世にも奇妙なシャーロキアン




【SとMの悲喜劇】


「ホームズ先生、ありがとうございました! 貴方はイギリスの誇りですわ」

「いえ。探偵として当然のことをしたまでです」

「もちろん結婚式に来てくださいますよね?」

「貴女はワトスンの誇りですから」

「私にとってもジェームズは一番の誇りですわ……」

「ジェー……?」

「あらやだ。何でもありません、ホホホ」



(さてはこの女、教授の手下かっ!)

(緊張して名前間違えちゃった。ホームズさんすごい顔で睨むんですもの……)



■■■


「ホームズさんに会えなかったら、私は一生泣き暮らしていたわ」

「僕に会えたことより、まずホームズに感謝するのかい。メアリー」

「だって事件を解決してくれたのはホームズさんよ?」

「で、でも。利益は全然なかっただろう! 直接的な利益は僕だけだ!」

「……そんな言い方最低だわ……」

「メ、メアリー? 今日は、今日は一緒に」

「ごめんなさい……気分が優れないの」

「メアリー!」



(探偵一番じゃなかったのかしら……ドキドキ)

(ちゅー以降進んでない……!)



■■■


「婚前交渉? あほかワトスン。先に子供ができたらどうする」

「子供! ハァハァ……作る気だから結婚するんだっ」

「いつでも婚約破棄できるように我慢したまえ。なんなら僕が手なり足なり尻なり貸そうか」

「変態の君と寝るくらいなら、まだらの紐と寝る!」

「それは残念だ。非常に残念だ。仕方がないので僕はレストレード警部に尻を貸してくるよ」

「シッシッ」



(手ごわいなワトスン……)

(尻軽だなホームズ……!)



■■■


「ホームズさん?」

「モースタン嬢。今日はお話しておきたいことがあって」

「どうぞ楽になさって」

「単刀直入に言います。ワトスンは女ったらしです」

「はぁ……それは何となく承知してます」

「なんですと」

「数回会っただけの女にプロポーズって、いまどき」

「ではなぜ?」

「それは……一緒にいると、もっと楽しそうだから……」



(さてはワトスン騙されてるっ?)

(こうやって邪魔しにくるあたり、医者一番は揺るがないわね。よかった!)



■■■


「ホームズ。メアリーの様子が変なんだ」

「素行調査は別途料金だよ」

「親友のよしみで何とか!」

「君と親友なのは事件が起きたときだけだ」

「なにっ。それ以外は?」

「恋人が望ましい……が、愛人でもいい……」

「尻で払おう。一突きで十分の調査!」



(アアン! し、しまった。一体何日分突かれたのだろう)

(よ、よし。童貞喪失だよ……ありがとう、ワトスン!)



■■■


「最近ジョンではなく、あなたの顔ばかり見ている気がしますわ。ホームズさん」

「あなたの料理が美味しいからですよ。今度お料理対決、もとい手ほどきなど受けたいですね」

「喜んで!」

「ご趣味はなんです」

「唐突ですわね。書きものや読書など……」



(フムフム。袖口の汚れは教授への手紙か!)

(危ないわ……ばれたらおしまいだわ……しかも探偵受けなんて!)


■■■


「ホ、ホームズ。やめ、やめて」

「うぐっ。うっ、うっ、ワトスン! ワトスン!」

「あ、アアッ、もう、やめて!」

「はぁはぁはぁ……気持ちよかった……! 最高だった! 新しい格闘技の味はどうだね!」

「――痛いだけでちっとも。突くやつにしないかい?」

「いいよ――アッ!」

「僕ならもっとうまくやれる」



(ああぁん)

(あふぅん!)



■■■


「メアリー嬢――イデッ。き、今日はイデッ。今日の用件は……イデッ」

「あの、ドーナツ座布団ありますけど」

「なんて用意がいいのだ。いい奥様になりますよ」

「あらやだ。お上手ですこと」



(バレてないバレてない!)

(切れ者の痔主なんてビンゴ!)



■■■


「メアリー嬢に不審な点はないよ。強いて言うなら犯罪界のナポレオンが関わって」

「――」

「ワトスン?」

「僕は……目覚めてしまったよ……」

「えっ」

「もう我慢できない……」



(やったぁ愛人昇格?!)

(ダイエット中なのに販売街のナポリタンとか言うなっ)



■■■


「うぷ」

「ホームズさん。大丈夫ですか?」

「いえ、その、夜中に重たいモノを」

「えっ」

「腹の中が、おかしい」

「ええっ」

「口も、気持ち悪」

「まあっ」



(夜中のナポリタンは兵器……)

(あ、あんなコトやこんなコトやそんなトコロにそんなモノが?)


■■■


「ホームズ! メアリーが僕とは結婚しないと言い出したぞ!」

「エ? それは困るよ。晴れて愛人になったのだから、これからは保険がないと世間体も」

「君と結婚するって!」

「………………………………は?」



(しくしくめそめそ……)

(……えええ!)


■■■


「単刀直入に言います」

「いや、あの」

「わたくしと結婚してください」

「いや、僕はね、きみ」

「正式にプロポーズしてるんだから返事はイエスのみ!」

「だからね、話を」

「お尻の噴火孔についての講釈はまた今度」

「イ・イエス」

「フォーリン☆ラブ!」



(なんでこんなことに……ッ)

(ふふふ)



■■■


「押し切られて明日は結婚式だよ。どうしようワトスン」

「小説ではボヘミア王から奪った歌姫ってことにでもしといてあげるよ」

「きみの立場は」

「たまたま居合わせた失業中の馬丁兼立会人」

「……彼女の目的はわからないが、満更でもない自分がいるんだ」

「よく見れば可愛いような感じのするヒロインとくっつく。これ王道」

「ワトスン。目から汁が」



(うっうっうっ)

(ワトスン……)



■■■


「というわけです」

「さすがだな、メアリー。医者だけでなく探偵までも!」

「これで探偵の私生活は把握できますわ。新刊の売れ行きは?」

「すごい勢いで売れている。犯罪なんて893な商売は辞めて、801な商売にくら替えしよう」

「闇取引でホームズ本ですわね、教授」



(むふふ)

(この体位、誰をモデルにしてるのかしら?)



■■■


「結婚生活は君の性に合っているようだな、ホームズ。太った?」

「最近めっきり犯罪も減ったからね」

「禿げた?」

「多少。君との二重生活が体に悪……アアン!」



(コイツを早死にさせてメアリーを未亡人に……!)

(ワトスぅン……!)



♪ending music








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