金髪巻き毛の愛らしい子どもが生まれた。
たぶん、いや、どう見てもイアン似だ。長男は父親に似ることが多いと聞くが……(長男が跡を継ぐ事が多いため、魔力の強いほうに似る法則が長男には起こることが多い)やはりイアンに似てしまった。
いや、とても可愛いんだが……イアンもとても愛らしい顔立ちをしている……性格も素直だし、言う事は聞くし。
初めは変態だ変態だと頭が痛く思っていたが、服を着せたら大人しく着るし、命令すれば何でも素直に頷いて実行してくれる。
煽てれば余計に言うなりになるし、最近は結構拾いもんだったかもと思うようになってきた。

そして親戚たちにわが子の顔を見せに行くことになった。

イアン方は辺境伯家。イアンは末弟なので跡継ぎ問題は全く関係なかったが、かなり裕福で名門の家なのでイアンの実家に行く時は気を使う。

「こんにちは、お義父さま」

「この子がイリヤか。イアンに似て可愛い子だ」

義父は一番イアンに似た顔をしている気がする。
辺境伯家は代々早死の家系だ。長男が成人する頃に皆、先代は死んでしまう。
イアンも早死なのだろうかと、結婚した頃はちょっと心配していたのだが……結婚の挨拶に来たら、死んだはずの先代辺境伯は普通に生きていた。
あれ?……と思ったが、辺境伯という地位は、初代公爵の親友が貰った爵位で、初代国王の王妃も出した家系だ。(初代辺境伯の兄が初代王妃)
国を興した頃は、今ほど大きな国ではなく、小国だったが、その国境の重要な領地を任されたため、この辺境伯の地位は死んでからではないと、次代に譲り渡せないという制約があるそうだ。重要な領地を治める領主が、そうコロコロ代わってもらっては困るという趣旨であったが、もう国境は変わりに変わりまくっているので意味がない規則と言えば規則だが、初代に定められたことなのでそう簡単に変えられないらしい。
そのため、何時までも領主やってやれない〜だって奥さんとラブラブしたいんだもん、と考えた困った先祖が、そうだ、死んだ事にしよう!と思ったのが始まりだったらしい。

仕事をしたくないから早死にしたことにするなんて、駄目な一族だ。だからイアンもこんな駄目人間なんだな、と納得したといえば納得した。

「あれ? あの人って誰だ?」

前回訪問した時には見たことなかった人がいた。俺と同じように子どもを抱いている。イリヤより年上そうだが、顔立ちは何となく似ているので従兄弟なのかもしれない。ということは、長男か次男の奥方ということになるが、確か次男の奥方ではないような気がする。一回会っただけなので、記憶は確かじゃないが。

「ああ、紹介しよう。私の妻のラルフだ。前イアンたちが来たときは別宅にいたので紹介できなかったが。ラルフ、この二人が弟のイアンとその妻のグレイシアだ」

「よろしく、ラルフです」

何だかどこかで聞いた名前だな? どこでだっけ?

「ああ……この人ってひょっとしてリーセットの奥さんのフェレシアさんの元夫でしょう? 兄さん」

「え?……」

そういえば、そんなことをイアンから聞いていたような。リーセットは毒殺もしていないから、副隊長代理をしても良いでしょ? と聞かれ、あの中では一番真面目に仕事をしているので、まあ良いだろうと許可を出したのだが……(イアンが選んだ基準が、出産後直後のためリーセットが禁欲していて、僕と一緒だから……という基準らしい)

なんでリーセットの妻の元旦那が義兄嫁になっているんだ?

不審な目でつい彼を見てしまい、義兄嫁は居心地の悪そうな顔をしていた。

「そうか……イアンはラルフの死体人形を作ったから知っているのか。私はリーセットと協力をして、フェレシアのためにラルフを死んだことにしてここまで連れて来た。ラルフの病は私が治したんだ。今はラルフが私の妻になっている」

同僚の元妻が義兄嫁になっているって、一体何なんだ?

俺には直接関係ないが、フェレシアのことは別の部隊だが人となりは知っている。夫のために献身を捧げて、ようは捨てられたんだろう?
で、今はリーセットを押し付けられて自分は辺境伯夫人か?

