輩後輩


勝った。
南沢先輩がいる、月山国光に。
喜ばしいことなのだがやはり素直に喜ぶことは出来なかった。
それは、今隣で着替えているこいつも同じらしく。

「決勝点おめでとう、剣城」
「いえ…先輩も初ゴールおめでとうございました」
「人生初みたいに言うな」
「そんなつもりは全くない」

これが、今日勝利を挙げた雷門の現FWだ。はっきり言って、同じ仲間だとは思いがたい
元々はシードだ、雷門サッカー部を壊そうとしてた奴なんだ
気安く心を開けるようなそんな関係ではなかった

それでも俺は慕われるような人になりたかった。練習だって諦めずにちゃんと行ったり、試合の作戦会議にも積極的に参加していた。
心のどこかで、この1年と、南沢さんと俺のような関係を築けると思っていたんだろう。
実際は難しく、面倒なことだったが。


「一緒に帰るか、剣城」
「……先輩が嫌なら俺は遠慮しときます」
「嫌なら誘うものか」

今日は何となく、誰かと一緒に居たかった。
きっと独りだと泣いてしまうから。

「珍しいですね、先輩が誘うなんて」
「何か奢ってやるよ、百円以内のやつで」
「じゃあ……あ…」
「?どうした…」

剣城が前方を見て口を開け立ち止まった。無論俺もである

「南沢…さん」
「仲良くやってそうでよかったよかった」
笑いながらこちらへ近付いてくる先輩。
あ…やばい、泣きそう

「FWをお前達に託して正解だった」
「…」「やめて下さいよ、全然嬉しくない」
「似合ってたぜ、雷門のトップを走るすが、」「やめてくださいっ!」

口から零れ出す、否の言葉
嫌でも空気は喉を通り音になって出ていく
黙れ、俺の口
本当はこんなこと言いたくないだろ

「倉間 …剣城」

初めての感覚にはっと目を見張る
俺の後に呼ばれる名なんて今までなかったから。
FWは俺だけだとまだ思いこんでしまっていたから

「雷門のFWは、…俺の後輩は、お前達二人だ」
俺はもう用無しだから、加わってはいけない
そう言って南沢さんは切なく笑う
「いきなり重荷を押し付けてごめんな、倉間」
「剣城には基本の基本の挨拶から叩き込もうと思ってたのにな…言わなくても敬語使えんじゃん、力にもなってるし」

「俺がいなくても充分戦っていけるみたいだな」

次から次へと先輩が放つ言葉に俺はだんだん堪えきれなくなってきた
「うっ、南沢、先輩…!」
そして何ヵ月も触れることが出来なかった先輩の体温を身体全体で受け取った

「全く、お前は」
「頼れる人が、もう、いなくって、辛かったんですよっ!!」

先輩にしがみついて泣きわめく俺を見て剣城は何と思うだろうか
笑う?馬鹿にする?呆れる?
きっと全部だろうな

しかし、剣城を見てみると
瞳にうっすら涙を浮かべて歯を食いしばっているではないか
ずずっ、と鼻を啜る音。
何だよ、こいつにも可愛いとこあるんじゃん


何一人で突っ立ってんだ
お前も来いよ
同じ雷門のFWだろ

剣城はとうとう涙を溢して
俺と南沢さんの間に入ってきた
静かに泣く剣城と、南沢さん、と連呼しながら泣く俺を南沢さんはしっかり受け止め、ぎゅっと抱きしめてくれた

「俺の周りは、泣き虫さんが多いな」
先輩もまた、涙を流して笑っていた







月山国光戦お疲れ様。
雷門のFW、元FWの意地を観たような気がします。泣いた、先輩かっこいい好き

また三人仲良くサッカーできる日を願って。


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