家が真後ろにあり、親同士の仲もよかったため、なまえとは結局高校まで一緒になってしまった。
 どうせなら習っているアーチェリーの強い高校へ行けばよかったのに。そんな周りの声を知ってか知らずか、なまえは何故か八十稲羽へ残った。

「私は八十神にいくよ」

 中学時代、進路希望を聞いた時、なまえは当たり前のようにそういった。
 わざわざ八十稲羽に残る理由はわからなかったが、頑なに八十神以外の希望を出すことは無く、高校に上がる前、なまえの母親が、アーチェリーの強い高校を教えても、八十神以外は行かないと言って聞いてくれない、と自分の母親と話しているのを尚紀は聞いていた。
 高校に上がってからも、アーチェリーを、やめることはなく、中学時代と同様に週二回と少なくはあるが、サボることなくなまえは続けている。

「飽きない?」
「なにが」
「アーチェリー」
「んー、わかんない」

 飽きる、飽きないという考えではなく、なまえにとってアーチェリーは生活リズムの一部になっている。だから、わからない。
 尚紀はなるほど、とそれ以上会話を続けなかった。
 習い事のない時や、学校の先輩に誘われたとき以外は大抵二人で帰ることになる。家が近いから帰り道もほとんど同じ、というのもあるが、ぼけー、と一人で帰るなまえが若干心配なのもある。
 なまえも尚紀も喋る方ではないため、二人いても二言、三言話して終わりになることが多い。いつもはそれでいいが、今日は話をしたい気分だった。

「最近、ジュネスに行ってるって」
「うん」
「……楽しい?」
「つまらなくはないよ。賑やかだし」

 先輩達がいるから?
 そう、出そうになった言葉を飲み込んだ。
 昔に比べて自分もなまえ以外の誰かといることが少し増えたため、なまえが先輩達と放課後いることも増えれば、一緒に帰る機会が目に見えて減るのは当たり前だ。
 しかし、詳しく話してくれないのには、なにか理由でもあるのだろうか。先輩達に混ざって完二も一緒にいるようだし、と自分に都合か悪い方向へ邪推してしまう。
 亡くなった姉には、早くしないと隣にはいられなくなるよ、と言われたことがある。おそらくなまえの事なのだろうが、当時はそんなことはなかったため、まったく気にしたことがなかったが、今になってようやく姉の言葉が現実味を帯びてきた。
 隣にいた人が突然いなくなるのは経験済みだが、隣にいたはずなのに、気がつけば別の人の隣にいる、というのはまだない。
 どのような気持ちを味わうことになるのかなんて想像したくもないが、行動しなければ現実になるのではないだろうか。

「なおくん、考え事してる」
「えっ?」
「難しい顔。眉間にシワできちゃうよ」

 気がつけば向かい合わせになっていたなまえから、伸ばされた手が額に近づく。
 そのまま、なまえの指が眉間に触れる。と、優しく指先で撫でられた。
 自分が気を散らしていたのが悪いのだが、なまえの行動に唖然としてしまう。幼馴染みとはいえ、お互い男女を意識していてもいいはずなのに、なまえにはそういったものはないのか。
 家まではまだ距離がある。しかし、その距離では、話したいこと全て話せそうにはない。都合の良いことに、今日は家の手伝いがない日だ。




 暗くなる前には終わるから、と少し歩いて公園で座って話すことにした。
 ベンチに腰掛けると、少し詰めてなまえが隣に座った。距離をとられなくてよかった、と少しほっとしたのだが、その距離にはこれから話す内容のこともあって安心できない。

「困ったことでもあったの?」
「まぁ、そんな感じ」
「私でいいの?」
「なまえじゃなきゃ困る」
「えぇー、なんだろ。なおくんの相談相手なんてできるかな」

 悩み事と言えば悩み事だか、相談しにこんなところまで来たわけではなく、高校生になった訳だし、少しくらい幼馴染みから進展してもいいんじゃないか、と思ったから連れてきた、とはあまりにも中身をすっ飛ばしすぎるので、適当に返事をしておいた。
 この調子で告白して伝わるのか? 振られる訳でもなく、上手く伝わらずに空振りした時の方がショックが大きそうな気もしてくる。
 隣ではまだかまだか、とソワソワしているなまえがいる。

「話なんだけど」
「うん」
「……彼氏とかいる?」
「いない! ぜんぜん!」
「知ってる」
「な、なんで聞いたの……」

 反応が面白くて声を押し殺してはいたが、つい笑ってしまう。
 当然、実は彼氏いるの、みたいな事故にならないための確認だが、そこは予想通りではあった。
 また間が空いてしまう。すぐに告白できるような性格ならとっくにしているが、幼馴染みだから隣にいられる、なんて悠長に構えて高校生活が終わる前に告白できずに終わるのだけは避けたいと、行動したのに。
 まだ高校一年生だからいいか、なんて思っていたつい最近のことが昔のことのように思える。

「なまえ」
「なーに、なおくん」
「好きって言われたら、どう」
「どういう好き、なのかにもよるけど、嬉しいよ」
「じゃあ、俺がなまえを好きでも?」
「え、それ、って」
「なまえを彼女にしたいなってこと」

 最初は意味を理解するまでに時間がかかったからなのか、瞬きを繰り返すだけだったのが、今では告白された、という事実を理解して耳まで真っ赤にして、なまえは呆然としている。
 それにつられて、こっちまで時間差で恥ずかしくなる。自分たち以外、誰もいない公園をみて心の底から田舎でよかった、と思ったことはない。
 結局、真っ赤になっただけで、返事をくれないなまえは俯いたまま硬直していた。しかし、反応を見る限りは脈がありそうではある。試しにスカートを握り締めている手をそっと握ってみると、あからさまには肩がはねる。
 ゆっくりと顔が持ち上がり、尚紀を正面に捉える。
 今まで一緒にいて、こんな顔のなまえは見たことがなかった。真っ赤な顔で少し嬉しそうに笑うなまえは、ゆっくり口を開くと、「私もね、好き」と小さく呟いて、手が握り返された。

きみと手をつなぐよ



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