「あの……フェレシアは、どうしてますか?」

「自分で確かめないんですか? 仮にも妻だった人でしょう」

俺はこんな夫でもイアンと結婚した今、イアン以外と再婚をする気はない。結婚してしまったので仕方がないからこんな男でも生涯イアンだけが夫だ。早死の家系かもしれないと心配をしたのは、こんな変態と結婚したから早く死んで欲しいというわけではなく、こんな人形師でも、死んでしまったら寂しいと思ったからだ。一応一生添い遂げる気でいた。
なので死別したわけでもないのに、平然と他人の妻になっている男を例え兄嫁とはいえいい気はしない。

「リオンが嫌がって聞けないし……こんな自分がフェレシアの前に二度と姿を見せるわけにはいかないから」

「……俺は良くは知りません。もう彼は除隊してしまっているし、それ以降見たことはないので。ただ同僚の話によれば、2人目も生まれてとても仲睦まじく過ごしているらしいですよ」

リーセットの言う事だからどこまで本当か分からないが……

「そうか……良かった。彼ならきっとフェレシアを幸せにしてくれると思ったんだ」

本当か? 彼は生きているけど、今生きていられるのはフェレシアと清い仲だったからに過ぎないぞ。あいつが本気になったら暗殺平気でするだろうしな。あとは義兄リオンの存在も大きかったかもしれない。いくらリーセットとはいえ、ストーカーをしていた義兄リオンを敵にまわしたら相当面倒な事になるだろう。これでもこの国の大貴族、辺境伯なのだから。

だから円満にお互いを離別させるため手を組んだのだろう。殺したいほど憎かっただろうに、リーセットは一応我慢した。

そうやってリオンとリーセットはお互い何とかしてこの二人を別れさせて、自分の物にした。フェレシアとラルフなど一たまりもないだろう。なんせ変態ストーカー(勝手に変態と決め付けている)と陰険ゲスがタッグを組んだら勝てるはずはないだろうから。そう思うとこのラルフも可哀想なのかもしれない。

「フェレシアに何か言う事はありますか? 伝えられるか分からないけど、伝言があったら」

「いいえ。俺はもうフェレシアにとっては死んだ人間です。本当は死んだままにしておきたかったけど……フェレシアが生きる気力をなくしてしまったと言われて、手紙を書いて、それが最後だと思っています。本当は俺は死ぬつもりだったし、とっくに病死しているはずだったのに……何を間違ったのか、リオンは俺の病気を治してしまって……気がついたら、こんなことになってしまっていたんです。会わせる顔なんて二度とない」

彼曰く、フェレシアと自分には未来はなかったし、自分が死んでフェレシアはリーセットと結婚するべきだと思っていた。
リオンとのことは、正直思っても見なかったことで、今でもリオンに対しては恋愛感情はない。それはまあ、俺もイアンを愛しているかといわれたら……可愛い子犬だなとは思うけど。

「じゃあ何でリオン義兄上と結婚したんですか?……好きでもなんでもないのなら」

「……気がついたら押し倒されていたんだ」

「うん、まあ……あの兄弟だったらアリだろうな」

「リオンは俺なんかの看病をずっとしてくれて、俺を治す薬をずっと探していた。最後はリオンがその薬を作ってくれた……昔プロポーズされたことがあったけど、まさか今までずっと俺のことを思い続けてくれていたなんて思いもよらなかったし……治った瞬間、押し倒されて、抵抗する間もなかった」

苦笑するラルフに、その場面が思い浮かぶようだった。ずっと見ているだけで告白もせず、押し倒すなんて……イアンそっくりだな。

「戸籍上既に結婚していたし、すぐに子どももできてしまったし、なし崩しになんとなく夫婦になってしまったけど……」

「まあ、良いんじゃないのか? フェレシアとは死別したことになっているんだし、新しい戸籍を得たんだったら新しい人生を歩めばいいだろう?」

何か問題があるのだろうか。憂鬱そうな顔を見ると、上手くいっているようには見えないが。

「……フェレシアにあれだけ苦労させて、俺は何もできないままだったのに、のうのうと俺だけ新しい人生なんて……」

「だからって、今更貴方がフェレシアに何かしてやれるわけはないでしょう? 例えばお金の問題だとしたら、フェレシアが貴方に使ったお金を受け取るとは思えないし、何よりもリーセットが嫌がって絶対に拒絶するでしょうね」

「……でしょうね。彼は絶対に俺からのものなんか受け取ってはくれないだろう……それに俺からのじゃなくって、リオンが結局は払う事になるんだし、意味がないといえばないし……働く事なんか、リオンは絶対に許してくれないから」

まあ、今まで不治の病だった最愛の人を病気が治ったからといって、元妻にお金を返すために働かすなんて、リオンは絶対に許可しないだろう。
それくらいだったら代わりに返済するというだろうけど、それもリーセットが受け取るはずない。

「だったら、もうどうやっても貴方がフェレシアに何かできることなんかないって分かったでしょう。過去を忘れてリオン義兄と幸せになれば良いでしょう」

「それは……無理だと思う」

「どうして? まあ変態の一族だけど、リオン義兄さんは綺麗な顔しているし、金持ちだし地位もあるし、夫として悪い人じゃないだろう? 何が不満なんだ?」

「……たぶん、俺はリオンを愛していない」

うん……だから何?
俺の知っている夫婦で夫を愛している妻なんて誰もいないぞ。クライス副隊長くらいだな。
エミリオだって夫のこと愛していなかったけど、二人も子ども産んで上手くやっているぞ。

