主催企画提出作品
ジャンルキ


















「ルキーノォ」
「そんな猫撫で声出しても駄目なもんは駄目だ」

強い意思の元、断固拒否する姿勢を崩したりなどしない。崩してしまえば一環の終わり。少しでも隙を見せたら怒涛の勢いで流されてしまうのだからタチが悪いんだ。男二人で寝てちょうどいい大きさのダブルベットの上、俺の隣で眉尻下げて口を尖らせ縋りつく、表情が間抜けなら格好も真っ裸という間抜けっぷり(それを言うなら今の俺も同じ格好なのだが)をご披露するCR:5二代目カポ見習い中のジャンカルロは素っ気無い俺の態度を物ともせず、諦める様子は見せずにしがみついてきた。最初の頃は俺に好かれたい一心で気を遣っていたのか俺の意思を尊重する態度が目立っていたというのに、最近では我儘が増えて自分の意志を通したがる傾向があって俺は少々辟易はしていた。まぁそれでも相手に対する気持ちが冷めることはないのだから、後で好きになったはずなのに俺もこいつと同じくらい相手に溺れているんだろう。だが、俺は、だからといって、容易に相手の願いを受け入れてやれるかどうかは別問題だった。

「だーめーだ。俺はお前と違って明日は早いんだよ」
「明日からNYに出張っしょー?移動中寝ればいいじゃねぇか!明日から一週間会えないんだぜ?あんたいいの?一週間だぜ一週間!」
「何がだ!」

耳元で喚かれて少々苛立ってくる。それというのも先程から頭の中を侵食していく睡魔の所為だ。相手のことをどんなに想っていてもそれよりも今脳内を襲う眠気に身を委ねて意識を落とすことを優先してしまいたいくらい、俺の疲労はピークに達していた。

「……んだよ、そのでかい図体は見た目だけかよ!こんくらいで根を上げるなんて俺より体力ないんじゃねぇのー?それとも歳の所為か?」
「…どんなに言われても俺は折れる気はないからな」

もう目を開けておくのも億劫になってきて眸を瞼の裏に隠す。本当にこのままジャンと話しながら眠ってしまいそうなくらい、頭の中も瞼も重かった。
GDとの戦争が終息してから数ヶ月、デイバンは表面的に穏やかな日々を重ね、平穏が戻ってはいたがそれらの問題が一段落して後、俺は自分の元々の仕事と同時進行でカポ見習いであるジャンの指導役も兼ねて動くことになり、元から決して多いとはいえない睡眠時間を更に削っていた。そんな状況だけでも、一日の仕事が終わった後の疲労感は相当のものですぐにでもベットに伏せたい気分なのにそんな俺とは反してその細っこい体のどこにそんな体力が残っているのかと思うほど、同じスケジュールをこなしているはずのジャンは疲れた様子は見せず、毎日のように俺に同じように強請る。

「ちぇっ、つまんねーのー…」

言いながらもう夢の世界に逃避しようとしている俺の腕を手の平で撫でてきた。いくら眠いといってもまだ先程の余韻が残っているのだろうか、その刺激だけで若干震えてしまうほどの刺激を感じる。

「ん……っ」
「ちょっと今の声何ー?俺のこと拒むくせに煽ってるの?」
「…んな、わけ…ある、か…ッ!」

茶化すような物言いをしてくるジャンから離れようと体を動かした。しかし睡魔に占拠された脳では上手く体に司令を送ることができないようで、俺の抵抗虚しくジャンに容易く抑えつけられてしまう。

「っ、おい、ジャン…ッ!」
「ルキーノォ、俺って意外と大人なんだぜ、知ってた?」
「は?」

突拍子のないジャンの発言の意図が掴めず思わず閉じていた目を微かに開いて眉間に寄せられてしまう皺。その俺の反応を愉快そうに目を細めて笑うジャンに対して益々わからなくなる。休息を欲する体と意識を集中させることのできない脳。ジャンのことは恋人として好きな自覚はあるが、それでも時と場合によっては少々煩わしく感じてしまうのは決して相手に対する愛が足りるとか足りないとかそういう問題ではない。ただ単純に、いい加減、俺は眠りたかったのだ。ただ、それだけだ。そういう本能は相手をどんなに想っていても早々乗り越えられるものではないと、俺は思う。別にいいだろう。今寝たら次の日ジャンが俺から離れてしまうとか、そういう緊急事態が起こるわけではないのだから。目が覚めてもまた会える。そういうちょっとした油断にも似た安心感とジャンが俺から離れることは決してないという自信もあるから、俺は今はただ自分の意志に任せて眠ってしまいたいだけなんだ。

「…わかったから、離れろ、俺は…眠いんだよ…!」
「あ、今面倒臭がっただろ?…ったくルキーノってさぁ」

不満げな声を上げるジャン。そこから俺に対する不満へと話しの流れが移行しそうだ。カッツォ、本気で寝かせないつもりか。
だがそんな俺の口に出さない不満などジャンの耳に届くはずはなく、こいつはそのまま話し続けた。

「あんたってさ、女抱く時もそんな風にすぐ疲れちゃうわけじゃないっしょ?」
「カーヴォロ。んな訳あるか。これくらいで落ちてるようじゃ、レディ達は落とせないってな」
「だよなぁ、…知ってるよ」

