ピンク色で溢れ返ったチョコレート売場からそそくさに必要なものだけを選び取りレジへ駆け込む。精算を済ませたあとも尚、嗚呼、やっぱりこんなに大きなデパートに買いにくるんじゃなかったなと思いつつ買い物袋を提げて帰った。

家に着いてはすぐに母親の本棚の元へと行き、古ぼけてしまっている菓子の本を出す。幼少の頃何気なく見ていた写真のページを開いてキッチンへと行く。汚れないようエプロンもしっかり着用して、本の手順通りに作り始めた。

「うわ、これ超美味いじゃん」

出来立ての菓子を試食してそう思わず発してしまった。初めてだったわけではないのだけれど以前よりかなり上達していたのは事実である。もう少しこの余韻に浸っていたいが時計の短針は五を過ぎていて辺りも暗くなっていた。
立派な包装紙など持っていなかったので適当にラップで包み、大きめの紙袋に入れた。そして軽く身だしなみを整えて家を出た。

渡し相手の家の前で気合いを入れ、おかしく震える指で中に居る人を呼び出す。

「…はい」
「倉間です」

中からのそりと出てきた南沢さんに袋ごと手渡した。

「作ったので、あげます」。

南沢さんはちょっとばかり目を見張り、次いで口元は弧を描く。瞬間、背と後頭部ががっちり固定された。ぎゅうっと力が込められて抱き締められているんだ、とこの状況を理解する。やり場のない腕は空気を掻く。あとそれから、冬だというのに身体が熱くてたまらない。

「あ…あの、」
「ありがとう。すげぇ嬉しい」

徐々に速まる心音が煩い。聞かれたくなんかないのに南沢さんは力を増して抱き締めてくる一方だ。しかしそんなことを知らせたくもなかったのでこちらも同じように、南沢さんの心音がもっとよく聞こえてくるくらいに、腕をそっと背に回して思いっきり力を込めた。

「…南沢さんの心臓、ばくばく鳴ってますよ」
「…それはお前の方じゃないか?」
「南沢さんの方は俺よりちょっと遅いです」

何をやっているんだ、と一瞬馬鹿馬鹿しく思えた。男二人で抱き合って心臓の鼓動の話だなんて。俺が発端だから文句のつけようもないのだけれど。

「南沢さん、」

自分でも甘ったるいなという声で名を呼ぶと、なに、と向こうも負けないくらい甘ったるい声でそう言った。

「好きです」
「ん…知ってるよ」

腕に力が行かなくなってきて自然とずり下がって放してしまった。それの終わりと同時に南沢さんの腕も放れて、変な喪失感に襲われた。しかしそんなことも束の間で、南沢さんは急に短いキスを降らせた。

「俺も好きだよ」

なんだか目も合わせられなくて、少し引いていた熱も再び訪れてしまった。もう下を向いたままで、じゃあ俺帰ります、と言い、身を翻して走った。

「倉間、」
「っ、なんですか」
「一ヶ月後楽しみにしてろよ」

簡単に足を止め、聞こえた言葉に淡い期待をした俺は「はい」と振り返って答えた。引き攣ったがちがちの顔じゃなかっただろうか。恥ずかしいこと全てを捨て去る勢いで俺はまた走り出した。

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