END
恋人と別れ、章太郎はいつものBL本を片手に裏庭で放課後を過ごしていた。
このベンチに座って、はじめて真一と会ったなあ、と思い出しながら。
「四条先輩、約束どおりに真一先輩と会わないでくれているようで、安心しました」
「真崎君……」
別れた恋人の新しい恋人が立っていた。
「約束だから……」
「そう、約束でしたからね。そうそう、俺のほうもちゃんと約束守りましたよ。先輩、ちゃんと先輩のお父さんの会社に融資をするように、手配しました。当分倒産の心配はないはずですよ」
それが約束だった。
「真ちゃんに酷いことしていないよね」
「何言ってんですか?先輩は、家と真一先輩を天秤にかけて、恋人よりも家族を取ったんでしょう?先輩が、真一先輩のことに口出す権利はもうありませんよ」
「君が、言うとおりにしないとっ!」
「言い訳しないで下さい。俺だったら家が破産したって、真一先輩を選びますよ?先輩は真一先輩よりも家族のほうが大事だっただけでしょう?」
章太郎は反論できなかった。いくら真崎に脅されたとはいえ、恋人であった真一を騙して、この外面だけは穏やかそうな狂った男に唯々諾々と従ってしまったのだから。
「どのみち俺がいなかったら、先輩の家は破産して、この学園にいれなくなって、真一先輩と別れる破目になってましたよ?先輩にとっても、真一先輩を俺にくれたほうが、得る物が多かったでしょう?賢いですよ」
真崎の言葉は正論だった。どのみち彼に従わなかったら、会社は破産し学園には経済的にいられるはずもなく退学しかすべはない。真一はやはりこの男の手に落ちていただろう。
だが結果は同じでも、それに加担したかしないかで、罪悪感は変わる。
「言っておくけど、真崎君。君、頭おかしいよ……真ちゃん、君の本性知ったら」
「黙れ!……あの人の恋人だったってだけで殺してやりたいのに、家族を救ってやった俺に対して、聞く口の聞き方か?生かしてやっているだけ、感謝して欲しいっていうのに」
絶対に真一の前ではしないだろう、凍りついた視線と、人を従わせる絶対の声。
「真一先輩と寝ていたら、間違いなく殺してましたよ。プラトニックを貫いていて良かったですね」
真崎が、真一とセックスをしたら殺すと脅していたのだろうとは、もう言えなかった。これ以上怒らすこと何をされるか分からない。
「安心してください、先輩。俺、本当に真一先輩のことを愛しているんです。一生大事にしますから」
「……」
本当に大事にしてね、とも言えなかった。そんなことでも言えば、お前には言われる筋合いはないと言われるかもしれなかったから。
真崎がいなくなって、やっと息をつけた。
「ごめんね真ちゃん……これでもちゃんと好きだったんだよ」
真一には最後にそう言えなかったけど、一人で呟いてみた。
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