「何…をしてるの?」

 上にいるジェスは黙ったまま、ダリヤの上着のボタンを一つ一つ外している。やがて露になった胸部にジッと視線をジェスは這わせていた。ダリヤは思わず視線から逃れるように両手で肌蹴られた衣服を引き寄せると、もう一度何をしているのかとジェスに訊ねた。

 しかし答えは得られないまま、ジェスは胸に置いた両手を剥がすと片手でシーツに縫いとめ、黙ったまま残った片手で下腹部までを露にし出した。

「た、大佐!…離して」

 流石にダリヤも黙ってはいられなかった。身を捩ってジェスの手から逃れようとしても、軍人の体はびくともしなかった。あまりの羞恥心にどうかなってしまいそうだった。

 あのジェスが自分の裸を見ている。その事実が居たたまれずに、消えてなくなってしまいたかった。

「暴れるんじゃないよ…君が好きだからこうするんだ」

 ジェスは抵抗しようとするダリヤに辟易したのか、言い諭すように耳元で囁いた。ジェスに暴れるなと言われたダリヤはもうそれ以上何もできなかった。

「本当に…俺のことが好きなの?……俺、子どもだし……綺麗でもないし……大佐の相手になれるような上流階級の女の人でもない」

「君は特別だよ…リヤ。君はとても純粋で、綺麗だ。私のことを愛しているのだろう?だったらそのまま私に身を任せれば良い…好きだよ。愛している…君は今まで私の周りに居たような女たちとは違う……私のためだけに与えられた、私だけのものだ」

 そう自分に囁いてくる男に、ダリヤは喜びを隠しきれなかった。実感が持てなかったダリヤに何度も好きだ、愛していると囁かれ、例え様のない喜びが沸きあがってきたのだった。

 女の匂いをさせない子どもだから、ジェスはそばに近寄らせてくれていたのだとダリヤは思っていた。だがダリヤ自身は気が付かなかったが、たった12歳でもジェスを見る目はこれ以上ないほどある意味女だったことを知らなかった。

 でも、たぶん、ジェスはそれに気が付いていたのだ。そしてダリヤのことも軽蔑していたのかもしれない。ただこの時はそんなことなどダリヤは何も気が付かないままだった。子どもだったのだ。ただ愛する人のことしか考えられなかった。

「好き…俺も、大佐のことをずっと昔から、好きだった」

 ジェスが言った回数以上に、ダリヤも何度も好きだと繰り返した。そう繰り返せば、この夢のような出来事が、夢で終わらないような気がした。

「愛しているよ……本当は私のほうから言ってあげれば良かったね…君みたいな子どもに言わせるとは、我ながら情けないな。だが私も悩んでいたんだよ。君はまだ幼すぎるからね…もう少し待つべきかと思っていたんだよ」

 そんなことを言いながらも、ジェスの手がダリヤの体を触れるのを止めることはなかった。

 何をジェスが今自分にしているか、知識はあっても実感がなかったのだ。どうしてジェスがこんなことをしたがるのか、まだほんの子どもに過ぎなかったダリヤには理解できなかったのだ。何度も大人の男に乱暴されそうになったくせに、根本的なことは何も分かっていなかったのかもしれない。いや、ジェスという人がこんなことをしたがるなど想像もできなかった。

 だからダリヤはなんの抵抗もしなかった。いやできなかったのだ。ジェスが望むなら何をされても良いと思っていたし、彼がダリヤに酷いことなどするわけはないと思い込んでいた。

「いっ」

「黙っていなさい…周りに聞こえたら困る」

 大きく広げられた両足の間にジェスを挟みこんだ体勢で、悲鳴を上げる口さえジェスの手で覆われた。引き裂かれるような痛みで息もできず、痛みで零れ落ちる生理的な涙で見上げるジェスの顔は不鮮明で、どんな表情をしているのか分からなかった。

 未熟な身体があまりの痛みで上げる悲鳴すら許されなくても、それでもジェスを信じていた。好きだといってくれたこと。好きだからするのだと言ったこと。そのジェスが望むのだから、我慢しなければいけないと、気絶しそうな痛みの中必死に意識を保っていた。



 どのくらい時間が経ったのだろうか。何時もだったら、もうとっくに仕事は終わっている時間のはずだ。母が帰ってこないのを心配していないのか、気掛かりだった。

 体中が緊張していたせいだろうか。関係ない場所まで痛む上体を無理矢理起して、身体を見てみると酷い有様だった。特に傷む部分を見下ろしてみると、そこは血塗れになっており、白く濁る液体が所々に付着していた。シーツも血に塗れていた。

 ジェスの姿は無かった。

 段々と痛みに慣れると、やがてダリヤは鮮明に先ほどまでの記憶が蘇った。痛いとも言えないまま、何度もジェスに貫かれたこと。行為が終わり、声も出させてもらえないまま首を振ってそれ以上の行為を拒絶しても、ジェスは決して止めようとはしなかったこと。

 ダリヤは口では嫌だとは言わなかった。態度でも明確な拒否はできなかった。だからジェスは悪くは無い。同意の上でしたことなのだ。ジェスを責めてはいけない。

 ジェスに好かれたいと願ったダリヤもまた望んだことなのだ。例えこんな結果を望んでいなかったとはいえ、ジェスの望むことなら拒否したくないと思ったのは事実だからだ。ジェスの孤独を少しでも癒せたら、ジェスの特別に近づけたらと願ったダリヤに、ジェスが望んだことはダリヤの身体を差し出すことだったのだから。

 母親の顔が一瞬よぎった。まさか仕事で遅くなっていると思っている子どもが、親子ほども年の離れた男とベッドを供にしたなどと思ってもいるまい。12歳という歳をジェスといた時は思い出さなかったのに、一人になった途端罪悪感がこみ上げて来た。今日はたぶん母の顔をまともに見ることはできないだろう。

 早く帰ろう。ダリヤは混乱する頭で床に放り出されたままの衣服を身にまとっていく。身体に付着した血はシーツでふき取った。

 痛む体を別にすれば、もう何時ものダリヤだった。

「リヤ、帰るのか?」

「大佐…」

 ジェスはシャワーでも浴びていたのか、腰にタオルを巻いたままのほぼ全裸だった。初めて見るジェスの裸体に思わず目を逸らすと、笑い声が落ちてきた。

「さっきも見ただろう?何をそんなに緊張しているんだい?」

「さっきは……見てなかった」

 ただ痛むに絶えるだけで精一杯で、ジェスの顔すらぼやけていたのだ。そんなダリヤの心境に気がついたのだろうか。幾分ジェスは顔を顰めて、顔を近づけた。

「無理をさせて悪かったね……君はまだ幼いのに、酷いことをした。許してくれるかい?」

 ダリヤの頬に触れ優しく撫でられると、さきほどまで母への罪悪感で一杯だったというのに、今はもうどうでも良くなっていた。少し頬を染め、頷いた。

「好きだよ…リヤ。君はとても可愛い…また週末にここに来る。来てくれるだろう?」

 その問いかけに、ダリヤは頷く以外の術を持ってはいなかった。どうして拒否することなどできただろうか。こんなにも心を奪われている相手に、来て欲しいと乞われ、母への罪悪感などもうダリヤの心の端にすらなかった。



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