小説(両性) | ナノ

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この帝国史でおそらく一番無能な皇帝で権力のなかった者として名前を残すのは、きっと自分だろうとユインはずっと思っていた。

ユインは皇帝と名乗ってはいるが、はっきりいって傀儡そのものであった。何の権力も持っていない。

別に幽閉されているとか、理不尽な目に会っているとは全くない。皇帝に相応しい豪華な生活はさせてもらっている。

けれど、元老院が開かれてもユインの意見など全く反映されないし、そもそも聞かれたこともない。

決まった法律や事業に国璽を押すことだけがユインの仕事だった。楽と言えば楽だが、皇帝としての権威も何もあったものではない。



だがこれは仕方がないことでもあった。

もともとユインは皇帝になれる血筋の持ち主ではなかったからだ。

ユインは父は、3代前の皇帝であった。ユインの異母兄にあたる息子に帝位を譲ると、離宮に移り、息子よりも年下の侍女との間にユインを儲けた。当然ユインは庶子であり皇位継承権など持っていなかった。

孫より年下の幼い息子に僅かばかりの領地と財産を残して父は亡くなり、ユインの存在は忘れ去られていた。それで良かったし、当然だと思っていた。

それが変わったのは、異母兄が亡くなり、ユインの年上の甥にあたる次の皇帝を含め、高位の継承権を持つ皇族が流行熱によって次々と亡くなってしまったからだ。

皇帝位につく血筋の者がいない。

いや、唯一いた。それは皇后のお腹の中にいる胎児だった。まだ産まれてもいない、男女も分からない存在。

だが男児が生まれれば正当な皇位継承権を持つ。ここで問題になるのが、皇帝位につけるのは15歳に達していないといけないという決まりがあるのだ。せっかく皇子が生まれたとしても、やはり中継ぎで皇帝の座についてくれる者が必要となった。

そこで思い出されたのがユインというわけだ。

何の後ろ盾もなく、田舎でわずかな領地で細々と暮らしていたのを目をつけられ、勝手に皇帝にさせられた。

皇后たちが必要としているのは、あくまで中継ぎの存在。下手に権力が有って、権威に執着する存在であってはいけないのだ。

親戚もいない、孤児で、帝王学も修めていない、皇子が15歳になり即位できる年齢になったら、すぐに放逐できるくらいのユインが調度良かったのだろう。

勝手に皇帝にされ、そして無事産まれた父のひ孫は、皇子だった。15年、国璽を押していれば引退できる。ひとまず安心し、国璽を押す以外特にやることもなかったので、子育てを頑張った。


ユインは中継ぎのためだけに即位したので、自分の子供を持つことは当然許されない。それはこの王宮に連れられてきた時から諦めたことだった。

田舎にいる時は、そのうち可愛いお嫁さんでも貰って、子どもも、と思っていたが、将来にわたって禍根となりかねないので、退位しても子どもを持つことはできない。

だから、産まれた皇子を自分の子供のように構って、可愛がって育てた。


そして、立派に育ってくれた。くれたのだが。

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