ジャンルキというかジャン→←ルキ
にょたルキ出てきます
お誕生日おめでとうルキーノ!
















単純に、受け入れていた。鏡の中に映る自分を。癖のついた柔らかい髪質を持った肩まで伸びるローズピンクの髪も、長くカールした睫毛に眼窩を縁取られた髪と同色の大きな瞳も。厚みのある唇も、肩がこりそうな自分の手の大きさに余る胸も、自分の今持つ全てを疑問を持つことなく眺めていたら、己のものではない腕が背後から伸ばされてそこに収まるように抱き寄せられた。

「なぁにしてんの?自分があまりに美人だから見惚れてんのけ?」

視線を向けて自分を抱き締める相手の正体を視認する。見事なハニーブロンドの、顔立ちの整った男の顔が至近距離から不敵に笑みを浮かべていた。見覚えのある顔。自然と頭の中に男の名前も浮かぶ。それと同時に口から発していた。

「ジャン」
「なぁに?」

名前を呼ぶと嬉しそうに目を細めて顔を摺り寄せてくる姿が大型犬を連想させて自分の顔も自覚があるくらいに綻んでいるのがわかった。それを相手にも見られていたらしい。視線が合ったと同時に微笑まれる。だが俺はそれに微笑み返したりはしなかった。それに機嫌を損ねることもなくもう一度頬を摺り寄せてきた後、耳元に息がかかって相手が唇を近づけてきたのがわかる。

「なぁ、今日何の日かわかる?」
「今日?何だ、何かの記念日か?」
「おいおいルッキーニちゃん、それギャグで言ってたら笑えるけど本当の反応だったら超可愛い」
「何言ってんだお前は」

こちらからしてみれば相手の方が本気で言っているのか冗談で言っているのかわからないような発言をかましてきて、思わず眉を寄せた。別に不快に思ったわけではなく、ただ単に男の真意が本当に汲み取れなかったからだ。しかし男も別段、相手との駆け引きを目的としてるわけではないようだった。特別何か焦らすような物言いをしてくるわけでもなく、穏やかに笑って言う。

「今日、あんたの誕生日だろ。Bouon・Compleanno」

普段はふざけてばかりのそいつがこういう時は気を回して真面目くさった顔で事も無げにそんなことを言ってくるのに、悪い気がしないわけではない。寧ろ嬉しかった。回された腕にも贈られた言葉にも喜びしか感じないから、されるがままに受け入れる自分に疑問も持たなかった。

「好きだよ」

直球で送られる言葉も。そうだ、受け入れられる。だってそれは自分も持っている気持ちだから。

「だからさ、」

頬に添えられる手から伝えられる温度だって、心地良さしか感じない。体を反転させて向き合う形になり、かち合う蜜色の眸に完全に捉えられて、唇が言葉を象る。

「結婚、しようよ」

告げられた言葉を耳から頭の中に送って、自分の中で全身に行き渡る様にゆっくり咀嚼して意味を理解する。思わず見開いてしまった眸に、相手の男は少し寂しげに笑った。
何も返事をせずにただ黙って相手を見返すことしかできずにいると、そっと抱き締めてきて自分の頬が相手の肩に当たった。

「いいだろ?だって、あんた俺のこと好きじゃん」

自惚れにも近い発言。だけれどそれは決して思い違いではなく事実で、だからこそ否定の言葉も浮かんでこない。また、黙るしかない。

「知ってるよ。亡くなった旦那さんや娘さんを今でも大事に思ってるの。でも、今この瞬間から、これからあんたを大事にするのって俺しかないじゃん?あんたが大好きな俺と一緒にいるのが、あんたの幸せじゃん?」

物凄く素直に受け取れない言葉の羅列は、それでも男の言っている内容自体は事実で、失った大事な人達はもう写真と記憶の中にしか自分には認識することはできなくなってしまったけれど、それでも忘れられない人達だ。自分の犯した過ちで失ってしまった人達は、自分のしたことを許してくれるだろうか?

「大丈夫だよ、だって、あんたが選んだ、あんたを選んだ人達だぞ?」

何でお前が答えるんだ。エスパーかお前は。言ってやろうと顔を上げた瞬間、相手の顔が近づいてきて唇に柔らかい感触。眼前いっぱいの男の顔。それを抵抗もせず受け入れるように相手の首に腕を回して自然と瞼が下りた。
これが幸せってやつなのだろうか。今この瞬間、自分は確かにただの女なのだ。この男を好きなだけの、この男を好きだという気持ちに忠実になって受け入れてしまう女なのだ。それ以外のことを考えずにすむことの、なんて幸せなことか。
















「俺も…」

自分の呟く声を耳に入れながら、目を開けるとそこには見慣れた天井。俺の部屋の天井。もう何度も見ているから改めて見たところで何の感想も頭に浮かばない天井。
ベッドから出てカーテンのかかった窓から外を見る。まだ月明かりが漏れている、夜は明けていないようだった。
下を見て体を見ればそれも見慣れた胸筋のついた胸に引き締まった腕、鏡を見なくてもわかる。これもまた見慣れた男の体。現実の、俺の姿だ。
ベッドに腰をかけたまま、特に動くこともなくぼんやりとして無意識に出た溜息を自覚した後再び口から溜息が漏れた。頭に浮かぶのはさっきまで見ていた夢。
夢を見ている時は特に疑問を持たなかった。それは自分が女であったり、夢の中の見覚えのある男に告白されたことだったり、その置かれた状況全てを自分のことだと素直に受け取れていた。こんな変な夢を見たのは今日がまさに自分の誕生日だったからか、それとも日頃から自分を同じ組織の仲間、それ以上の目で見てくる相棒に影響されてのものだったのか、どちらかはわからないがどちらでもこんな奇妙な夢を見てしまった自分自身に地味に気分が落ちた。次どんな顔をしてあいつの顔を見ればいいってんだ。いや、実際会ったら会ったで早々態度に出さないようにできる自信はあるが。
でも本当に奇妙な夢だった。――それでも、不快な夢ではなかった。
確かに、俺が女だったら、あいつが女だったら、考えたことがなかったわけではない。そうすればあいつの視線にも素直に向き合うことができたかもしれないのに。性別を言い訳にあいつにまともに答えることのできない俺はあいつらを失ったあの時から何も変わってない、まだ弱い人間のままなんじゃないかなんて思うこともある。でも俺も人生で色々経験し過ぎて、いっそ開き直ってしまおうと思うほどあいつにぶつかることができない。
さっさと諦めちまえばいいのに。思う反面、もしあいつが俺に背を向けてしまう時が来てしまった場合、俺はどうなるんだろうとその先を考える勇気もなく――





――頭の中で様々な葛藤が生まれて、それでも表に出すことはなく、俺は今日もあいつと普通に顔を合わせることができる。

「お、ルキーノ!今日誕生日だよな?Bouon・Compleanno!今日は盛大にお祝いでもするか?」

笑うあいつに笑みを返して、どうせ祝われるならセクシーなレディがいいななんて軽口を叩いて、あいつが眉間に皺を寄せて不服そうな表情を見せるのに愛しさも感じているってのも、絶対に悟られないように鼻で笑ってみせた。今日見た夢の中で会った同じ男の少し寂しげに笑った顔が脳裏を掠めたのに、気づかないふりをして。















(どうせなら、もしかなうなら)




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