「だから……夫婦生活もなかなかできない……」

「それは、夫をベッドに入れないってことか?」

「……リオンが求めてきてもどうしても拒否してしまうんだ。あんまり拒否してばかりいては悪いと思うから、たまには受け入れるけど」

なら隊長よりはマシだろう。

「どのくらい?」

「……出産後は3回くらい……」

ほんと、隊長よりちょっとマシなレベルだな。

「あのな、フェレシアだってリーセットのこと愛していないと思うぞ」

愛していないから受け入れられないのか? 愛していなくてももう夫婦なんだから、そんなことを悩んでいても仕方がないと思うんだが。

「でも、フェレシアは割り切ってリーセットを今では受け入れて、2人目まで産んでいる。まあ、愛していないっていうのは俺の想像にしかすぎないけどな……けどまあ、フェレシアなりにリーセットを憎からずって思っているんじゃないか? リーセットは強引だったけど、あいつにできる限りの誠意でフェレシアを愛したことを、フェレシアはきっと分かっていると思うし、愛されているのも分かっているだろうからな」

「はい……」

「だから、ラルフさんも割り切れよ……何時までも悩んでいたって、愛していないって躊躇して何になるんだ? 子どもまで儲けたんだろ? これからもずっと夫婦でいるの変わりないだろう? だったら悩むだけ無駄だろう……黙って愛されていろよ」

「でもっ……」

「今のままじゃ、誰も幸せにできないぞ?」

まあ、気持ちは分からなくないけど……ずっと夫という立場で突然奥さんにされてもねえ……気持ちの切り替えも出来ないだろうし、愛してもいない男とエッチするのは、中々できないって気持ちも理解できないわけじゃない。

「うだうだ悩んでいたって解決できないんだから、もう何も考えずに、そうだな……フェレシアを幸せに出来なかったんだから今度はリオンを幸せにすることを考えろ。取り合えずエッチさせてやれ……マグロで良いんだ! 向こうに奉仕させろ! 悩むな! 愛してなくたって夫婦にはなれる!」

「そうだ……俺も、夫のことを愛していたが……妻になるなんて思いもよらなかった……けど、それでも三人も子どもをもうけて、それなりに幸せだったと思えるんだから、ラルフ、君もこうしてリオンの妻になってしまったんだ。難しいことを考えずに、勝手に妻にしたリオンに全ての責任を押し付けて幸せになろうと考えなさい」

「お義母さん……」

義両親たちは両思いだったのか……けど、なんかひと悶着あった感じだけど。

「話を盗み聞きして悪かったね。しかし……うちの夫も息子も肝心なことは恥ずかしがって言えないで、突然最後に突っ走るような、はた迷惑な性格だから、ラルフにも相当迷惑をかけただろう。きっと、本気で妻にする気があると知っていれば君の性格からはついて来なかっただろうし、妻になるという選択の余地も与えないような息子で申し訳なかった」

うん、それはそう思う。他力本願な所があるって言うか、相手からアタックされるのを待っているような所があるしな。
肝心な事はいわないくせに、最後暴走しまくるし……父親や弟がこの性格なんだからリオン義兄だってそうなんだろう。

「取り合えず、母として頼む……エッチさせてやってくれ。産後三回は可哀想過ぎる……っていうか、暴走するとわが息子ながら何をするか分からないから! 俺もマグロだった! わが家の嫁は代々マグロで良いんだ!」

「……は、はい」

「グレイシア……君のほうは、イアンは何か迷惑をかけていないか?」

「え?……」

「末っ子だから甘やかしたかもしれないと心配になってな……大人しい良い子だったんだが、結婚ともなると何か変なことをしでかしてはいないかと」

人形作って、お人形と自慰をして、全裸になって生活をし、髭達磨になって行き倒れていたりしていましたが……

「大人しい……良い子だったんですか?」

「ああ……本当は三人も作るつもりはなかったんだけど、夫がどうしても俺に似ている息子が欲しいって三人までチャレンジしたんだが、夫の遺伝子が強いからか、皆可愛い系で生まれてきてしまってだな……皆、良い子なんだけどもてないんだよな……可愛い顔に生まれてくるわりに、可愛い奥さんじゃあなくって格好良い系の嫁ばかり欲しがる嫌な家系でな……イアンも嫁を取るのに苦労するんじゃないかと心配していたんだ。大人しいから、一生独身のような気もしていたんだが、ちゃんと嫁を連れて来てくれて……安心したんだが、何かしでかしていないか?」

