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毎日使った満員電車に乗って、通い慣れた一本道を通って、よく友達と放課後遊んだショッピングモールの角を曲がると、3年通った母校が見えた。湘北高校>氛汪ナ板は凛々しく、放課後のこの時間は部活動が元気に活動している。
私たちがいなくなって2年と少し。
ここは全く変わらないのに、まるで別の高校のようにすら感じられるのは私がすっかり社会に染まったからなのかもしれない。
「……みょうじ?」
三年生として最後の1年を過ごしたクラスに立ち寄り、懐かしの机の前に立ったとき、廊下から声がした。2年ぶりなのに、その声に呼ばれて私は不思議と高校のときと同じ気持ちで振り返ることができた。
「三井くん、」
「よお、まさかこんなとこで会うとはな」
「同窓会前に懐かしくなった感じ?」
「あー、まあそんなん」
三井くんとは彼が不良になる前からの友達で彼が荒れてからも何故か縁が切れることはなく、思い返すと3年間クラスは同じだった。
「…俺いまから体育館行くけど、行くか?」
遠慮がちに聞かれたそれに、二つ返事で行くと答えて教室を出た。「今日はバスケ部は休みなの?」「遠征だ、ってさっき聞いた」「そうなんだ、」あの赤い頭の子と大人気だった無口なイケメンは今も人気者なのだろうか。三井くんに聞こうと思ってやめた。私たちの思い出に現在は不必要な気がしたから。「懐かしいな」隣から聞こえてきた声にクスリと笑う。
「…三井くんにはここが一番似合うよ」
彼は落ちてたボールをひとつ拾ってコートの中へ。私は体育館の入口で止まった。これが2年前までの立ち位置。彼はプレーヤーで私はここからそれを見ていた。見ていた、だけだった。
「みょうじは覚えてるかわかんねぇけど、それ俺がバスケ部に戻った時も言ってくれたよな」
「……」
「それがすっげぇ嬉しかったの今でも覚えてるよ」
……そんなことあったっけ
ああ
「みょうじもこっち来い」
彼のハニカミと差し伸ばされた手に従って、私は恐る恐る体育館に入った。もちろん靴は脱いで神聖な場所へと入るように静かにゆっくりと。
「ねぇ、三井くん」
「ああ?」
「スリーポイント、見せてよ 」
彼はふっと笑うと、一度、ボールをついた。「いいぜ、よーく見とけよ」少し下がって、ボールを構えて、すっと放たれたボールは、大きく弧を描いて、リングのどこにも当たらずに吸い込まれた。「、綺麗なシュート」私が素直にそう言うと、彼は当たり前だろと笑った。歯をキラリと光らせて、笑う彼が好きだった。付き合うとか彼女になりたいとか、そういうんじゃなくて、ただ、彼がバスケをして笑っているところが見たかった。ただ、彼の笑顔が、彼のプレーが、本当に本当に好きだった。
「…大学でのバスケはどう?」
「すっげぇやつがゴロゴロいて困ってる」
「三井くんもそんなこと言うのね」
「…でもすっげぇ楽しいよ」
挫折を味わい、逃げた日々も彼は知っている。だからこそ、誰よりも逆境に立ち向かう強さを持つ彼になれたのだろう。どんな時も諦めずに戦う姿がみんなに勇気を与えてくれるんだろう。そんな彼が眩しくて、今も変わらず好きで、今にも泣いてしまいたくなる。
「諦めるまで、終わりはねぇからな」
ボールを拾い上げると振り返って、彼は私に強い瞳でそう言い切った。この人はいつだって、私の思い出のどのページを切り取ったって格好良くて、きっとこれからもずっと格好良くて。当たり前のように、私の記憶を輝かせてみせる。
「それじゃあ一生終わらないね」
「それでいいんだよ、…俺は」
一生終わらせる気なんてねぇんだ、
リングを見つめる横顔が好きで、笑ったときのくしゃっとした瞳が好きで、困ったときに少しさがる眉が好きで、ずっと諦めないで戦う彼が好きで、恥ずかしそうに未来を語る彼が好きで、私はちゃんと心から彼のすべてが好きだったと言える。
「じゃあ、私もずっと応援するよ」
「大げさだな」
「どっちがよ」
「俺は本気だ」
「私だって、本気」
目と目が合って、笑いあった。それだけで、ただ見ているだけだったあの3年間が報われた気がした。好きだった、大好きでした、三井くん。あなたのおかげで楽しかった。一生言葉にすることはないだろう想いを飲み込んで、彼の指先で回るオレンジのボールを見つめていた。
For the Last Time