わったっていうか、今は食欲ないっていうか……あんま言いたくないけど、できちゃったみたいなんだよな」

「うおお? 凄く早いんじゃないか? だって結婚してまだ一ヶ月だろ?」

アーロンも魔力高いのに結婚後一ヶ月って、有り得ないほど早い。
普通は5年程度出来なくてもおかしくない。

「……だよな……イブちゃん曰く、相性の良い魔力を持っているんじゃないかって言っていたけど、俺がお母さんかよ。想像した事もないわ」

「イブちゃん喜んでいただろ?」

「まあ……でも、もっと新婚気分味わいたかったよって落ち込んでもいたけどな。俺はある意味助かったかもしれん。イブちゃんのでかいちんこキツかった……」

身体的にも精神的にもくるんだろう。あの顔で巨根とか想像できないしな……

なんか凄くめでたい話のはずなんだけど……メリアージュ様と友人のイブちゃん、結構同世代なので張り合って生きてきたそうだ。

「ただいま帰りました……メリアージュ様」

「おかえり……」

相変わらずメリアージュ様は専業主婦が似合わない。俺なんかよりも余程凛々しい顔立ちに、貴公子そのものの佇まい。メリアージュ様が副隊長を続けて、俺が専業主夫というか領主のほうに専念したほうが良かったかもしれない。この方は戦場に立つほうが似合っているような気がする。俺は無職になっても伯爵をすれば良いだけだし。まだ父が田舎にこもって領主として対応してくれているから、俺とメリアージュ様は新婚夫婦をやっているだけなのだが。

「何か元気ないですね。どうかしましたか?」

「お前は聞いたか? イブの奴もう子どもができたそうだぞ……」

「アーロンから聞きましたが」

この億劫な顔は、何なのだろうか。親友に負けたからと怒っているのだろうか。いや、しかしあちらが早すぎるだけで、一般の夫婦でも二年くらいは、誰にも何も言われないのに。

「何故、俺にはできないっ!」

「そ、それは無茶ですよ」

だから2年出来なくてもおかしくはないのに、俺たちまだ結婚して一ヶ月でしょう。

「無茶なものか! 気合があれば出切るはずだ! お前の気合が! いや、お前の愛がないせいだ!」

め、メリアージュ様……言いたくないけど、俺たちの魔力じゃ、子どもは儲けるのは無理なんです。いくらメリアージュ様が気合で産むとおっしゃっていただけても、これまで俺たちくらいの魔力で子どもは出来た例はありません。
だけど、産むとおっしゃっているメリアージュ様に、そんな残酷な事は言えず、俺は黙っているしかありません。

しかし黙っているのを俺がメリアージュ様への愛がないと勘違いなさった奥様で。物凄く怒って、俺をソファに放り投げると、膝上に乗っかっていらっしゃいました。

「明日は休みだろう! 明日はベッドから出さないからな!」

はい……大丈夫です。俺はまだ健康で若い20代前半ですから。頑張ってメリアージュ様が満足できるように、たたせます。

しかし……

「貴様! どういうつもりだ!」

「す、すいませんっ??? え? どうしてなんでしょうか??」

俺は混乱していた。何故か、メリアージュ様が頑張って御手で触ってくれたり、高貴な口で奉仕までしていただいたのに、俺の息子はうんともすんとも言いません……これまで、怖かった初夜でもなんとか役に立った物なんです。それから皆勤賞で頑張ってきたのに、今夜ばかりは何をやっても、どうやっても全く起きません。

「もう……俺に飽きたのか?」

「と、とんでもございません! メリアージュ様の妖艶な身体に飽きることなんか絶対にありません!!! 俺もどうしてだか分かりませんっ! つ、疲れているのかな? なんか食べ合わせでも悪かったのかな? 睡眠不足かも……」

メリアージュ様ににらまれて色々言い訳を考えるが、どうしても理由が分からなかった。
今までお利口だった息子がどうしてメリアージュ様に反旗を翻したのか、本当に自分でも原因が思いつかないのだ。今日までメリアージュ様に誘われれば、メリアージュ様の奉仕を受けなくても大丈夫だったのに。

