『卒業証書、授与』

音駒高校卒業式
3年の先輩と会えるのも今日まで。
在校生の参加が義務だからここに居るけれど、そうでなくてもきっと見にきたと思う。
身長が高く、独特な髪型の持ち主は、探そうとしなくてもすぐに目につく。
部活で主将として、私たちを導いてくれた大好きな先輩。
想いを告げようと何度も考えたけれどタイミングがなくて、もう、今日しかない。

「黒尾鉄朗」
「はい」

頭に思い浮かべていた人の名前を呼ばれて、思わず反応してしまう。
横にいた友人に笑われた。それから、頑張りなよって、一言。
その応援に大きく頷き、暫く見ることができなくなってしまうその姿をしっかり目に焼き付けた。



式が終わり、2年生は先に解散となったので昇降口で目当ての人を待つ。
連絡しないと迷惑だろうと思ったから昨日のうちに待っていると伝えておいた。
……自分の決意を、曲げない為にも。

パタパタと足音が聞こえてくる。先輩、かな
ポケットに入れていた鏡で慌てて髪型を整える。可愛いよって、友達に言ってもらったし。大丈夫、いつも通り

「悪いな、待たせた」

いつも通り
そんなの、先輩の顔を見たらどんなだったか忘れてしまって。

「いえ、大丈夫です」

なんて可愛げのない返答しかできない自分を心の中で罵る。
やっぱりカッコいいな、先輩は。
引退してからも廊下で見かけたら声を掛けてくれたし、沢山可愛がってもらった。
会えない日が続くほど気持ちが大きくなっていって
なんだ、大好きなんだ。
そう気付いた日には先輩の顔を見れなかったし、でも、とてつもない幸せを感じたんだ。

「で、話って何?」

卒業式に呼び出し
こんなベタな展開なんだから、きっと分かってるんだろうな。
大きく息を吸って、吐いて、逃げ出したい気持ちに負けない様に先輩の目をしっかり見つめて

「先輩の事が、好きです」

そう言った瞬間、今までの思い出が鮮明に蘇る。
初めて合った日の事、慣れないマネージャー業に戸惑った私に優しく教えてくれた日の事、勝利を誰よりも喜び合った日の事、試合に負けて、みんなで泣いた日の事。
1つ1つの思い出の中で黒尾先輩の姿が色付いていて
もう、あの日々を過ごすことは出来ないんだ
引退式の日に散々泣いたのに、また涙が溢れ出る。

「えっちょ、おま」

ごめんなさい、先輩
最後に見せる顔がこんなんで。困らせてしまって、ごめんなさい
涙を拭いても拭いても止まらない。それでも、ちゃんと笑顔を見せたい。

あなたが私に、笑った顔を見ると元気になるって言ってくれたの、覚えてますか?

その言葉が嬉しくて、先輩の前では笑っていようって決めたから

「大好きです、先輩の事が、大好きです」

一生懸命の笑顔で。
すると急に体が前に動き、目の前には制服。
肩から背中にかけて感じる強い腕の力と温もり
ああ、この腕があのスパイクして、レシーブして、チームに繋げてくれたんだ
驚きを通り越して、そんなことを考えていた。

「先輩、?」

恐る恐る声をかけると、腕の力がより強まった。

「……ありがとうな」

ありがとう
その言葉が続く事はなくて、ただ、強く抱き締められる。
そうしてそのまま暫く温もりを分かち合って、離れた頃には私の涙は引いていた。

「来年、絶対優勝しろよ」

私の髪の毛をクシャクシャと掻き混ぜて、ポンポンと軽く撫でて、笑顔で先輩は去っていった。


ずるいよ、あんなの。

ちゃんと振ってくれれば綺麗さっぱり忘れられたのに、抱き締めたりなんてしないでよ。
期待、しちゃうじゃないですか。

なんて。どうせ忘れられる訳なんてない。

………断られてはないんだし。
次に会った時も、その次も、またもっと先も。
ちゃんと振られるまでは告白し続けてやりますよ。

決意表明、一筋の涙を拭いて。

試合終了のホイッスルはまだ鳴り響かないから



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