透き通るような、なんて陳腐な表現になるが、それほどに白くきめ細やかな肌に、ほんのりとベビーピンクを頬に走らせて上機嫌に笑って見せる愛しい恋人。見事なゴールデンブロンドの髪を微かに揺らして小首を傾げる。 昔の俺だったら男のそんな姿を見ても気分を害すだけだったが、それを今は素直に可愛いと思えるのだから俺も随分と絆されたものだと思う。 「ったく、どんだけ飲んだんだ。そんな上機嫌になるほどに」 「大して飲んでねーって。ちーっとばかし役員のじいさん達と話が弾んじまってよ」 爺転がしと賞されるほどに上の役員の老いぼれ共に気に入られている我らが二代目カポ・ラッキードック・ジャンカルロ。今日は上のお偉いさん方に食事会に誘われて、日付も変わる時間帯に帰ってきたわけだが、その頃にはこの状態。足がおぼつかなくなるほど酔いは回っていないようで部下がここまで着いてこなければならないほど危うい状況ということはなかったが、それでも普段の飄々とした、何か含みのある笑い方ではなく、本当に楽しそうに自分の感情を全面に出して笑顔を見せているのにはそれなりに脳にアルコール成分が浸透しているらしい印象を受けた。 「ま、楽しい食事会だったなら良かったな」 「んー、ねーむーいー」 俺が喋っているのも綺麗に無視を決め込んで視界の端に唸りながらベッドに勢い良くダイブするジャンの姿が見えた。その姿に眉間に皺を寄せて寝返りを打とうとする奴の腕を掴んで身体を起こさせる。 「ん〜!な〜に、すんだよ!!」 「黙れ。そのまま寝るんじゃねぇ。スーツが皺くちゃになるって何度言ったらわかるんだ!」 苛立った口調でジャンのスーツを脱がしにかかれば、酔っている所為なのか眠くて単に機嫌が悪いだけなのか、両手を動かして抵抗を始める。 「おい、暴れるな!」 「いーやーだー!俺は今日はもう寝るのー!」 「寝るのは止めないが、それならスーツを脱いでからにしろって言ってんだろうが!」 「そんなこと言って、そのまま犯すつもりなんでしょー!いっつもいっつもー!そうはさせないんだからねー!!」 これは、予想外に酔いが回っているようだな。そう思えば自然と溜息が漏れた。 酔って感覚は鈍ってきているのかと思いきや、今のジャンにとってはそれは逆の作用を働かせているらしい。俺が漏らした小さな溜息を、奴は聞き逃さず、琥珀の眸を俺に向けるとすぐに鋭く睨みつけてきた。完全に目が据わっている。 「なーんだよ、何溜息ついてんの?俺の相手すんのそんなに面倒?」 睨みつけてきながらも俺の首に両腕を回して抱きついてくる姿を素面のままでやってくれりゃあ可愛いんだがな。と口にすれば目を釣り上げて余計に機嫌を損ねることを頭の中で思い浮かべながら俺はなるべくジャンの神経を逆撫でしないようにジャンの頭を宥めるように軽く叩いてやった。すると僅かながら眸を揺らして、俺の肩に顔を埋めてくる。 「ルキーノ、」 「ん?」 「へへ…、ルキーノ、」 「何だって、言えよ」 「別に、なーんも」 顔を上げて再び俺の方を見ると、嬉しそうに笑う。今はどうやら落ち着いているようで、不機嫌な様子は見せない。代わりに甘えるような声で俺の名を呼んでいる。何か用があるのかと思えば俺の名前を呼ぶというのが目的なようで、その先は特に意味はないらしい。適当に返事をしてやれば満足そうに笑っていた。 「なぁなぁ、ルキーノ」 「だから何だって聞いてんだろ」 「別に、特にない」 「何だそりゃあ」 「いいから!あんたは俺に名前呼ばれたら素直に返事してりゃあいいの!俺が呼んだらどこにいたってすぐ来りゃあいいんだよ!」 横暴な物言いでそう宣言しながら抱きついて回す腕に力を込めてくる。そんな中俺の肩に猫のように顔を擦り寄せ小さく息を吐いた。回す腕を下ろし、俺のスーツを掴むその所作に、普段ならスーツに皺が寄ると窘めるところであるが、離れるのを拒むように強く掴むその手を振り払うような言葉を投げる気が今日は起こらなかった。 「…あんたはずっと…俺の傍にいて…俺だけ見てりゃあいいんだよ…」 独り言のように呟く声は何だか震えているように聞こえた。不安を織り交ぜたようなその声は、知らず知らず、この愛しい存在を不安にさせるようなことをしていたのだろうか。見当もつかないと言えばそれは嘘になる。俺は気にしないようにしていただけで、気づいていないわけではなかったはずだ。俺の過去を常に気にして、それでも俺の傍にいようとする、こいつの内にある不安と恐れを。強がってはいるが、本当は誰よりも俺に見て欲しいと願っているこいつの心を。普段それを口に出すことをしないこいつに甘えて俺もそれにまともに触れたことはなかった。それが酒の力とは言え、表に出てしまっただけだ。俺もこいつが今正気ではないからと言って適当に相手をする気はない。 だが、俺にはわかる。俺がどんなにそんな不安も恐れも持つ必要はないんだと言っても、こいつは笑ってくれても信じてはくれない。今の俺がどんなにお前を見つめていても、不安や恐れが邪魔をして琥珀の眸は俺から目を逸らしてしまうことを。 本当に俺を見ていないのは誰だ?名を呼べば、すぐに来てくれないのは、見えるところにこの先もずっといてくれるのさえ危ういのは誰なんだ? そういった俺の不安も恐れも、酒の力を借りても吐露できない俺の心の内あるものに気づかないのは、お前の方じゃないか。 それでも、そういった苛立ちや理不尽を感じていてもやはり素直に愛しいと思う。俺に縋るように甘えてくるこいつが、手を伸ばす先にいることに安心するんだ。 「俺だけ見てろだって?カーヴォロ。そりゃあこっちに科白だ」 顎を捕らえて上を向かせ、ジャンが訝しげに眉根を寄せて何か発する前にその唇を自分の唇で塞ぐ。 奴の口から香る仄かなアルコールの匂い。普段だったら酒なんて何杯飲んでも酔わない自信があったのに、ジャンから香るその匂いだけで頭の芯が熱くなった気がした。こんな感覚、テキーラをストレートに飲んだって感じやしない。 「はっ、馬鹿だな…。本当に酔ってるのは…」 その先を考えるのを放棄して、ジャンの体をベットへと押し倒した。見上げる琥珀の眸が揺れる。さっきまで犯すつもりかなんだと抵抗していた奴がするにしては矛盾した表情をしていた。 「おいおい、そんな熱っぽい目で見て、何だかんだ言って期待してんのか?」 「う、うるせぇ…」 「はいはい、素直じゃない姫さまだ」 口の端を上げた後、もう一度噛みつくように再び与えた口づけに、またアルコールの匂いが濃くなった気がした。 甘やかな宴 ルキジャンで書かせていただきました。久々にルキジャン書いたわけですが、パーティの後、酔った勢いでルキーノに甘えるジャンって可愛いよなって妄想しながら書きました。 私の中の宴の、後の甘い時間をイメージしたつもりでしたが、伝わり辛かったらすみません。ここまで読んでいただきありがとうございました!! ルキジャンルキweb企画2010/9/5提出 |