「まだ見つからないか?ユーシスは」

 父親さえ失ったダリヤに残されているのはもう弟しかいない。なんとしてもユーシスを見つけ出して、ダリヤに一人ではないことを教えてやりたかった。そう思って色々捜させてはいたが、これといった手がかりはまだ無かった。

「そうそう見つかるわけないだろ?ダリヤが住んでいたのは戸籍も曖昧な田舎だし、内戦のせいもあって当時の状況が分からない……何処に養子にいったとか、もう少し詳しい情報があれば、簡単に見つかると思うんだがな。ダリヤに聞くのが一番早いとは思うんだがな……」

 ダリヤはどれだけ問い詰められても、自分が属している組織のことすら口を噤んでいるというのに、おそらく最愛の弟であるユーシスのことを例え情報の一欠けらであろうと話すことは無いだろう。

「ダリヤは?」

「ローズと遊んでいる」

「…ローズと?」

 子どもと戯れるというイメージがどうしてもダリヤにはわかない。あんな冷めた目をしているダリヤに、ローズが懐くのだろうか。

「意外か?……俺も意外だったが、あの子面倒見は良いぜ。ローズも慕っているしな。弟もいたから、子守は慣れているんじゃないか?」

 大人の中ばかりにいたダリヤしか見ていないからだろうか、ダリヤと子どもというペアが想像の範囲外だった。

「気になるんだったら声をかければ良いだろう。お前、毎日見に来るくせに声もかけないし」

「なんて声をかけて良いのか…分からない」

「おいおい……思春期の少年じゃあるまいし、女をたらしまくったお前の台詞じゃねえだろ。普通に話しかければ良いじゃないか。元気か?とか、何でも良いだろ。変な含みを持たせなければ、普通に話す子だぞ。実際リリアなんか見張りを置いておくから正直にダリヤの素性を話すしかなかったけれど、そんなことをしでかした人間にはとても見えないって言っているくらいだし……本当に悪人だったら、ローズがあんなに懐くはずないと俺は思うが?」

「分かっている…色眼鏡で見なければ……ダリヤは素直でいい子だ」

 少なくても昔はそうだった。あれだけ変わっても根本的なところは変わっていないならば、ローズが懐いたとしても当然かもしれなかった。

「あと、それ渡さないで良いのか?」

 ジェスの部署へ届けられたダリヤへの手紙。研究所に勤めていたダリヤの同僚の研究者からのものだ。ダリヤはまだジェスの部下扱いだ。用があればここに届くのは当然だったが。

「渡すつもりだが……一応解読もさせたが、暗号なども用いていないし、ただの手紙だったから構わないが。ロシアスお前が渡してやってくれ」

「お前が渡せば良いだろう。話しかけるいいチャンスじゃねえか」



 ロシアスとの話し合いが段落着くと、リリアがお茶を入れてくれたということで居間に向かった。

 ダリヤはロシアスが言っていたように居間でローズの相手をしていた。ここにきてから、ジェスは話しかけることもなくただ無事を確認するように見ていただけだったが、随分とダリヤの雰囲気も丸くなったように感じられた。ジェスが同じ部屋にいても、構えた様子もなかった。ここずっと話しかけれらなくとも、ジェスがダリヤを見ていたのを気づいていたからだろうか。取り立ててジェスが現れても驚いた様子すら見せなかった。

 なんとはなしに出された紅茶を飲みながら二人を見ると、微笑ましい風景だった。本当にローズはダリヤに懐いていて、ダリヤもローズを邪険にせずに相手をしていた。

「ねえねえ、本を読んで!」

「またこの話なのか?……ローズはいつも同じ本ばっかり読ませて。俺なんかもう台詞覚えちゃったぞ」

「だって好きなんだもん!ローズにもいつかこの本みたいな王子様が迎えに来てくれるんだよ!」

 ローズは本を指差しながら、夢見心地のような表情で楽しそうに語っていた。10歳にもならない幼女にはありがちな夢だろうとは思ったが、ロシアスにとっては大問題だったようで、顔色を変えていた。そんな親子の様子にリリアとジェスは笑っていたが、ダリヤだけは違った。

「ローズ……王子様なんかいないんだよ。迎えに来てくれるのを待っていたら駄目だ…自分で道を開くしかないんだよ。だからローズは自分で何でもできるような女になるんだよ」

「え?」

 言われたことが分からない、ポカンとした顔をしているローズを見て、ダリヤは少しばつの悪い顔をした。

「ローズ、ダリヤが言いたいのは、何でもできる女の子になれってことだよ。たくさん勉強して、ローズは王子様が迎えに来るのを待っているんじゃなくて、王子様を迎えに行くような素敵なお姫様になるんだよって、ダリヤは言いたかったんだ」

「ふ〜ん…」

 分かったような分かっていないような顔をしているローズをダリヤはロシアスに任せ、罰の悪い表情をしたまま外に出て行ってしまった。



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