今日はマミーの命日だった。

「銀ちゃんのバカ!」
銀ちゃんの姿を見た瞬間、知らないうちに罵声が口から飛びだしていた。
昼には帰ると言っていた癖に、空が暗くなるまで音沙汰無しで、やっと帰宅した銀ちゃんは、肩から派手に血を流してずぶ濡れだったのだ。
目を見開いて固まった銀ちゃんを置いて、私は自分の部屋(押し入れだけれど)に飛び込んで頭から布団を被った。自分でも分からない間に溢れていた涙をゴシゴシと乱暴に拭う。
「神楽」
すぐに襖の外から銀ちゃんの声がしたけれど、絶対に返事なんかしてやるもんかと変な意地を張っていた私は勿論答えない。
やがて消えた気配に理不尽だけれど少し喪失感を覚えつつ、布団を抱いてゴロンと横になる。

銀ちゃんにとっては、自分の命よりも他人の命が大事なようだった。時々怖くなる程にそれは真っ直ぐで、だけれどそれがあまりに頑なだったものだから、私達はある程度妥協することにしていた。
ただ、今日だけは耐えられなかったのだ。自分の我が儘加減にはとんと嫌になる。

目が覚めた。いつの間に寝ていたのか。トントンと包丁がまな板を叩く音が聞こえていた。
グゥとお腹が鳴る。こういう時ばかりは夜兎の胃袋を恨めしく思う。
溜め息をついて寝返りを打ち、仰向けになる。暫くぼぅっと天井を眺めていたら、銀ちゃんの気配が近づいて来た。
「お前、いつまでそうやってるつもりなんだよ」
「…」
「…飯、食わねェの」
黙っていても動く気配のない銀ちゃんに、私はしぶしぶ襖を開けた。目を合わせず銀ちゃんの隣をすり抜けテーブルに近づいて、思わず瞠目する。
テーブルの上には、私の好物ばかりが所狭しと並べられていたのだ。
動きを止めた私の頭に温かい掌が乗る。
「お前、朝から元気無かったろ」
「え」
「出来るだけ早く帰ろうとはしたんだけどよ。…悪かったな」
気がついたら、それまで張っていた意地など忘れてブンブンと頭を横に振っていた。
「銀ちゃん、ありがとう。すごく美味しそうアル」



~130302






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