「なあ、そろそろ返事はくれねえの?」
「……わたしは、水戸なんて好きなんかじゃ、ない」
「はは、それが答え?そういう顔には見えねえけどな」

飾りのない言葉。透明な瞳。低い声。慣れないコロンのほのかな香り。
そのすべてに触れるたび未知の感情が沸き起こり、心臓がじくじくと握り潰されそうになった。それが堪らなく怖かった。だから私は気付かないふりをしてずっと目を逸らし続けてきた。
―――本当はもうずっと、押し寄せてくる感情の波に溺れそうになっていたのに。

「好きだ」
「……やめて!」
「やめねえよ」

今すぐここから逃げ出したい。けれど、震える両足は地面に張り付いてぴくりとも動かない。口元は笑っているのに私を見下ろす水戸の瞳はひたすらに真摯でまっすぐだ。その表情だけで分かってしまう。彼はもう誤魔化す気も、私を逃がす気もさらさらないのだろう。

「ごめんな。いつまでも待ってやろうってマジで思ってたんだけどよ」
「……水、戸…」
「そろそろ限界っつうか」

(好きなんかじゃないのに)

もう一度心の中で繰り返す。それなのに、そっと伸びてきた水戸の指先が頬を包み込んだだけで、抵抗する気持ちなんて溶けてしまうのだから、泣きたくなる。
ふれて、なでて、離れて、またふれて。厚い皮で覆われた両指が私の頬をそろりと優しく撫でおろすたびに、バカみたいに突っ立ったままの私の視界は結局のところ、だんだんと熱を帯びてぐにゃりと歪んでいったのだった。

「本当に嫌なら抵抗しろよ」

噛みつくように唇を奪われても、押し返せない理由など知りたくもない。


うそつきをくるむたおやかなてのひら



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