5
栄が入院している精神病院に行った。
そこでは貴也が献身的に栄を看病しているようだ。栄も順調に良くなっていっているらしい。しかしそれは困る。
庭を散歩している2人の会話を背後で盗み聞きをしてみる。
栄は、こんな汚い俺でも良いの?家のお金も無くなっちゃったなど、泣き言を言っており、栄の動画流出事件スキャンダルのせいで、元々危うくなっていた企業は軒並み倒産か、買収の憂き目にあっていた。そのお陰でうちの近衛家はより一層勢力を伸ばした。
貴也は優しく、どんな栄だって構わないと慰めている。どんなのでもいいとか、流石に偽善だろう。だって貴也は俺を抱いているのは、あんな栄に手を出せないとか言っていたもんな。普通輪姦された男は嫌だろ?
「久しぶり、一条栄?」
「近衛……」
栄は一条家の名前を奪われたらしい。もう一条の名前を名乗る権利もないらしい。まあ、一族の名汚しだし仕方がないよな。だからあえて俺は一条栄と呼んだんだが。
「近衛、どういうつもりだ?」
「どういうって、わざわざお見舞い……って言いたいところなんだけど、俺診察を受けに来てそのついでに顔出し。そろそろ元気になったかな〜って」
「……貴也がいてくれるから、もう平気だ」
でもその貴也は毎日俺を抱いていたけどね。
「良かったね。俺もさあ、順調だって言われているんだ。お腹の赤ちゃん」
二人は顔をこわばらせていた。特に栄のほうね。まあ、赤ちゃんの父親が誰か分かるだろうし。でも、あの栄の輪姦の日の子じゃないんだよね。計算合わないから。
あれから何十回って貴也が抱いてくれたから、俺も何時できた子か分からない。
「元気になったんなら、パパを返してね?栄。赤ちゃん、パパがいないと可哀想だろ?」
これで、立ち直れないだろ?栄
それで、一層俺を憎むだろう、貴也?
こんな物で貴也を釣れるなんて思っていない。だって、貴也はずっと栄が好きで、どんなに俺が求愛しても無駄だった。だから、2人の間にこれ以上ないほどの亀裂を与えられるんだったらそれで充分だ。
俺は一人で貴也の子どもを育てるだけの財力もある。
貴也にもっと罵られる事を予感しながら、栄の心が壊れる言葉を言った。