ジャン→ルキのようなジャンルキ
主催企画文です


 















湿気の多い空気と、雑音みたいに残響する雨音が耳についた。

雨が降っていた。

雑音みたいに残響する雨音に混じって、乱暴に扉が開かれる音がしてソファに座っていた俺は指で挟んでいた煙草を口元に戻すのも忘れて音のした方へ視線を向けると同時に、扉が閉まる音が部屋中に響いた。もっと静かに閉めればいいのに。思うが口には出さない。
扉を隠すように立つ男の姿が目に入った。ローズピンクの髪も服も濡れていて、普段は髪も服装も隙がないほど完璧に決めている男を見ているためか、その姿は酷い違和感を俺に与えた。
煙草を指に挟んだまま静止している俺に構わず、男が床を力強く踏みしめながら俺の傍へやってくる。そして髪と同色のローズピンクの双眸を細め睨むように俺の姿を捉えれば、羽織っていたコートを雑に脱ぎ捨ててネクタイを解くように人差し指を引っ掛けて、俺の肩を掴み顔を近づけて実に簡潔に一言言い放った。

「抱けよ」

全くもって、可愛げも何もない強請り方だ。だけど、俺はルキーノにそうやって求められるのは嫌いじゃない。ルキーノの腕を掴んで引き寄せると、整った肉厚の唇に自身の唇を触れさせた。
湿った唇が雨のせいかそうじゃないかわからなかった。だが濡れて冷え切った体と違って重ねたルキーノの唇は確かな熱を帯びている。


俺達がこういう関係になってから大分経った。GDとの抗争の最中、ルキーノに対する中傷記事が街中を駆け巡った時、当の本人は精神的に参っていた。その最中、悪く言うと俺はそんなルキーノの心につけ入ったに過ぎないのかもしれない。だが、俺の中では純粋にルキーノを好きだという気持ちがあったし、さして抵抗もしなかったため(もしかしたらあの時のルキーノはやけになってそういう流れになってしまっただけかもしれないが)俺がルキーノを抱くのに他の理由はいらなかったように思う。
そしてその後もなかったことになどできず、またルキーノは俺に抱かれることを拒んだりもしないために関係が一度きりで終わることはなかった。無論、ルキーノから求めてくることなんて皆無に等しかったが、俺から求めたとしてもルキーノが嫌な顔をするところなど見たことがない。
だが、俺に抱かれて嬉しいという感情が、ルキーノの中にあるわけでもないのは、俺も気づいていた。

求めれば応える。願えば叶えてくれる。

だけど、それは俺が望んでいることであって、ルキーノも俺と同じ気持ちでいてくれているわけじゃあない。

ルキーノ、お前は気づいているのか?それに気づいている俺に気づいているのか?気づいていても、なお抱かれようとするのは――

誘うように手を引かれてベッドの上で組み敷かれて見上げる眸はちゃんと俺を見ている?それとも俺とは違う、もっと遠いどこかを見ているのか?
そう考えるとルキーノに触れる手が自然と止まる。だが、それを良しとしないルキーノは視線を動かして俺に無言で指示を出した。――続けろ、と。
そうされれば俺は従うしかない。俺はルキーノを抱いているというのに、主導権はルキーノに握られて流されているような感覚に戸惑いながら、それでも俺は奴を抱くことをやめるという選択肢は選ばなかった。
代わりに、ルキーノの体に触れながら言葉を紡ぐ。

「ルキーノ、今日は…雨だった…な」
「な、んだ、?」

俺の与える小さな刺激に見合う小さな反応をしながら、ルキーノは俺が何を言いたいのか判断できず、その答えを促すべくローズピンクの眸を向けてきた。

「雨の中、大変だったろ?…なんていうのは、失礼かな」

無理に口端を吊り上げて訪ねてみると、僅か、ルキーノは目を見開いたまま俺を見ていた。だが俺は気にせずまだ濡れているルキーノの髪を指で絡めたまま、歪な笑みを浮かべ言う。

「あれ、あの花、好きだったのか?可愛い花だよな」
「……ジャン、やめろ…黙れ」
「あの花みたいに、可愛い人達だったんだろうな。そりゃそうだよな。だって、ルキーノが選んだ――」
「やめろって言ってんだろうが!!」