「……そうだな。男ならそんな日もあるかもしれんな。変なプレッシャーも与えてしまったし、そのせいかもしれんな」

「そうです! 今日はたまたま疲れているだけで……明日になればきっと大丈夫です!」

メリアージュ様、ボコボコに殴られるかと思ったが、意外に優しかった。
メリアージュ様って俺を殴る時は、俺が頓珍漢なことを言ったり、可愛い男の子の話題や、近くに可愛い男の子がいるときだったりするので、理不尽なことでは殴らないんだよな。(一般的に見て充分理不尽な事で殴られています)

その夜はメリアージュ様に何時もどおり抱きしめられて眠りました。


「ぐあっ!」

し、城の一角が破壊されて、俺はそこから100メートルくらい飛ばされた。で、でも大丈夫。生きているさ。

「お前、昨日もその前の日も、そして今日……三日も勃起しないという事は、体調の問題ではなかろう。やはり、愛していない男など抱けないのか!?」

「ち、違います! 俺は、メリアージュ様のことっ!」

愛しているかどうかって言われたら……突然結婚してまだ一ヶ月。恋愛対象でも何でもなかったメリアージュ様にいきなり愛を感じよとは無理があるが、それでも俺のために色んなものを犠牲にして嫁いで着てくださったこの方を、生涯大事にして差し上げたいと思うようになってきた。

「俺とは一緒にもいたくないんだろう! 公爵家に戻って欲しいか!?」

「いいえ、そんなことはっ!」

も、もう城が半壊しています……あとで直しますけど。俺の身体って凄く丈夫なんだなって、自分で自分を感心してしまいます。

「もう仕事に行け!……俺も少し頭を冷やして、今後のことを考える」

「メリアージュ様……」

本当にどうしてだか分からないんです……貴方の事をとても大事に思っているはずなのに。

「どうしたんだ? ロアルド、暗い顔をして」

「アーロン……別に」

「お前だけじゃないよな? なんか、この部隊皆暗い顔しているぞ。なんかもう死人と言うか、アンデッドみたいな顔して、もう死にたいです。みたいな顔をしているし」

「みんな不幸で結構じゃないか、ははっ」

みんな不幸って、俺みたいにインポになったって訳じゃないだろ?

「なあ、絶対に俺のほうが不幸だって。なあ、お前たち、インポになったって訳じゃないだろ? 離婚寸前とか、奥様に見限られそうとか、そこまでの」

この国でDVとか夫が犯罪者、は離婚できることになるが、インポが続いたら離婚の原因にひょっとしたら認められるんじゃないのか?

「分隊長も役に立たなくなったんですか!? 俺もです! この三日、どんなに頑張ってもうんともすんとも言いません!」
「私もです! 妻に、もう俺のこと好きじゃなくなったんだなとか言われて、こんなに愛しているのにインポになってしまうなんて!」
「僕もです! 妻に唆されて、前立腺を刺激してみても駄目だったんです!」

インポを自己申告する部下たち。え? 何で全員インポなんだ?

「俺は違うぞ」

「アーロンは妊婦だからだろ?……数百人が同じ部隊でインポになるということは、やはり俺が原因じゃない! メリアージュ様に言い訳できる!」

もう殴られない!
しかし原因は何だ?

みんな三日前から急にということだ。三日前何があったんだ?

部隊でインポになっていない隊員とインポ隊員を分けて、3日前の行動を探る。この2つのグループに、やったこととやっていないことの差を探す。

「そんなチマチマと! インポ隊員たちの血でも取って分析にかければいいだろう!」

「め、メリアージュ様! この部隊員たちを見てください! 俺だけじゃなかったんです。数百人同じインポがいます! 俺の責任じゃあ!」

「分かっている……見ていたからな。しかし原因が分からない事には……おい、この菓子は何だ?」

いつも奥様は俺を見張っていてくれますよね……

「え? これですか。これは引退した先輩達が差し入れをしてくれた、菓子ですが」

メリアージュ様は、その菓子を訝しげにじっと見つめていた。

「……アーロンはこの菓子を食べたのか?」

「いいえ」

「そこのインポじゃないグループ、菓子を食べたのか?」

「いいえ、甘いものは苦手で…」

「で、インポのグループは食べたのだろう?」

「はい……」

この菓子が原因なのか?

「この気配……この菓子には……おそらく『花婿の毒薬』が仕込まれているな」

『花婿の毒薬』??!! 何だ、その不吉な名称は!?




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