全裸になって……しかし、そんなことを実の母親に言えるか! 流石に息子が部隊でも相当の変態だと知るのはとても悲しいことだろう。隊長の部下で一番役に立たない分隊長をしていたなんて……エミリオ分隊長のこともクライス副隊長のことも怖くって、産休から戻ってこないといいな……って呟く変態小心者なんです。とは、頑張って可愛い変態息子を三人も産んだ人に言えない……

「いえ……そんなことは……可愛い夫です」

なんだかイアンの実家に戻ってきて、嫌な事ばかり聞くな……義父は仕事を放棄したいばかりに死んだ振りをするし、可愛い顔をしている家系で、マッチョでたぶん毛深い遺伝子の持ち主ばかり……今はこんな可愛いイリヤが将来毛達磨になってしまうのか!!!

そういえば、イアンも可愛い顔をしていたのにもてなかった。イアンは俺のことを好きなのを人形と全裸でアピールしていたからもてなかっただけかと思っていたが、そういう家系なんだとしたら、イリヤの将来は……相当可哀想な事になるかもしれない。

帰り際、イアンに聞いてみた。

「なあ、お前ってもてたか?」

「……ううん……だから僕、グレイシアにも告白できなかったんだ」

「今から、イリヤにも婚約者決めておいてやろうか……」

そうすれば、周りに迷惑をかけて結婚もないだろう。なんかエルウィンも同じような事を考えていたと聞いた……変態の夫を持つと同じ悩みを持つものなんだな。

変態の家族と結婚してしまった……と思ったが、俺の家だって兄は幼妻誘拐犯で、父は母監禁犯で、母はメンヘラ入っているし……人の家のことは言えないか……。

「イリヤは好きな子と結婚させてあげたいから婚約者は止めておこうよ。僕みたいにグレイのようなカッコ良い奥様貰って欲しいから」

……そうか、そうだよな……イリヤだって好きな子と結婚したいよな……きっと将来イリヤも誰かに迷惑をかけてしまう。未来の奥様ごめんなさい、と思いながら、実家帰りは終わった。

感想……疲れた……

END
イブちゃんの死因(?)が判明しました。

おまけ

兄弟の会話★

「可愛い息子が生まれたな」
「うん、僕に似て可愛いでしょう?……でも、僕グレイに似た子が欲しかったのに。でも、グレイ優しいからまた子作りしてくれるから2人目も頑張るんだ」
「……お前、奥方にさせてもらえているのか?」
「妊娠中はさせてもらえなかったけど……でも、エッチな下着はいてくれたりして、エッチな姿見せてくれたし、イリヤが生まれてからはさせてくれるし」
「もう3回はしたか?」
「3回って、グレイとした回数? そんなのもっとしているに決まっているよ」
「イリヤが出来たのは一回でできたんだろう?」
「え? そんなわけないよ。だってイリヤができるまで2年あったんだよ。グレイ、三回に一回くらいしかさせてくれなかったけど、でも何十回ってしているし……兄さん、さっきから一回とか3回とかまさか、お嫁さんに子どもできるまで一回で、産後3回で計4回しかさせてもらっていないとか悲しいこと……」
「そうだ、未だに4回しかさせてもらっていないんだ!!!! しかも、頼んで頼んで誘って誘って、よう〜やくこの回数だ……」
「そ、その僕達の国王陛下になられる隊長だって、王太子妃様と4回(その中に新婚旅行もあるからもっとあるといえばある)しかさせてもらっていないし、2年もやらせてもらっていないんだって! それに比べれば兄さんは……同じ4回だね……」
「母上だってマグロだったと聞くのに、私やアレンやイアンを儲けたというのに……私は弟に負け、父にも負け、国王陛下になられる方と同等……」
「そう! 国王陛下と同じだから良いじゃないか。僕と比べちゃ駄目だよ。だって僕の奥様のグレイはとっても素晴らしい人で、奥様の鏡なんだ。エッチだってサービスたくさんしてくれるし、マグロっていうんだったら僕がマグロになるほうが多いかもしれないくらいだし」
「なんて羨ましいんだ! わが辺境伯家の妻は代々マグロだと言うのに! 弟の癖に生意気だぞ(つд⊂)」
「国王陛下になられる隊長にご協力を申し出てはどうかな?……隊長は即位したら週二回の性生活を義務化しようとなさっているんだ! 兄さんも、実は隊長と同じ4回しか結婚してさせてもらっていません、ぜひ協力をしたいと申し出れば、きっと隊長と親友になれると思うよ!」
「そうか……わが家も、建国の時から公爵家とは親友だった! 辺境伯としてぜひ国王陛下に協力をしなくてはっ!」

この会話を聞いてしまったラルフは、義母や義理弟グレイシアにいくらマグロでもいいから相手をしてやれと言われても、したくなくなったそうである。




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