絶叫にも近い怒鳴り声が、部屋中響いた。それに従ったわけではないが、俺はそれ以上言葉を紡ぐのをやめる。ルキーノはというと、俺を睨みつけた後、眉を顰めて視線を逸らした。
黙り込んだ俺達の間に雨の音だけが耳に届いた。仄暗い空の色は部屋に明かりがついていても時の流れというのを俺の中で狂わせていくのがわかる。雨と暗い空を窓枠に収めて、空間を切り取られたような部屋の中、こうしているとルキーノと二人だけ世界に取り残されたみたいだと、ぼんやり思った。

ルキーノはきっと怒っているだろう。触れられたくないことに触れた。さっきの俺の発言は、ルキーノにとって俺が入ることを許されない領分の話だったと、わかっていてわざと。そんな俺の思惑を気づいているのだろうから尚更、俺に対する不快感は募っているだろうと予想もできた。でも俺はそれに詫びる気持ちはこれっぽっちもない。だって、そんなことをしたって、ルキーノに嫌悪の眸で睨みつけられたって、ただ単純にルキーノに俺を見て欲しかったんだ。
そう思うほどに、いつから好きになったかなんて覚えていない。いい加減と思われるかもしれないが、俺は何故ルキーノが好きかともし本人に、本人ではなくてもそれ以外の誰かに聞かれたら笑顔で、だが正直に答えるだろう。――いつの間にか好きになっていたと。
その好きな相手と体を繋げ合って、今はこんなにも近くにいるのに、でもやはりどこか遠い二人の関係。報われる日が来るかなんてわからない。
それでも俺は追いかける。いつかルキーノに振り向いて欲しくて。諦めることなんてできない。街で偶然見かけた、白い花束を持って歩く姿。いつかその隣に行くことを許される日を願って。
だから、あと一つだけ。ルキーノに確かに言っておきたいことがあった。

「なぁ、ルキーノ。知ってたか?」

何だ、とは聞いてこない。眸はいつまでも逸らされたまま。それでもきっと聞いてはくれているんだろうと思って俺は構わず話し続けることにした。

「俺がな、ルキーノを抱くのって、ルキーノが好きだから、なんだぜ」

僅かにルキーノの眸が揺れるのを俺は見逃さない。俺は精一杯口元を笑わせるよう努力した。そうして力を入れないと泣いちまいそうだったから。それでも言葉を発そうとする口元が震えていなかった自信なんてないけれど。言っておきたい、あんたに――

「あんたに、罰を与えるためじゃ、ないんだ」

俺の必死の告白に、ルキーノは驚いたりしなかった。ただ、もう一度俺に眸を向けた。色男が台無しに見えそうな、今にも、泣きそうな表情で。凄く情けない表情だった。今まで見た中で一番みっともない表情だった。だけど、今まで見た中で、一番綺麗な表情だと、思った。
ルキーノは何も言わない。俺から顔を隠すように、俺の首に両の腕を回して抱き寄せてくる。
俺もそれ以上は何も言わない。ただ、ひたすらに今日も俺は愛しいその男を抱くんだ。

雨の音が止むまで。
いや、止んでからも、ずっと。塞いだ奴の唇が俺を拒む言葉を紡ぐ日が来たとしても。
それは俺の我侭だから。せめて、














(あんたが望むなら、この心ごと滅茶苦茶になっても)




2010/5/26











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作品提出遅くなりまして申し訳ありません。この度企画を主催させていただきました璃桜です。
私的に、この御題でいったのはどんな目に遭ってもいいからルキーノの傍にいたいジャンっていうのを書きたかったから、だったりします。切ないシリアスを目指したつもりですが、上手く書けた自信はありません。ですが書きたいものを楽しく書けたと思いますので後悔もしてません。

いつもは後書きとか書くのは凄く苦手なのです。私の場合言い訳がましいものになってしまうのが好きではないので日記とかに書くんですが、今回は例外という感じで一言失礼させていただきました。

この度は企画参加してくださった皆さまありがとうございます!!他の参加者さまの素敵作品に見劣りしてしまうことと思われますが愛を詰めてやらせていただきました。
これからもルキジャンルキ愛でやっていこうと思います。では、失礼します!






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