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 私が彼女に、ワグナーの言うところのダリヤに色彩の似た娘に初めて出会ったのは、今から6年ほど前のことだった。今のように中央司令部所属ではなく、東方地方の東方司令部司令官に着任したばかりの頃だった。

 初めて彼女に会ったときの印象はと思い出すと、取り立てて思い出すこともない。何時が初対面かさえはっきりとしない。そんな存在でしかなかった。

 行き付けの娼館で働いていたのを時々目にする程度だった。初めはあんな小さな少女が娼婦として働いているのかと驚いたものだったが、彼女はただの小間使いのようで店に出てくることもなかったので、やがて忘れてしまった。

 誓って言うが、私は女を買うためにその娼館にいたわけではない。当時すでに私は結婚していたし、子どももじきに生まれるそんな時だった。喧騒としたその雰囲気は息抜きにちょうど良かったし、普通では手に入らない情報を小耳に挟める場所でもあった。だから通っていたに過ぎない。

 身重の妻を裏切るつもりは毛頭なかったし、女を買うほど困っていたわけでもなかった。

 そして何度目かその少女を目にした時、その娼館に立ち寄った際に私とそう歳の違わない男が、その少女を無理矢理部屋に引きずり込もうとした場面に遭遇したのだ。

 彼女は当時12歳という年齢よりもかなり幼く見えた。そして短く切った髪と世の中を憎んでいるような目は、少女というよりは少年にしか私には見えなかった。貧しさの中たいした物を食べていないだろう身体はガリガリだったし、10歳ほどにしか見えない子どもをどうこうしようとする趣味が私には心底理解できなかった。

 たしかに良く見れば整った顔立ちだし、あと10年もしたら目を見張るような美しい女性に成長するかもしれなかった。だがここには他にも豊満で美しい女たちはたくさんいるし、こんな子どもを無理矢理抱いて何が面白いのかというのが本音だった。

 あとで分かったことだが、少女は少女であり少年でもあった。だが普段は女物の服を着ているので、私はその子を少女として扱った。

 お互いが納得しているなら12歳だろうと春を売るのを止めることはなかっただろう。貧困に喘ぐ余り10になるかならないかで体を売る少年少年は後を絶たない。そういった意味で彼女が生計を身を売ることによって立てているとしたら、助けようとすることは余計なお世話でしかなかっただろう。可哀想だがそうすることでしか生きていけない者も存在するのだ。

 私が将来国を動かす立場に付いたときには、彼女のような子どもを一人でも少なくするようにしたい。そういう気持ちはあった。だが今一介の軍人でしかない私では、彼女のような少年少女を皆助けまわってやることもできない。その日暮らしの金を手渡たしたところで、また同じ行為に走ることは目に見えていた。

 だがどう見ても子どもは嫌がっている。だから助けた。同意がない限りその行為はただの暴力だ。大人として、また軍人として当たり前のことだった。その時はたいしたことをしたつもりはなかった。

 子どもは驚いたように私を見ていた。大丈夫かと問いかけると、真っ赤になって走っていってしまった。走り去る金髪を見て、ああ小間使いをしている少女だったなと何となく思い出した程度だった。

 それが私とリヤと呼ばれる少女との出会いだった。





 そして次に会った時、彼女が私の捜し求めている男の娘だと知った。

 運命だと私は思った。今まで憎んで余りある神に生まれて初めて感謝したのかもしれない。絶望に打ちひしがれていた私にチャンスをくれたのだと、そう思った。

 それがどんなに理不尽な行いであるのか、その時考える余裕すらなかった。



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