「君の弟に会ったよ…」
「ユーシスに?」
ダリヤは驚いたようにジェスを見た。
「そう……君にとてもよく似ていた。芯が強くて、凛然としていて……離れて過ごしていても人目で君と兄弟だと分かったよ」
「俺のこと……話したのか?」
「だいたいは…話した。君は知られたくはないと思ったが」
「どうしてアイツに話すんだよ!ユーシスには関係ない!俺の人生に関わらせるなよ!ずっと、ずっとアイツとは関わらないようにしてきたのに、どうして今さらユーシスを巻き込むんだっ!!」
「だが…関わりは無くないだろう?君が軍にいた理由はユーシスだろう?君がもうユーシス君のことで、やつの言いなりになる必要がないように保護しなければならない」
彼が原因ではないことはもう何となく察しがついていたが、ダリヤが正直には語らないであろうダリヤにカマをかけるつもりでそう言った。
「違う!そんなんじゃない!俺は……俺は」
「俺は?」
口ごもるダリヤにジェスは畳み掛けた。
「私は……君の真実が知りたい。何のために軍にいるのか。何と引き換えに、あの男に忠誠を誓ったんだ?何に縛られている?」
ダリヤ自身の真実が知りたかった。そうでなくては、ダリヤに何もしてやれはしない。
「真実?……俺なんて全部嘘偽りで出来ているんだ。真実なんてものがあるもんか」
名前ですら、真のものではないダリヤ。
「そう君がしたくて、しているわけじゃないだろう?……何時までも偽りでいたいのかい?」
「……」
「言ってくれれば……助けてやれる。君の弟にも言われたんだ。贖罪は必要かと……どうかと思った……私の思いは償いでしかないのかもしれない、そしてそれを君は必要としないかもしれないが…前にも言ったように、君を助けてやりたい。なのに、君は何も言わない」
「言ったところで何になるんだ」
その声は確かな実感を持ってジェスに伝えられた。
「言ったところで何になるんだ!……アンタが俺に何をしてくれた?何をしてくれるっていうんだ!俺は中将が今ここで、俺を中将殺人未遂犯だって叩きだすことは考えられても、アンタが俺を守ってくれることなんか、信じられないね!……何でもしてくれるって言うかもしれない。でも、あんなふうに簡単に俺を騙していられたアンタを、俺がどうやって信用できるって言うんだ?そんなアンタに俺が何を言えって言うんだ?!」
「君に殺されても構わなかった。君が私を憎んで、私を殺すことで自由になれるなら、それでも良かったんだ。命を賭けても信じてはくれないか?」
「そんなのは信用に値するって言わない……アンタは一番楽な方法に逃げたんだ。死んで詫びますって…それって一番難しいようで、一番簡単だ。他を全部切り捨てて、あとは何もしなくても良いんだからな……無責任そのものだ」
彼のそんな言葉に、ジェスは返す言葉を失った。ジェスにしてみれば、ジェスにも大事なものはあった。レンフォードに言われた言葉。私たちはどうでも良いのですか、そういわれた言葉。
どうでも良くは無かったのだ。誰よりも信頼してついて来てくれた大事な部下たちだった。
その彼らと天秤にかけたわけではなかった。ただあの時は、ダリヤを救えたら、とそんなふうに思っていた。それしかもう彼女の気を晴らす術が無く、またそれでしか彼を自由にできないのなら仕方がないと。ただそれは、ダリヤの言うように罪を償う術を放棄したと思われても仕方が無いのかもしれない。