怪傑ル・パン


♪シェリンフォードはよいお酒〜


霧のような

微かなのど越し

大人の味わい


♪シェリンフォードは良いお酒〜



「僕なら忘れさせられる。貴方の想い人や、貴方と寝た――どの少年より貴方を満足させられる」

「ラウール」

「言ってください。僕が必要だと」


 彼は悲しげに眉を潜めた。


「君が必要だ。だがこういう意味では違う――私は君が見抜いた通りの性癖だが、実際に手を出したことはない」

「子供はでしょう。男とは寝ているんだ」

「あるいは女。そうさ、それが必要な日もある。私は作品に書かれているほど、万能ではない。自然は正直に私を創った。だが……」

「黙って」


 キスは冷たかった。唇を割って入るのにも抵抗しない。技巧に関して不足はなかったはずなのに、彼は動こうとしなかった。目も開けたままだ。

 私は彼のシャツを掴んだ。手がそれ以上をさせまいと邪魔をする。


「――なぜ」

「……ラウール。私にはわかってる」


 わかってる。なにをだ。彼は父ではない。はだけたベストの脇から裾を出した。耳の裏に口づけてもそれは払われない。性急に繋がりを求める自身の熱に追いたてられ、股関を擦りつけた。硬い。


「ほら、貴方だってそうなんだ。僕は母親に感謝しなくてはね。この顔はそう美男ってわけでもないんだが、わかる人の熱情は掻き立てるらしい。印象には残らないから変装には向いてる」


 上下するだけで互いのものは熱さを増した。要領は心得てる。彼はされるほうが好きなのか。だったらことは簡単だ。楽しむすべには長けている。

 腰骨に指をかけると、一瞬震えた。


「僕は貴方の顔が好きですよ。素朴な英国人。頭や鼻がちょっとばかし成長しすぎたようだけど、目がもうちょっと柔らかければいいんだけど」

「もう、よしなさい」


 再度唇をおとした。戯れではない意思表示に足の間を揉みしだく。彼は私を欲している。ためらいを自信に変えて、半身を起こした。自分の体の鎖骨辺りを服の上からなぞりあげ、反対の手で股関を押さえる。膝頭を閉じると痛みと欲求に喘ぎが漏れた。

 彼はただ見ていた。


「体だけでもいいんだ。気持ちの通じない夜の仕事は僕の意思に反するが、互いを満たす方法がわかっているのにただ寝るなんて無理だ。貴方を犯してみたい」

「――駄目だ」

「ショルメと呼ばれたくないなら、貴方の恋しい人がそう呼ぶように……マイ・ディ」


 やめろ、と拒絶。そして……

♪シェリンフォードはよいお酒〜


霧のような

微かなのど越し

大人の味わい


♪シェリンフォードは良いお酒〜







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