中央司令部。ジェス・ユーディング中将の執務室は、何時ものような喧騒に包まれていた。軍のトップである大総統に一番近い男だといわれるジェスには敵が多い。特に最近は大総統が引退を仄めかしたことで、後釜争いが熾烈を極めている状態だ。

 周りも次の大総統には誰がなるのかと、ジェスにこびへつらってくる者も多い。そういった状況にも辟易していた。

 仕事も嫌がらせのように山のように上から運ばれてくる。こんな嫌がらせをしている暇があったらもっと国民のために働いたらどうだ、という心境にジェスは陥ってしまう。こんな低レベルな奴らがライバルだと思うと情けないくらいだったが。

 そしてそんな馬鹿たちの嫌がらせの最たるものは、今ここにいる人物に違いないとここにいる皆は思っているだろう。ただでさえ忙しいときに余計なものを送ってきやがって、と思う心は隠してひたすらよそ行きようの笑顔をジェスは張り付かせていた。

「ダリヤ・ハデス……15歳で国家資格を取ったとはね。最年少だろうに…何もこんなところに来ることはないだろう。今までどおりに研究所に勤めていたほうが良いのではないか?」

 黙ったまま立っている少年。長い金髪の髪をポニーテールにした彼は弱冠17歳ですでに医療魔術の権威だと言われている。ジェスもダリヤの論文を読んだことはあったが、とてもこんな少年に書ける物だとは思えなかった。まさに天才と呼ばれるに相応しい少年だろう。

 国に魔力を持つ者は少なく、努力で伸ばせれるものではない。生まれ持った才能、ただ一つだけが魔術師には必要だった。 
 ダリヤもジェスもその点では、大いに恵まれていたと言えるだろう。
 そしてある一定の魔力を持つ者は強制的に軍の徴集され、国家資格を有することになる。有事には全ての国家魔術師が戦闘に派遣されるが、普段は軍人と研究職に分かれている。軍人にを兼ねる国家魔術師は、エリートであり少佐からのスタートとなる。戦闘の際は人間兵器であり、兵士1000人分に相当するとされている。
 
 そんな人間兵器でもあるので、通常軍に入るのは18歳以上からだと決められている。その規定以下の年齢であるダリヤは、資格をとったのだ。

 その才能は軍でもトップクラスの破壊力を持つと言われるジェス以上かもしれない。


「それは俺が決めることではありません…国家魔術師は軍属です。命令されれば何処になりとも参りますよ…研究なら何処でもできますし」

 思ったよりも低めの声だった。金髪の髪と金色の目をした少年は、その色のように蜂蜜のような甘い声をしていると想像していたが、口調同様硬い硬質なものだった。年齢よりも幼く見える外見だが、とても整った造作をしている。誰もが見惚れるほど美しいかった。ジェスだとて同様だった。

 ただジェスは外見に騙されたりはしない。美しいものは美しいと賞賛するが、人間らしい表情がダリヤには欠けていた。それこそ研究にしか興味の無いお人形のようにジェスには感じられた。

「その通りだ…私も軍人なのでね。上の命令は断れない…ではどのぐらいの期間になるかは不明だが、事件が解決するまで君には私の下で働いてもらうことになる。知っているかと思うが一応自己紹介をしておこう。ジェス・ユーディング。地位は中将だ。君と同じ国家魔術師でもある」

「ダリヤ・ハデスです…お役に立てるように頑張ります」

 ニコリとも笑わず、ダリヤはそれだけを言った。微かにその唇が震えていたのをジェスだけが気がついた。




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