告げられると同時に内股を撫でられ無意識に体を小さく震わせる。それが納得いかなくて眉間に更に皺を刻むが、ジャンは気にすることはなく最初はささやかな動きが撫でる範囲を広げていき、俺の意思に反して俺の体に熱を灯していく。

「や…め…っ」

拒否の言葉を告げようとした、俺の口を塞ぐように、いや、ジャンにとってはそれは正にその為の手段なのだろう。自分の唇を俺の唇に押し付けて貪るように貪欲に求めるように口づけてきた。下手なわけではない、だが俺の腰を砕くくらいに上手ともいえないキス。だが、口づけたそこから、俺に対する10代のまだ恋愛経験のない童貞野郎のように、只真っ直ぐな感情を必死で伝えようとしているような気がして、腰が熱くなるのがわかる。そして俺の口から発せられるはずだった拒否の言葉達はくぐもった声を代わりに漏らしただけで目の前のそいつによって全て飲み込まれて音として発せられることはなかった。

「んっ…ふぁっ…」
「ぷはっ」

やっと離れたと思って視線を向けた先には琥珀の眸を細めて妖艶な笑みを浮かべるジャンの姿。それに思わず息を詰まらせ見惚れてしまうなんて、初めて恋を覚えた処女の小娘じゃあるまいし、こんな、歳下の男に少しでも気を抜けば翻弄されて流されてしまいそうになるなんて、そんなもの、認めるわけにはいかない。認めていいわけがない。
俺は伏し目がちに視線をジャンから逸らした。以前だったらこんな行動も考えられなかった。負けず嫌いな性格と言えば子供っぽい印象を与えて終わりだろうが、俺は自信があった。ジャンとどういう関係になろうとも常に自分が翻弄する立場でいられるだろう自信が。だからジャンに向けられた真っ直ぐな視線にも逸らすことなく返すことができた、はずなのに。
いつからだ?いつからこんなにこいつに弱くなった?いつからこいつに見つめられるのに耐えられなくなった?いつから、こんなに、絆されていたんだ。
しかもこいつの余裕のある表情。絶対気づいているに違いないんだ。俺が一体どんな感情と葛藤しているのかを。知っていて、意地悪く顔を近づけてくる。耳元に唇を寄せ、そこから耳にかかる息にまたぞくりと騒毛立つ感覚。思わず目を強く瞑ってしまい――――…本当に、どこの乙女だ。

「…俺だって、本当はわかってるんだぜ」

先程から言っている言葉を繰り返すジャン。一体何をわかっているというのか、疑問に思い口を開こうとする前にそれはジャンによって阻止される。

「性欲強そうなあんたが、たった一回で根を上げるのは、単純に恥ずかしいから。女好きで、そりゃあモテなかったことなんてなかったような伊達男のあんたが俺に何されても本気で嫌がらねぇのは、あんたが俺を好きだから」

自惚れるな、と否定の言葉は出て来なかった。ジャンは俺の耳元から口を離すと、体を起こして俺を見下ろすように跨いで不敵な笑みを浮かべる。力で勝てないことはない。体格差を考えても俺がジャンより力がないなんてことはありはしないんだ。それでも、力で抵抗することはできない、体が、動かない。

「わかってるから大事にしてやりたいけど、そうするのがあんたの為だってわかってるけど、でも、わかってるから、あんたのこと可愛くて、大好きで、こうやって触りたくて堪らなくなる」

頬に片手を添え、もう片方の手を胸元へ這わされれば肩を震わせて小さく息を漏らす。

「じゃ、ん…!」
「俺は狡い奴だからさ、言い続けるよ。あんたが好きだ。大好き。あんたとずっと一つになっていたい。どんなに体を繋げても足らない。あんたが恥ずかしがってもやめたくない、だからさ」

――我儘、貫かせてもらうよ。

告げられながら快楽を引き寄せられるように体に這わされる手。それに強い抵抗をする意思は既に薄れていた。
あんなに眠いと思っていたのに、あんなに疲れが溜まっていたというのに、結局こうなるのか。俺も存外流されやすい奴になったもんだ。こいつの行動が、言葉が、嬉しいとすら感じるなんて、認めたくはないことだ。こんな女々しい自分が嫌になる。こいつの手で日々変化していく自分の体にも戸惑いを覚えないわけがない。
だが、俺に触れるジャンの嬉しそうな、愛おしそうなものを見るような穏やかな表情を見ていたら、どうせ明日の朝、排除しきれなかった眠気と疲労を感じて後悔するんだろうと予想はついていたわけだが、それでも今はこのまま流されてもいいような気がした。









2010/11/28








いやよいやよも好きのうちというわけで子供のように我儘にルキーノを求めるジャンさんを書きたくてこの、思わずルキジャンにしてしまいそうな題名でジャンルキ!にしました。
日々開発されていくルキーノとか美味しいと思います。3つ目の話になりますが、文章相変わらず拙いですが精一杯愛を持って、あと自分が好きなシチュを書けたので嬉しいです。読んでいただいた方ありがとうございましたー!!


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