elementaryX



 一月

 六日がホームズの誕生日ということになっているせいで、祝いの品が大量に届く。ホームズは不満そうだ。
「年に二回も歳を取る。どうしてこんなことに」
「解決策は一つ。本当の誕生日の話を書こう――」
 私の案はあっさり却下された。プレゼントの山に埋もれる日が増えるだけだと言うのだ。地球の裏側からの贈り物など羨ましい限りだが、腐ったナマモノと犯罪者予備軍からの挑戦状が、ハドスン夫人の頭を悩ませていたので一理ある。
 ホームズのほうは包装紙に使われている新聞記事に夢中だった。覗いてみたが何語かさえわからない。新聞が発行できるような先進国か。私は手紙の管理に勤しんだ。
「ワトスン、事件だ。同じ島国のよしみで半年ほど留守にするから留守を頼むよ」


 二月


 ホームズがいないおかげで穏やかな日々だ。ハドスン夫人も私ものびのびとしている。
 手紙と一緒にホームズからチョコレートが届いた。三月某日に三倍にして返せという。他国の風習はよくわからない。ともかく元気でやっているようだ。


三月


 三倍の大きさのチョコレートをハドスン夫人と共に作って日本へ送った。可愛らしい二体の人形が更に送られてきた。オヒナサマというらしい。
 イギリスではホームズ死亡説がまた新聞各紙を賑わせている。いわく彼が150年以上も生きているのはおかしい。ようやく死んだのではというわけだ。
 しかしホームズが半ば伝説上の人物となっているのに、我々のなかで最高齢であるハドスン夫人については一切触れられていない。しかも私もホームズより二歳上であるのに。不公平だが仕方ない。彼は別格だ。先述したとおり、ホームズは一年で二歳年をとっている。齢300才以上というのが正しい。
 対応に追われた私とハドスン夫人は、一時的にベイカー街の住まいを離れている。場所はいえないが平穏な毎日だ。マイクロフト農場のローヤルゼリーは素晴らしい。


四月


 今月はチェリーの写真を送ってきた。欧米で見るそれとはまったく違う。とても美しいが一週間で枯れてしまうようだ。
 半年で帰ってくる予定のホームズが、居心地がなかなかいいのでもう少し居ようと思う、などと書いてている。
「こっちの探偵諸君は揃って無能だ。今月は関係者のほぼ全員が死んでから『じっちゃんの名にかけて!』と事件を傍観する少年に会った。私がいなければ犯人以外の残り三人も死んでいただろう。祖父も草葉の陰で泣いているかもしれないので、君の記録では死亡者を半分にしておいてくれ。詳細はまた後日」


五月


「先週、妖精信奉者の例のあの人と同じ名前の少年に会った。名前を名乗るとポカンとして、流暢な英語で矢継ぎ早に質問責めだ。この子はなかなかみどころがあると思ったが、助手と思われるジョシコウセイがいけない(ジョシコウセイの制服は大変よろしい。今度送るよ)。ある簡単な事件で誰も犯人がわからないようだったので、私が老婆心ながら口出ししようとしたのだが、気づけば全員気を失っていた。彼女はバリツの心得があるのだろう。犯人は逮捕されたよ……しかし私のかろうじて残っていた前歯はへし折られた。歯科医の紹介を頼む」
 ジョシコウセイとはなんだろう? そんな狂暴なものを送ってこられても困る。ともかくホームズは異国の地で楽しそうだ。


六月


 ホームズがジョシコウセイを送ってきた。正しくはジョシコウセイの制服だ。どう見ても水兵の格好だが、これが日本におけるジョシコウセイの一般的な服装らしい。……写真ではないのか。やるな。
 試しに着てみた。お茶を持ってきたハドスン夫人に見てもらおうと思ったが、脚がスースーして限界だった。風邪をひいてしまう。
 ホームズも私もコンピューターは扱えない。テレビジョンが初めて実用化されたとき、ホームズがこんなものが発明されたのは悪魔の所業だと騒いだのだ。というのもホームズは肉体こそ若い体(九十歳くらいに見える)を保っているが、頭は年相応にボケてきている。手紙の内容も事実かどうか怪しい。


七月


 往年のライバルの孫に会ったそうだ。ホームズにしては珍しく好戦的な内容が手紙にしたためられている。
 私のほうはジョシコウセイの制服を皮切りに、日本で流行っているらしき「アニメ」「オタク」「カワイイ」文化を知るためにコンピューターを勉強している。
 ジョシコウセイはカワイイ。ジョシコウセイはセイギ。
 東洋の島国を甘く見ていた。コスチュームプレイといえば、いい年をしたおやじ共のホームズスタイルしか知らなかった私には衝撃だった。実際ホームズは鹿撃ち帽を持ってない。今度お返しに送ってみるか。


八月


 ホームズは鹿撃ち帽を気に入ったようだ。押しつけられたイメージも受け入れられるようになったのは大変喜ばしい。年をとるにつれ丸くなった証拠だろう。
 彼は私の誕生日を覚えていた。広まっている日付とは多少ずれていたはずだが、正しい日付は私自身でさえ忘れてしまった。ホームズの記憶力には毎度驚かされる。彼はどうでもいいことは覚えていないが、大切なことだけは――。
 はて。私の誕生日は彼にとって大切なことなのだろうか。帰ってきたら是非とも聞かせてもらおう。


九月


 さすがにホームズの不在がさみしくなってきた。
 もうお互いいつ死んでもおかしくない年なのだが、ホームズは私を置いて日本に行っている。会えないまま死ぬのはごめんだが、我々の母親くらい離れたハドスン夫人はぴんぴんしているので、たぶん大丈夫だろう。


十月


 便りがない。日本は災害が多いというから心配だ。私はコンピューターをマスターした。今なら地球の裏側の人物ともインターネットで繋がることができる。
 ホームズ。早く帰ってきてくれ。


十一月


 ホームズは日本で知り合ったジョシコウセイと結婚するようだ。なんとうらやましい。私もついて行くべきだった。ちなみにホームズは初婚だ。私は心配だ。彼は騙されているのかもしれない。


十二月


 クリスマスにホームズが妻を連れてイギリスへ戻ってきた。私はホッとした。彼はゴールド・フィールド・ワン少年に薦められた日本のゲーム『探偵オナホ☆ガッツリ・ホールズ』主人公シャーリーに夢中になり、結婚式まであげたらしい。ワン少年は私にも探偵オナホをクリスマスにプレゼントしてくれた。
 ホームズはその聖なる夜に最愛の妻(少し電波気味)と繋がりながら最期の言葉を残した。
「ワトスン。僕はもっと早くに日本に行くべきだった……アソコは童貞の楽園」ガクッ



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